表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第四章 双頭守護神
48/90

死闘

 対峙たいじするふたりのエネルギーが、大地を奥底から揺さぶり続けている。張り詰めた大気が共鳴するように震え、辺り一帯に同心円状の波動を広げていく。


 いかなる魔導士も克服しえぬ致命的なウィークポイント——それは呪文発動時に必ず生じる完全無防備な状態にある。


 魔法という一種の超常現象を発現させるために、術者が放射(ほうしゃ)する途方もないエネルギーを喚起かんきするトランス状態にある瞬間は、最も危険な(すき)をさらす忘我の一瞬でもある。

 ゆえに、魔導士は呪文詠唱時には、自身を(まも)る前衛や護衛を配置するのが定石じょうせきであった。


 アカーシャは今、極大呪文発動時に必要となる詠唱えいしょう時間及び間合いを確保すべく、巨大なエネルギーフィールドを形成している。


 すなわち戦闘領域同等の強大な魔力の力場を構築こうちくすることによって、そこに無防備に踏み込む者の肉体が木端微塵こっぱみじん粉砕ふんさいされるほどの、悪魔的テリトリーを造り上げているのだ。


 それゆえ先手を封じられたライガルは、今は動くことができぬ。アカーシャの呪文発動までは耐え、その後に生じるであろうわずかなすきを狙う。

 ライガルは次なる攻撃に備えて、攻防一体の構えに移行していた。


 宿敵たる竜虎が一撃必殺の攻撃を狙い合っているかのように、相対(あいたい)する両者の間では、すでに息詰まるような超高度な攻防こうぼうけ引きがなされていたのだ。


「サザナード・ウィズナード・ルーイス・メルス・アゼゴレス……」


 やはり、先手の攻撃呪文に打って出たのはアカーシャの方であった。


 鮮血の薔薇ばらを思わせる唇が美しくらめき、炎の極大呪文を(つむ)いでいく。


 アカーシャのすらりと伸びた白い指が、二本から四本にそして五本へと移り変わり、優美に宙を舞い踊りながら複雑で()()(がく)(てき)な印を結んでいく。


 現世における炎の最上級呪文——過去に一度だけリュネシスとの戦いに使った、この地上で炎の魔女アカーシャにしか使いこなせぬ、極大呪文の発動である。


「大気に宿る炎の精霊たちよ。(いにしえ)の契約による獄炎(ごくえん)の力を示せよ。我が言葉の(しるべ)たるをなんじらの(かたき)見做(みな)せ——」


 アカーシャの全身から、圧縮された魔力とオーラが(えん)()のように燃え盛る。同時に高精度に目標を定める精神集中がなされ、かざされた掌の中に(まばゆ)い球状のエネルギーが(しゅう)(れん)し始めると——。


 魔少女のひとみが、目もくらまんばかりの紅蓮の輝きを放った!


爆殺流星弾(ヴォード・ヴィガー)!!!」


 次の瞬間、つやのある叫びと共に、巨大な火球が〝ゴオォウ〟と大音響をとどろきわたらせて射出された。


 それはあたかも、大空を割って炎の星が出現したかのような光景であった。


〝人〟の──否、それがたとえ〝魔のもの〟であろうとも、地上に生きる存在から生じた魔力により創造されたとは到底思えぬ、白色の尾を引く彗星——その威力は神の鉄槌(てっつい)に等しく、魔王を守護する無敵の巨神兵の巨体ですら()(たお)し、呪から生じる一万度を超える超高熱は、鉱石ですらも瞬時に溶解させるほどのエネルギーを秘める。


 その天空からの大災害を思わせる炎の大火球が、大気を引き裂く勢いで飛翔しライガルの巨体に炸裂(さくれつ)する。


 しかし——。


「ぬぅああああああああああああああ!!!」


 ライガルは()(たけ)びを上げ、拳で気合いもろとも巨大火球を振り払った。


 ドオォン!!と耳をつんざくような衝撃音が大きく響き、火の玉は軌道を変えてその勢いのまま宙に()退(すさ)っていく。


「!?」


 さしものアカーシャの貌にも、(きょう)(がく)の色が(よぎ)ったように見えた。


 直後、たけり狂った闘神が、神速の勢いで魔少女との間合いを詰める。

 同時に巨腕が容赦ようしゃなく振り上げられ激しい輝きを放ち、何者をも打ち砕く剛拳となって魔族の姫を襲来し、今度こそ彼女の肉体は叩き潰されるかに見えた。


 だが、この極大呪文には、さらなる一手が用意されていたのだ。


 アカーシャのひとみ赫奕(かくやく)たる光彩こうさいを放つ。魔少女の真の能力——真紅の魔眼が秘めたる力を発動させる。


 彼女独自の呪文駆式(くしき)を映像記憶として魔眼網膜(もうまく)に焼きつけ、三次元空間に投影(とうえい)させることで、複写するかの如く立て続けの極大呪文の発現はつげんを可能としたのである。


 それは本来、この世には存在しえないのう……。


 人類の魔法史上においても、またいかなる魔術の使い手であろうとも、そもそも発想も想像すらも及ばぬであろう「()(しょう)()(わざ)」とおそれるに相応ふさわしい悪魔的能力であった。


 呪文詠唱すらなくかざした掌から、アカーシャの魔眼の射光(しゃこう)呼応こおうして再度の極大呪文が撃ち込まれる。轟音とともに初弾の大火球に勝るとも劣らぬ、炎をまとった〝超新星〟が射出された。


 しかし、二度目の巨大光球がライガルを直撃したのと同時に、鬼神の拳はすでに魔少女に振り下ろされていたのだ。


 ドガアァーン!!!


 先刻の衝突音をもしのぐ物凄い振動音が、衝撃波をともない響き渡った。


 地は裂け、大気はかすみ、目もくらまんばかりの激しい光りが辺りをおおった。


 ふたりの魔人は、極限に近い互いの攻撃の威力にまれ弾け飛んでいた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ