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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第六章 戦士たちの集結
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残されていた因縁

 水の流れが空へと向いた()(せん)(かい)(だん)は、魔法の自動階段(エスカレーター)となっていた。

 足を乗せても靴が()れることはなく、そのまま体をスルスルと上空の城──魔王のいる〝(せい)(てん)(ぐう)〟へと運んで行ってくれるのである。


 三人はディーネの指示に従い、自動階段(エスカレーター)に体を預けて天空へと昇っていく。

 その不可思議さに驚きながらも、ルナはけして表情には出さないよう努めている。

 これから憧れの男に会いに行くというのに、ルスタリアの王女たる者、(つね)に余裕のある態度を(つらぬ)くべきだ──と考えたからである。


 一見(いっけん)、浮ついているように見えながらも、こんな生真面目(きまじめ)な側面が、王家の娘として生まれ育ったがゆえの、ルナの美徳のひとつと言えるのかもしれない。


 だが、さすがに少女らしい欲求には(あらが)えず、ルナはちらりと隣に立つディーネを見た。


 青い空を背景にした水の精霊の横顔が、移動する魔法の階段の上で、ゆるい風にそよがれている。心なしか、甘い果実のようないい匂いも漂ってくる。


──近くでみると、ほんとやばい。あたしより、ふたつかみっつぐらい年上に見えるけど……でも精霊だから、本当の歳はもっともっと上なのかな?


 そう思いながらも、ルナは精一杯(せいいっぱい)何気なさを装う。


──この人の本当の歳を知りたい。つか、すっげーおっぱいなんですけど……あたしの十倍はあるんじゃん?それにリュネシスと、どういう関係?あいつと変な関係とか、絶対(ぜったい)(いや)なんですけど?


 ちらり、ちらりと気になる様子で、何度も自分を見てくるルナに気づき、ディーネがにっこりと微笑みかけてきた。


「実際にあなたに会ってみて、とても美しい素敵な方で驚きましたよ?ルナさん」


「え……?」


 目力の強い紺碧(こんぺき)の瞳に当てられて、少女はつい()(しゅく)する。


──やばい。おっぱいのこととか、考えてたのがバレちゃった?


 まるで、心の深淵(しんえん)(のぞ)き込まれたような気がした。

 だがディーネの言葉は、ルナの()(ねん)とは全く別なことであった。


「見ていたのです。あなたのことは──」


「?」


 きょとんと首を(かし)げるルナに、ディーネが解りやすくり返した。


「わたくしたちの魔法の水晶の映像でね」


「……そう……だったんですか」


 ようやく理解したルナの中で複雑な想いが()き上がり、少女は両手をきつく握りしめる。


──ひょっとしてこの人は、ルスタリアが(ほろ)ぼされた瞬間も見ていた……とか?


 あたかもルナの()(さく)を悟ったかのように、ディーネはうなずいた。


「そうですね……見ていたのはあなた方三人が(つど)い、こちらに向かわれた辺りから──お若く高貴なあなたが、とてもお(つら)い目に合われながらも大変な決意をされていること。わたくしは尊敬いたします」


「いえ。そんな……」


 ディーネの声には、まごうことなき()(あい)の色が()められている。一瞬その言葉に、ぐらりと心がほだされそうになったが、今は(つよ)く耐えた。


 水の精霊は、そんな少女の反応を、しばらくまっすぐに見つめて──やがて、その青い視線を限りなく広がる大空に向けた。


「この世界は、リュネシス様が創造(そうぞう)された異空間です」


 見なさいとばかりにディーネは、〝光の杖〟をもつ片手を(ゆう)()()いだ。後ろにいるふたりの(おとこ)たちも、黙って耳を傾けている。


「そこに、わたくしの水の魔力による仮想現実で新たな世界観を形造り、さらにアカーシャさんの幻術を上乗せして、我々の力で天界のような快適な空間へと仕上げたのです」


 ディーネは、ゆるやかに振り返った。


「あらためて、わたくしたちの精霊世界エストラーダにようこそ。あなた方が初めての来訪者です」


 言い終えるタイミングで、四人は天空の城に到着する。


 螺旋階段(エスカレーター)の終着点は城の階下の中央にあり、さながら聖堂を思わせる(おごそ)かで広い空間であった。


 ルナたちがそこに足を踏み入れた時、何やら大勢の人がざわめく声が聞こえた気がした。

 まるで(うたげ)喧騒(けんそう)を思わせるような──それは、目前にある大扉の向こうから()れ伝わってくる。


「あらあら。アカーシャさんたら……」


 ディーネが少し困ったように、()(れい)に整った口元を(ゆが)めた。


「百年前の因縁(いんねん)ある双頭守護神のお二方(ふたかた)のことは、あまり歓迎されてはいないようですね」


 そう言った彼女の笑みが、含みのあるものに変わり──唐突(とうとつ)に、切れ長の目に宿る紺碧(こんぺき)の瞳を、ふたりの(おとこ)のいる方にさり気なく流した。


 それが合図であるかの(ごと)く、大扉が音もなく開く。

 あたかも、いわくつきの舞台の演出が開始されたかのように──。


「これはご(ちゅう)(こく)なのですが……アカーシャさんの幻術の力は、このわたくしよりも上なのですよ?」


 意味(いみ)(しん)なディーネの言い回しを、しかし瞬時に理解したベテルギウスの表情が険しく変わる。


「見るな!ライガル!!」


 だが、友の警告にライガルが反応するよりも早く、開放された扉の向こうから(はな)やかな色や音が、洪水の勢いとなって大量に流れ込んでくる。


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