それぞれの覚悟
東の砂漠を見つめるレミナレス王の顔色が変わる。
「な、なんという凄まじい大群なのだ!これでは……」
続く言葉をどうにか押し殺し、王は近衛隊長に問いかけた。
「ライガルと、ベテルギウスはどうした?」
近衛隊長は腰を折って、耳の遠い老王にもはっきり聞きとれるよう語気を強める。
「ベテルギウス様ならば、すでに戦いの準備をされ階上に籠もられております。ですがライガル様は単身……敵の総帥アカーシャを倒すために、いずこかへ向かわれました!」
「な、なんと!?」
その不自由な耳に、いきなり水でも注がれたがごとき驚愕に、老王の体がそり返った。
「そのライガル様より王に言伝が……必ずルスタリアを守るゆえ、王はただ、王のなすべきことを……と」
「……ううむ!」
表情の固まるレミナレス王の、瞳ばかりが不安に彷徨っていた。
―――― § ――――
クレティアル城、上階の簡素な一室——。
ベテルギウスはただ一人、結跏趺坐の姿勢で座していた。
周囲には防御結界を張り、精神集中を高めるため、いかなる者も居室内への立ち入りを禁じている。賢者の銀の瞳が虚空に向けられる。悩ましいまでにゆっくりと時間が流れていく。
だが、その取り残されたような空間の中で、徐々に膨れ上がる魔力とともに、神秘の眸が淡い光を放ち始めている。
すでに意識は高度な忘我状態になり、ベテルギウスの心眼が、エルシエラに迫りくる第三魔軍の姿を明確に捉えていた。
——魔軍の総数は五万……五万一千……否、五万二千以上……やはり想定以上の戦力だったか。だが、魔王リュネシス。そして炎の魔女アカーシャよ……天と地を追われながらも、地上を徘徊する忌みなる者どもめ。たとえこの地上であっても、貴様たちの想像を上回る力が存在することを思い知るがいい。
大賢者ベテルギウスの全身が、密かな闘気を宿して今——白銀色に輝いていく。




