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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第四章 双頭守護神
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波乱

 片足を折ってうずくまるライガルの全身が、金色のオーラに満ちていく。


 その場に太陽が生まれたがごとき圧倒的閃光(せんこう)が、周囲を(まばゆ)いばかりに照らし上げていった。無限の力が(ほん)(しゅつ)し、まだわずかな甘さを残していたライガルの(かお)が、みるみるうちに(あふ)れ出る光と共に非情なる鬼の(ぎょう)(そう)へと変わっていく。


 全身の鋼の筋肉が圧倒的なエネルギーで(ぼう)(ちょう)し、いかなる攻撃・打撃をも跳ね返す超重合金に匹敵する強度にまで高まっていく。

 爆発的な〝気〟の勢いが、辺り一帯の空間全体をも塗り替えんばかりに広がっていった。


Ω(オーム)


 際限(さいげん)なく湧き上がる闘気を内に秘めて、われ鐘のごとき声が(とどろ)いた。


 それは、明らかに先ほどまでのライガルを超えた〝別なる者〟であった。

 巨大な力の波動がうねりとなり、漆黒の魔少女の〝妖気〟をも(りょう)()して、周囲を完全に圧している。


 人を超えた〝現人神あらひとがみ〟──否、まごうことなき〝真の闘神〟の降臨であった。


 黄金の闘神は力強く立ち上がった。すでに全身の傷も、激しく放出される闘気にかき消されている。


「アカーシャ」


 覚醒した鬼神は、雷鳴のような声を発した。


「終わらせてやろう」


「!?」


 目を見開くアカーシャの背筋が、この時初めて緊張感に(こう)(ちょく)した。



 ―――― § ――――



「聖獣どもよ、かかれ!!」


 よく通る高らかな声が戦陣せんじんに響き渡る。


 それは身を(ひそ)め、戦いの時を待ち構えていた第三魔軍最強の巨獣たちをくびきから解き放つ、妖術師ケルキーの号令であった。

 主の命令に呼応して、魔獣の群れの中から一際(ひときわ)巨大な四体の獣たちが飛び出した。


 ケルキーの子飼いたる愛獣——〝スフィンクス〟たちである。


 (あま)()の魔獣を統括する第三魔軍においても、スフィンクスだけは軍の頂点である五妖星ケルキーの守護を(つかさど)り、四体のみしか存在しない。


 非常に知能が高く〝聖獣〟ともなぞらえられるこの獣は、その(とっ)(しゅつ)した戦闘能力に加えてあるじに対して強い忠誠心を持つゆえに、特に妖術師ケルキーの護衛として選ばれているのだった。


 聖獣スフィンクスたちは主の怒りをくみ取ったかのように、狂おしい目で大蛇たちを(にら)みつけ、腹の底から響き渡る(うな)り声を上げている。


 群れから飛び出した勢いを乗せ、聖獣たちは大蛇たちの鎌首をめがけて一気に飛びかかった。


 精強を誇る第三魔軍の中でも最大の攻撃力を誇るとされているのが、このスフィンクスの(こう)(ごう)(りょく)である。

 その威力は魔獣グリフォンの倍以上。数センチの厚みのある鋼鉄の鎧を装備した重装騎士ですらも、鎧ごと()(やす)く噛み殺すほどの破壊力を有している。


 巨神兵たちに()()()めにされた二体の大蛇の鎌首に、(またた)()(とう)(すう)ずつのスフィンクスたちが喰らいついた。


 無敵のはずの大蛇たちが、痛みと苦しみにのたうち回る。


 期待に表情を輝かせるケルキーの目前で、その大蛇たちの動きが一瞬止まったかに見え——。




 だがその瞬間、瞑想に(ふけ)るベテルギウスの口角(こうかく)が、わずかに吊り上がっていた。


 突然、大蛇たちの姿が煙のように()き消えた。


「!?」


 その現象にぜんとするケルキーは、しかし、すぐに相手が異界の召喚獣であることに思い至る。


——やはり召喚獣である以上、物理攻撃では()()(がた)いのか。それでも、ある程度のダメージは与えたように見えたが……?


 得心のいかぬよう眉を寄せたケルキーは、次の瞬間、宙を(ぎょう)()した。


——しまった!


 彼女の視線の先には、一度は消失しながらも、より高空に再現出した大蛇たちの威容いようが鮮明に(とら)えられていたのだ。


 (いきどお)りを()めて妖術師を(にら)んでくる大蛇たちの目が、口が、生きる者すべてを(とこ)()へといざなう攻撃の予兆に光り輝いた。


——まずい!!


 死の予感に身震いを覚え、ケルキーはとっさに魔杖まじょうをかざしながら身構える。


 その主を守るべく、スフィンクスたちが光を(さえぎ)る盾となり、地に伏せた彼女の上に(おお)(かぶ)さった。


 敬愛する主人の身を(かば)うために、恐ろしき光線の(にえ)となったスフィンクスたちの巨体の向こう側で、配下の軍団までもバタバタと命を絶たれていくのが気配で分かる。


——(くそ)ぅ……蟒蛇(うわばみ)ごときが!


 大事な部下たちと共に、目の前の愛獣スフィンクスの断末魔の痙攣(けいれん)をも肌で感じ、ケルキーはくやしさで噛みしめた唇から(うめ)きをらす。


——すまん。おまえたち……。


 怒りとやるせなさを持て余しながら、ケルキーは我が身をおおう愛獣の腹をそっと撫でた。


——おまえたちの死は、けして無駄にはしない。待っていろ。必ず奴らが……きっと……。


 美しき妖術師が「最期の望み」とする策にすがるような想いを()せたその刹那、思考が〝はっ〟と中断される。

 大蛇たちの攻撃の波動が、不自然に弱々しくなっていき、そして今完全に消えたからだった。


 ケルキーは、すでに(むくろ)と化していたスフィンクスたちを押し分けて立ち上がった。

 その目は素早く、大蛇たちが滑空(かっくう)していた宙に向けられる。


 大蛇たちの動きに(にぶ)躊躇(ためら)いが感じられた。


——もしや?


 これこそが、妖術師ケルキーの待ち望んでいた「最後の望み」であった。魔眼を()らせば、はっきりと見分けられる。


 第三魔軍侵攻における最大の障壁となっていた「結界」と「大蛇」が、今こそ消失しようとしていたのだ。






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