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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第四章 双頭守護神
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魔少女の決意

「私がやらねばならぬのだよ。ケルキー」


 魔少女がまだ幼い声を、大人の女性の口調に変えて、重く──そして(つよ)く言った。


「魔王軍の中には、否──五妖星においてでさえ、私を認めぬ者たちがいる。私がリュネシスの後ろ盾だけで今の地位に()いていると、無理にでも信じ込みたいらしいな。馬鹿な奴らだよ。だからこそ私はその者たちに、我が力と決意を示さねばならぬ」


「アカーシャ様——」


「これは試練だ——私もかつて五万の軍を(ひき)いながら、リュネシスひとりに敗北した。だからこそ私は今、この魔王軍を事実上()べる者として、その過去にも打ち勝たねばならぬ。もっとも、あの男に敗れたことは、私が生まれ変わるきっかけにはなったがな……」


「……」


 遠くを見るアカーシャの(かげ)る貌が、悩ましいまでに美しく、そして気高く——ケルキーは思わず息を呑んで、背筋を固くした。


 彼女はもう、反対はできなかった。


「信頼しているおまえだからこそ、私の本心を話すのだ。ケルキー」


 静かに言った魔少女は、どこか寂しげに笑った。


「魔王様はご存じなのですか?」


 ケルキーはわずかに目元を(ひそ)めて、ただそれだけを聞いた。


「否——」


 アカーシャはゆっくりと貌をケルキーの方に向けて、友と認める妖女を見つめた。


「話せばリュネシスに助けを求めるようなものだ。それでは意味が無い。よいな?けしてリュネシスに伝えてはならぬ」


 ふーっ、と(つや)やかな吐息を吐きながら、髪をかき上げて耳にかける仕草を取るアカーシャの目に、これまで以上の真剣な光が宿っていく。


「ケルキー、聞いてほしい。この戦いの真の目的は、あくまで私とライガルとの対戦にある。第五魔軍をライガルひとりに壊滅かいめつされ、我が軍に動揺(どうよう)が走る今——私単独の力で奴を打ち倒せば、魔王軍の体裁(ていさい)(たも)たれる。それが魔王軍総帥としての私の責務だ。これをせずして口先や、与えたれた立場にすがるだけで我が大魔軍を治めることはできぬ。そして、もし奴が勝てば──万が一にも有り得ないことだが、もし奴が勝てば、ルスタリアの安全は保障するとの約束も取り付けている」


「はっ」


 口元を小さく(こわ)()らせるケルキーの紫水晶の(ひとみ)を、アカーシャは切願するように直視した。


「エルシエラ攻略の目的は〝精霊の羽衣〟にある。あれを万が一、魔女王軍に先取りされることになれば、我らの世界制覇の実現は大きく待ったをかけられることになるからだ——とはいえ、こちらについてはあまり無理はするな。私は母と同じやり方は望まぬ。おまえだけはこの意味を解ってくれような?」


「心得ました」


 念を押す魔族の姫の前で、深く頭を下げる忠実な妖術師の白い横顔に、壁をかざる竜を()したしょくだいの灯りが、不安の色濃い影をなして揺らめいていた。


 よいの闇は、どこまでも深い——。







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