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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第四章 双頭守護神
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賢者の逆襲

……荒野に、冷たく乾いた風が吹いていた。


 おごそかな一触即発の気配が、周辺一帯を(おお)()くしている。


 漆黒の魔少女と、黄金の闘神は、距離を開け向かい合い立っていた。


 観客一人いない孤独なステージである。しかし、それぞれが一国の命運を(にな)う、頂点に立つふたりでもあった。


「どこからでもどうぞ」


 アカーシャは左手で髪を耳にかけ、右手であでやかに誘うような仕草を取りながら、悪魔の心も溶かすであろう甘い声を響かせる。


「救世主伝説として語られる双頭守護神の力がどれほどのものなのか……この私にも、見せてみて?」


「むぅう!」


 ライガルの気高さに満ちた聖者の貌に、激しい険相(けんそう)が刻まれていく。


「ぬぅあああああ!!」


 構えに移ったライガルの全身から、凄まじいまでの闘気が噴き上がった。


「ほお?」


 それを見て、アカーシャは不敵に(わら)った。



 ―――― § ――――



 白い大蛇の目が、夜魔を思わせる底深い輝きを(とど)めた。高度な魔術を象徴する凝縮ぎょうしゅくするような光の線が瞳の奥に集中していく。邪悪な者たちに天罰を与えんとする絶大なエネルギーを溜め込んでいく。


 その刹那、ケルキーの目に信じ(がた)い光景が現出した。


 大蛇の目から、(あふ)れんばかりの白い光の本流が(ほとばし)ったのだ。


 その光に包み込まれた魔獣たちが、一瞬にして生気を失い崩れ落ちていく。三百体余りもの合成獣たちが悲鳴を上げる暇もなく、絶命させられていった。


 光の直接的洗礼を受けた魔獣たちはむろんのこと、近辺にいて、わずかでも光の影響内にいた獣たちは致命傷を受けたがごとく倒れ込み、苦悶の表情を浮かべ弱弱しく痙攣(けいれん)していた。


「な、何ィ!」


 理解を超えた現象を目の当たりにして、無敵のはずの妖術師の美貌に、(きょう)(がく)の色が張り付いた。


 白い大蛇が引き起こした力は、強制的な心肺停止であった。それにより強大なはずの魔獣たちが、瞬時に心臓を止められていたのだ。


 間髪かんぱつれず、対となる蒼白い大蛇がゆらりと大きく鎌首を揺らす。直後、激しく突き出した頭と共に大きく開いた口内から光輝く氷の息吹(ブレス)を吐き出した。


 それは、触れた者すべてを凍りつかせる光の波動──この圧倒的息吹の襲来により、白蛇の死の光を(まぬが)れていた周辺の魔獣たちが、次々と物言わぬ氷の彫像と成り果てる。

 さらに広がる氷の息吹は、後方の魔獣部隊をも呑み込み瞬時に凍死させ、命無き氷河の世界を拡散かくさんさせていく。


 それだけではない。

 たとえ()(ぶき)の射程外にいた待機中の魔獣兵たちであろうとも、無意識に吸い込んだ極低温の酸素に肺を凍りつかせて次々と息絶えてゆく。


 蒼白い大蛇が放ったのは極低温の冷凍波である。

 それは氷点下200度をも下回る絶対的な凍気によって、いかなる生物の命をも断ち切る〝死の世界〟の顕現(けんげん)であったのだ。


「な……何が起こったというのだ……これが……これが賢者ベテルギウスの魔術なのか!?」


 妖術師ケルキーは軍の指揮官として、常に先制攻撃を喰らうことのない前衛と中衛を見据える位置に身を置いている。


 だが、範囲外にいる彼女自身も、今こうして届いてくる薄い冷気の膜に底冷えするほどの寒さを覚えながら、つい先程さきほどまで健在していたはずの、最強のしも()たちの屍の山を右に左にと見渡していた。







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