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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第四章 双頭守護神
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佳境

「うぅぅおおおおおおおおおおおおっ!!」


 ()(とう)の勢いで(しっ)()し、アカーシャとの間合いを瞬時に詰めたライガルの拳が炸裂(さくれつ)する。数歩で最高速に達する、()(てつ)もない筋力から(しょう)じる神速の踏み込みであった。


 だが、この(きゅう)()にあっても、アカーシャの表情は変わらない。嫌味なまでの冷静さで、その紅い眸に冷酷な炎を宿らせている。


〝ごう〟と(うな)りを上げて、ライガルの拳が大気を引き裂く。


 岩をも粉砕(ふんさい)する圧倒的破壊力が、アカーシャに迫る。


 ()(はや)()けることのできぬ距離である。瞬刻後にそれは間違いなく魔少女の肉体を()(さん)させ、バラバラの(にく)(かい)と化していたであろう——。


 そう見えた刹那、アカーシャの薔薇ばらの唇が、密かに仕上げていた呪文詠唱の最後の一音を(かな)でる。


火炎連射(ヴァルゲージュ)


 呪の発動音と共に、ライガルの拳が虚しく空を切っていた。


 同時に、流れるように身を(かが)めたアカーシャの掌から炎のエネルギーが(しゃ)(しゅつ)する。いつ動いたのかも分からぬ、芸術的な連続動作であった。


「ぐはーっ!!」


 一瞬のスキのできたライガルの腹部に、立て続けに六発もの強力なエネルギー弾が叩き込まれる。一発が上級魔導士の最大呪文に匹敵する、途方もない威力の火炎弾であった。


 肉の総量にして魔少女の五倍はあろう闘神の体が、軽々と吹き飛んでいた。



 ―――― § ――――



 ベテルギウスは、ほぼ完全な瞑想状態にあった。


 召喚した高次元の御使いたちとの精神回路の同調のため、自身の肉体は昏睡(こんすい)させたままで、瞑想状態としての覚醒した意識を(たも)ち続けている。


 彼を(おお)う防御結界も増幅していく魔力に応じて、より強力なものと高まっている。


 ベテルギウスの意識は、一切の迷いのない神的精神状態であった。そのためにただ、心をさざなみひとつない静かな水面のように(たも)ち続けている。


 大蛇たちの目がベテルギウスの目となり、戦場での視覚情報は全て賢者の脳裏に流れ込んでくる。


——ん?あれは……。


 その大蛇たちの目が──ベテルギウスの意識が、異様な物を(とら)えていた。




「ザーザールヴェルグ・ルーナスリヴェルグ・レキーフヴェルグ……」


 呪文詠唱に入ったケルキーの低い韻律(いんりつ)が、前線の騒乱に(おお)(かぶ)さる。


 大蛇の攻撃の届かぬ安全地帯にまで素早く移動した彼女は、次なる魔法戦を仕掛けるために、己の周囲を聖獣スフィンクスたちに守らせつつ、隠し持っていた最強の魔術を発動させていたのだった。

 

 それは、魔王リュネシスから授かったもう一つの偉大なる力——封印された圧倒的魔法兵士を目覚めさせるための呪文であった。


 妖女の紫水晶の眸が白色の光を放ち、黄金の髪がうねる。


(ゆう)(きゅう)に眠る(たけ)き下僕たちよ。我が言霊に目覚めよ。大いなる力を、今解き放て!覚醒せよ巨神兵(ディブリエム)!!」


 ケルキーが振りかざした魔杖の宝玉が、赤く光輝いた。


 すると魔杖の(はっ)(こう)おうしたがごとく、妖女の背後の魔空間から物凄い地響きが()()こる。


 くらい空間の中で、巨大な何かが猛り狂っている。

 闇の中から姿を現そうとするそいつは、人の形をしているように見えた。


 だがそれは、人にしてはあまりに()(てつ)もない巨体を有している。


「がぁ——っ!!!」


 大地を震わせる凄まじい(ほう)(こう)(とどろ)かせて現れたのは、全長十メートルはあろうかという二体の怪物たちであった。


「フフ……魔王様より(はい)(りょう)した希少鉱石レアメタル巨神兵ゴーレムたちだ。覚悟するがいい。あの方が世界征服のために、己の手足とすべく生み出した最強の兵士たちの力を!!」


巨神兵ゴーレム〟——魔女王との大戦を見据えて、魔王リュネシスが創り上げた魔法生命体である。(あるじ)の命令のみに従い、一切の感情も知性も持たない。鉄より硬く重い希少鉱石レアメタル(たい)()ゆえに想像を絶する力を持ち、ほぼ全ての物理的・魔法的攻撃を受けつけず、また無生物ゆえに殺すこともできない。


 混迷(こんめい)極めるこの世界の戦場において、これ以上恐ろしい存在はない、まさに〝魔王の兵〟と呼ぶにふさわしい最強の擬似兵士たちであった。


「ゆけ!巨神兵ゴーレムたちよ!あの()まわしい蛇どもを叩き潰してやれ!!」


 闇色のマントを(ひるがえ)した妖術師ケルキーの白い指が、大蛇に向かって突き付けられた。


 ブオオオオ!!


 地鳴りのような雄叫びを上げ、巨神兵たちが突撃を開始する。


 攻撃の構えも防御の体勢も取らない、無茶苦茶な突進であった。

 しかし底無しの力を振るう巨神兵たちの猛攻(もうこう)の前には、魔族の戦士たちの持つ魔力や異能ですら意味をなさぬ。つまりいかなる者も、この怪物を止める手立てはないのだ。


 召喚獣である大蛇たちも、恐るべき強敵の来襲を認識し、鎌首を(もた)げて目を怒りに輝かせた。


 次の瞬間、大蛇たちから立ち(くら)むばかりの神的殺気が(ほとばし)り、二対の双眸から光のエネルギーが発せられた。

 膨大な光が巨神兵たちを包み込み──。


 ケルキーが、無意識レベルで反応したのも、まさにその刹那だった。


 妖女の眸の放光と共に、巨神兵たちに指示を与える精神集中が即座になされる。

 術者の命令を受けた巨大な二体が、さらに加速した動きを取る。


 大蛇たちから光の攻撃を浴びながらも、希少金属レアメタル巨神兵ゴーレムたちは全くダメージを受けた様子はない。

 太い腕をぐわっと突き出して、大蛇の鎌首にがっしりと組みついた。奥底からみなぎるが如き力強い動作だった。万力のような巨掌が、大蛇たちの頭を容赦(ようしゃ)なく抑え込んでいく。


 すでに動きを取れなくなった大蛇たちの頭から、行き場を失った光の波動が蒸気のように虚しく()(わた)った。


 (けん)のあった妖女の表情に、()(しょく)の笑みが浮かび上がる。


「そうだ!死んでも放すなよ!!」


 空を飛ぶ車両から降り立ったケルキーは、()()えを食わぬよう慎重に巨神兵たちの戦いの場に近づいて行った。


「そのまま一息(ひといき)に握り潰してやるがいい!!!」


 嬉しげに片手を()いだ妖術師ケルキーの(こう)(しょう)が、戦場の騒音を(あっ)して高らかに響き渡っていった。




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