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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第四章 双頭守護神
37/69

戦端

 ベテルギウスの(ひたい)を一筋の血がすっと流れている。


 ものすごい魔力である。


 ケルキーの放った稲妻はクレティアル城を破壊しただけにはとどまらず、ベテルギウスの(まと)う鋼鉄のような魔法障壁をも貫き、彼の肉体に直接的ダメージを与えていたのだ。


 しかし、瞑想状態にある賢者は微動だにしない。瞑目(めいもく)するその表情には一切の迷いも恐れもない。

 強力な雷撃は、銀色に全身を輝かせるベテルギウスの造り出した障壁部分だけを残して、周囲の床をぼろぼろに崩していた。


 ベテルギウスは、光る双眸(そうぼう)を薄く開けると呪文を唱え始めた。

 

 空間に溶け込む(ゆる)やかな詠唱が賢者の喉からつむがれると、その全身がふわりと白色の光に包まれる。


 すると、彼の額から流れる血が、たちどころに消えた。



 ―――― § ――――



 時を同じくして、ルスタリア北域——。


 ここウェルガンドは、平坦な土地がどこまでも続く、(こう)(りょう)とした大地であった。

 

 赤茶色の土におおわれた平野がほぼ全域を占め、それ以外は緑と湿地がわずかに点在しているだけの荒野である。


 その地に住まう者は少なく、小規模の村あるいは集落等が(いく)つかだけ散らばり、大きく広がるウェルガンド全体として一つの(ぐん)をなしていた。


 この北の辺境ウェルガンドにおいて、ルスタリアの運命を左右する、もう一つの激闘が人知れず幕を開けようとしていた。




 大地が死んだように、静まり返っている。


 真昼の時分であったが、天は北陸特有の(なまり)(いろ)の厚い雲に覆われ、陽の光は半ば(さえぎ)られていた。


 心なしかの緑が、ぽつりぽつりとあるだけの岩がちの平原——常にそよ吹く風が今はなく、不気味なほどの(せい)(じゃく)が一帯を支配している。


 胸をいやにざわつかせる嵐の前の静けさ——だがそれが本当の嵐なのか、何か別なる巨大な波乱の先触れなのか、今は分からない。


 遥か高みを吹く風が重い雲を吹き散らし、弱弱しい太陽がぼんやりと輪郭(りんかく)(のぞ)かせる。(はかな)い温もりを(こも)らせた薄い陽の光が、地上の風景をうっすらと浮かび上がらせた。


 それは、ウェルガンドの最も(へん)()な地にある村や集落からもずっと離れた、(せき)(りょう)に広がる無人のはずの荒野——。


 そこに、一人の〝(おとこ)〟がいた。


 大寺院を守護する鬼神像に命を吹き込んだが如き、荒々しくも完璧な肉体を誇る巨漢である。


 全身をおおう鋼のような筋肉は、はちきれんばかり。だが、そこには一切の不足も無駄もない。巨人に見受けられがちな、均衡きんこうな印象も全くない。


 いかなる天分に、いかなる鍛錬を積みあげていけばこのような肉体が完成するのであろうか。


 それは、武に生きる者たちが、理想として目指すべき終極の肉体の顕現(けんげん)であった。


 巨漢の貌も勇猛(ゆうもう)極まりない。


 針のように鋭く逆立つ金色の短髪が、眩しく輝いている。その下からのぞいているのは、同じく(にご)りない光を放つ金色の瞳。口元は意志の強さを示すよう固く引き結ばれ、全身の肌の色は雄々しいまでの褐色であった。


 ライガル・ゼクバ・レミナレス——竜の王国ルスタリアにおいて〝闘神ライガル〟の異名で知れ渡る救国の英雄。そして同国の王子でありながら、格闘史上並び立つ者がいないとされるほどの地上最強の拳士であった。


 ライガルは腕組みし、黙したまま大岩の上に座していた。その目は閉じられ、長く瞑目をたもっている。


 巨人の全身から、大気を震えさせるような底知れぬエネルギーがうねっている。並みの魔物たちでは、おそれに近寄ることすらできぬであろう、桁外れの闘気の(はつ)()であった。


 しかし、この漢に粗暴な印象は全くない。むしろ悟りを目指す修行僧に近い、高潔な気配すらただよわせている。


 漢は待っていたのだ。


 そのときが来るのを。


 ルスタリアの命運をかけ、自身の無限の力を解放すべき(とき)を。


 闘神の本性を〝ときはなつ〟ことが許される、戦いの(とき)が来ることを──。




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