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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第四章 双頭守護神
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圧倒するアカーシャ

「フフフフフ……」


 アカーシャは、この上なく妖美に(わら)っていた。


 (かたわ)らで立ち尽くすライガルは、すでに()(まみ)れになっている。


 全力で突進し、満身の力を込めて放ったはずの幾百もの打撃がことごとく(かわ)されていた。

 いかなる闘神の攻撃も魔少女には通用しない。すべてが悪魔的な絶技で受け流されるのだ。


 朦朧(もうろう)とする意識の中、なぜ敵はライガルの猛攻を完全に予測できるのかと考える。


 ありえないことだった。


 いかにアカーシャが恐るべき魔軍の頭領とはいえ、その属性が「魔導士」である以上、接近戦において超一流の——しかも史上最強の「超拳士」の域にあるライガルの拳撃を、ことごとく〝見切る〟ことなど絶対に不可能なはずなのだ。

 この疑念を解き明かさぬ限り、これ以上、力任せの攻撃を仕掛(しか)けることに意味はない。


 ふらつく足元を精神力で支えながら、闘神は改めて紅い眸を持つ漆黒の魔少女に目を向ける。


 不可思議な輝きを放つアカーシャの目——妖魔の皇女とも呼ぶべき()(わく)(てき)な紅い(ひとみ)——それは限りなく()(れい)なきらめきを宿す魔性の紅玉(ルビー)——。


 それと深く視線が重なった瞬間、ライガルの(のう)()に一筋の光が()(つらぬ)く。


 あの魔眼……あの完全なまでの紅い魔眼で、すべてを予測しているのではないか!


 ささやかな(ひらめ)きが確信となり、同時に薄れかけるライガルの意識下層が、もう一つの真実を導き出す。

 闘神であるはずの漢の本心も、あの美し過ぎる娘を倒すことにわずかに(ちゅう)(ちょ)していたことを!


 ライガルは思わず、がくりと膝を落としていた。


「……笑止な。その程度の力で、この私に挑もうなどとは——」


 アカーシャの(れい)(えん)な貌に、いたずら好きの子供がするような意地悪な微笑みが、くすりと浮かび上がった。


「そろそろ死なせてあげましょうか?」


 誰の目にも勝敗が明らかな一戦の(ゆく)()——魔少女が優美な仕草で両手を重ね合わせ、呪文詠唱による魔力換気によって戦いに終止符を打とうとした、まさにその時である。

 (うつむ)くライガルの口元から、神が降りてきたがごとき重みに満ちた(どう)()(ごえ)が響き渡ったのは——。


ՑՓՁՂՂբձղ(ヴァロージュ)աՐՃՂՂՀՀճ(ファジュノ)ՔՑՁԳԴԴձ(モゲブラド)……ահՑՑՐՃձձՒ(アガモルイ)ՁԳԴԱՀմդՑՑ(イールゼル)


「?」


 アカーシャが、思わずぎくりと動きを止めた。


 真言であった。


()(とう)龍勁(りゅうけい)〟——それは、封じられた黄龍族の秘奥義である。


 体内の気脈に流れるエネルギーを、秘儀により高位次元の龍と同調させ、(じん)()を超えた域にまで高めることで超常的な力を得る。いかに優れた才能を持つ者であろうと、人の身では()(とく)できぬ。秘められし龍の一族の継承者でありながら「聖道」にも通じるライガルのみに習得可能な黄龍族の究極奥義であった。


 この〝奥義〟を体得した者は、高僧でもあった黄龍族の(かい)()のみ。

 その力は一撃で巨竜を打ち倒し、千の兵団をもひと()ぎにするものであったと言う。あまりに凄まじい闘神の()(わざ)であるために奥義の発動中は理性を失い、相手の命を断ち切るまで正気に返ることはない。神に(ゆる)され、選ばれた者にしか(おさ)められぬ、本来ならば、人の身に授かることの(はばか)られる最終奥義である。


 ゆえにライガルは自らこれを封じ、〝禁じ手〟としていた。


 その闘神ライガルの禁断の封印が今──解き放たれようとしていた。







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