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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第四章 双頭守護神
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ルスタリア




 ルスタリアは、人為国家最大の(はん)()を持つ王国である。


 その面積は南北に二千、東西に四千余りにも渡る。


 魔王リュネシスが()()す秘境アルゴスや、魔女王ラド―シャの支配する魔境ヘルヘイムのように、現世に()りながら幻の大地とも呼ばれるそれらを除く、世界十カ国からなる列国最強の王国でもあった。


 その歴史は、地上の中で最も古い。


 正統なる(いにしえ)の血統にして、秘められし竜の血筋からなるレミナレス王家に()べられたかの国は、地上で最も美しく豊かで平和に(あふ)れる楽土であった。

 気候風土は一年を通じて穏やかで、恵み豊かなる大地から得られる実りを(かて)に、遠い昔から多くの人々が静かで安寧(あんねい)なる暮らしを営み続けていた。


 魔王がかの国を、己の野望の第一の(にえ)としたのも無理はなかった。


 アルゴスに隣接する、人間界の(かなめ)たる王国なのである。世界征服の(きょう)(とう)()とするに、これほど適した国は他にない。


 もっとも、それを具体的に立案し、計画実行したのは魔王軍総帥──すなわち、魔王軍の事実上の頭目たる〝炎の魔女アカーシャ〟であった。




 魔族でありながら、その最も()(だか)き闇の君主である〝魔女王ラド―シャ〟にあえて反旗を(ひるがえ)す、混沌の大軍勢が存在する。


 後世の神話に、そして魔界の伝説にすらも永遠に語り伝えられるであろう、(ほま)れ高き戦士群として(たた)えられる現世界最強の戦闘集団——彼らが総大将として頭に(いただ)くのは、天界魔界をも震撼させる最強無比なる〝魔王リュネシス〟なのだ。


 その魔王のみょう(だい)を務め異形なる巨大魔軍を従い(たば)ねる者としての(きょう)()が、そして魔王リュネシスへの密かな想いが、さらには母ラド―シャとの因縁に終止符を打つべき宿命が、魔族の皇女アカーシャに世界征服をまずは為すべき責務として認識させていた。



 ―――― § ――――


 

 アカーシャの使者である魔導士が、ある日突然レミナレス王家の誇るゆう(きゅう)の巨城クレティアル城を訪れた。


 魔導士は、いと高き魔族の皇女アカーシャ——そして、それ以上の存在として背後に()す魔王リュネシスの偉大さを語り、服従する道を示し、無益な抵抗の愚を説いた。


「我らが美しき(あるじ)アカーシャ様は、断じて闇のもう(りょう)どもの如き(ざん)(ぎゃく)()(どう)(むね)とするものではない。無益なぎゃくさつなども好みはせぬ。だが、異端の魔軍たる我が同胞(はらから)もいずれは魔族。(ぞう)(ひょう)の一兵に至るまで、アカーシャ様の崇高な心得を理解させることはできぬ。武功に(はや)る者もいよう。蛮行に走る者もいよう。戦が始まれば名高き(おん)()の一族といえど、一切の情けはかけることはできぬぞ」


 老いて弱々しい顔を蒼白とする現国王レミナレス47世に、魔導士は冷たい(じゅう)(めん)を投げかけた。


「レミナレス王よ。アカーシャ様配下、五大魔軍の一軍でも動けば、この地はりゃく(だつ)じゅう(りん)の焦土と化すであろう。年寄りも子供も一人残らず死に絶え、女たちは我が軍のつわ者どもの()(えつ)(にえ)となろう。王よ。(いにしえ)より続く高貴なる竜の血筋を、このような惨劇(さんげき)に終わらせたくはあるまい。さあ、王よ。我が(あるじ)に従う道を選ぶのだ」


 眼を細めてにじり寄る魔導士の昏い瞳の光にあてられた瞬間、レミナレス王の心中で何かが弾けた。それは、常日頃から彼が密かに負い目としている王としての足りぬ器──弱さであった。


「黙れ!汚らわしい闇の狂徒め!!アカーシャがなんだ!?我らが卑しい(よう)(ぶつ)如きに籠絡(ろうらく)される(いわ)れはないわ!!!」


 老王は叫ぶと同時に、意外なまでの素早さで腰元のレイピアを抜き放ち、目前の魔導士の胸に深々と突き刺してしまった。


「な、何を……」


 一瞬のさんに魔導士は理解が追い付かず、(きょう)(がく)に目を見開いたまま、膝を落とし崩れ落ちる。


 王の(かたわ)らに付き従っていたライガルは、愕然(がくぜん)として顔色を失った。


 いかに戦の布告の使いであろうと、使者を切り捨てるは重い(きん)()。それは敵の王に唾を吐きかける行為に等しく、その瞬間に、敵勢との果てしない対立はけられぬものとなる。


 魔王軍の総帥であるアカーシャは、妖魔とはいえけして話の解らぬ相手ではないと聞く。せっ(しょう)を重ね形だけの服従に妥協することで、平和裏に治める道を()(さく)することもできたであろう。


 しかし、もう取り返しがつかない。


 しかもこれは、レミナレス王家の致命的過失として、魔王軍にこれ以上はない侵略の大義まで与えてしまったのだ。


 ライガルは、王の浅はかさに思わず奥歯を(きし)らせた。







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