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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第四章 双頭守護神
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立ち上がる闘神

 ライガルと王に直接的な血の(つな)がりはない。


 ライガルの一族は、レミナレス王家を守護する三大龍族のひとつ、黄龍族の正当なる末裔(まつえい)であった。

 

 黄龍族は遥かなる昔、神より授けられし秘拳の力で王家の盾となり、レミナレス一族を支えてきた。


 同族の歴代拳士の力はあまりにも凄まじく、神の拳士とおそれられ、心正しき者のみがその力を伝承していった。


 そして選ばれし最後の拳士が、終末の(とき)に正統なレミナレス王家の継承者を守るべき宿命を背負い、さらには予言に刻まれた〝光の皇子〟とともに立ち上がると言い伝えられてきた。


 龍の一族はその人ならざる力を得る代償に、(がい)して短命であった。


 母はライガルを産み落とした折に(はかな)くなり、その十年後に父も病没する。


 ライガルは一族の(おきて)に従い、幼くして黄龍族の跡目を継ぐ。

 孤独ゆえに青春の全てを拳に捧げたライガルは、名にし()う歴代拳士たちの中でも不世出と呼ばれるほどの超拳士となった。


 誰もがライガルをうやまい、同時におそれた。


 歴代最強の実力を有する龍の拳士の誕生は、すなわち大いなる闇の力による世界最終戦争の先触れではないか?


 事実、魔王リュネシスが降臨したのは、そのわずかに後のことであった。

 そして、それ以上に()(ぐろ)い闇の存在——恐ろしき魔女王ラド―シャの暗躍が、世界中で(ささや)かれるようになる。


 破滅の巨大な魔手が、世界をおおくそうとしている。

 皆が、やがて襲い来るであろう邪悪な滅亡の影を予感した。

 多くの人が未来に希望を持たなくなり、世界の行く末を案じずにはいられなかった。

 人々は、暗黒の時代に世界を救うべく現れるという〝光の皇子〟の降臨を祈った。



 ―――― § ――――



 ちょうどその頃。


 権威にも出世にも興味を持たぬライガルは荒れた世を捨て、人里離れた(へき)()にてただ独り、さらなる拳の高みを目指す者として求道の道を歩んでいた。


 この誇り高き拳士は、神聖な拳を極めるがゆえに非常に信心深く、利己的に願うことも求めることも一切なかった。そしてただ、己の力を神の導きに従い行使すべき時を、静かに待っていたのである。そのようなおとこであったからこそ、史上最強の拳士となりたのであるが……。


 やがて、子のないレミナレス王が、ライガルに目を止める。


 王は遠縁にあたるライガルを、己の跡取りとして迎え入れようとした。始めは丁重に断っていたライガルに、ならば代替案(だいたいあん)として、王は彼をクレティアル城の守護隊長として仕えるように命じた。


 そのような過程で一定期間、(しろ)(づか)えしていたライガルの、()(もく)(すう)(こう)なる人格に改めて惚れ込んだ王は、再度、彼に養子になるよう強く望んだ。また、王城の人々も賛成した。


 ライガルは、もう断らなかった。否、断れなかった。


 こうしてライガルは、レミナレス王子となった。

 ルスタリアの——ひいては世界の人々の未来を考え神の意志に従って生きるなら、今こそ与えられし定めに生きるべきだ、と彼は思い直したからだった。


 また現国王レミナレス四十七世には、暗君ではないにしても、名君とは呼び(がた)い危うさがあることにもライガルは気づいていた。


 人柄は良いのだが、不測の事態における思慮深さや、それに加えて激しい感情のふくがあったのだ。

 ゆえに、近い将来危機に(ひん)するかもしれぬルスタリアにおいて、力不足の現国王を(そば)で支える者が必要であると感じていた。


 そのライガルのうれいが今、最悪な形で非情な現実となってしまった——。



 ―――― § ――――



 ぐわっとライガルの両目が、激しい光を放って見開かれた。


 その無言の(いっ)(かつ)に、極度の興奮から我に返った王は、目の前の魔導士のしかばねと己の手元のレイピアを交互に見て震え上がった。


「あー!わしは何ということを、何ということをしてしまったのだ!!」


 王は、戦慄(せんりつ)に血走った視線を床の上で彷徨(さまよ)わせた。


「ラ、ライガル!ライガル!わしはどうすれば……ライガル!」


 悪夢のような現実を目の当たりにして、(おのの)(ぼう)(ぜん)と立ち尽くす王に、ライガルは脅かさぬようにゆっくりと歩み寄りその肩をがっしりと(つか)んだ。


 大きな手の中で、老人はまるで子供のように震えていた。


「すまぬ。ライガル。不甲斐(ふがい)ないわしのせいで、取り返しのつかないことに!わしはもう年老いた……どうなってもいい……だが、ライガル。レミナレス一族を……ルスタリアをどうか守ってくれ!!」


 老王は精気を無くした顔に精一杯の力をめて、涙ながらにそう訴えた。


 孤高の王子は(げん)(しゅく)かおで老王を見つめ、しばらく(もく)したままでいたが、やがてしっかりと(うなず)いた。


 

 この時ライガルは、独り王の責任を(かぶ)り、すでに単身で魔王軍と闘う決意を固めていたのである。






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― 新着の感想 ―
やはりまともな精神状態では無かったのですね。 どこが介入しているのかは不明ですけど、一気にきな臭くなってきました。 (´・ω・`)
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