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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第三章 炎の魔女アカーシャ
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去り行く魔物たち

 くろく塗りつぶされた、ふたりだけの暗闇の中で、リュネシスはぽつりと語りかけた。


「アカーシャすまない。おまえの物まで……私が勝手に奴らに(ささ)げてしまった……」


 アカーシャは、ゆっくりと近寄って来ると、リュネシスの腕の中にしなだれかかり(はかな)げに応える。


「いいのよ。たかが城や宝石じゃない……どうせこの世に、私たちだけの物なんて何ひとつないわ」


 そのまま彼女は、愛しい男の胸に(うれ)うる(まなこ)をそっと()せて──。


——お父さん、今までごめんなさい……プシュケ、ごめんなさい……本当にごめんなさい……。


 アカーシャは、すすり泣いた。


 それが少しずつ、物哀しい()(えつ)へと変わっていく。


 リュネシスは(めい)(もく)したまま、アカーシャの頭をいつまでもいつまでも大切に大切に()で続けた。

 彼にできる、精一杯の優しさで。彼女が永遠に、こうしていたいと思うほどに。


 どれほど長いことたったろうか——。


 ようやく()(えつ)(おさ)まりかけた頃を待って、リュネシスは安らかに(ささや)いた。


「アカーシャ」


「なーに?」


「すまなかった」


「私の方こそ……ごめんなさい」


 沈黙がおちた。

 このふたりの間だけの、ほろ苦く心地よい沈黙が——。


 今度はアカーシャが、リュネシスの胸にしがみついたまま、しなやかな白い指に精一杯の力をこめて密やかに言った。


「リュネシス……」


「うん?」


「愛してるわ」


「私もだよ。アカーシャ……」


 (かわ)いた声で、しかし、その言葉にわずかな温もりを(こも)らせて、魔王は穏やかに応えた。

 そして、しっかりと漆黒の魔少女を抱きしめた。


 ふたりはまた、長く重なり合っていたが──。


 (せい)(じゃく)が辺りを包み、夜の(とばり)が下りた頃、ようやく黒衣のふたりは体を離して立ち上がった。

 もう、ふたりの(かお)は、()(もの)が落ちたようにすっきりとしている。


 ふたりは歩き出した。心なしか軽い足取りで——。


「ねえ、リュネシス」


「うん?」


「これからどうするの?」


 アカーシャは、普通の幼い少女のように、無垢(むく)()(ぐさ)で聞いた。


「そうだな……」


 リュネシスは、優しく苦笑した。


「おまえはどうしたい?」


「わたし?」


「ああ。おまえのしたいようにしたい」


「そうね。だったら……」


 アカーシャは、()(わい)らしく口先に指を当てて()(あん)する。


「何もしないことをしない?可能な限り何もしない」


「そうだな。そうしよう」


「すべては、ただ、あるがままに——」


「ああ」


 ふたりは歩いた。

 (けが)れた心を抱えたまま、それでも正しい道を()(さく)するために。


 やがてふたりの姿は、白い月の〝クリスタルピアス〟と、赤い星である〝魔紅玉(ルビー)首飾り(ペンダント)〟の(りん)(かく)だけをキラリと浮かび上がらせて、しだいしだいに(おぼろ)()になってゆく——。


 そうして人々の記憶から彼らの存在が完全に失われたと同時に、ふたりの魔物たちは、幻想のように夜の闇の中に溶けて消えていった。





この世界の誰もが幸せでありますように——。

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― 新着の感想 ―
ん? (´・ω・`) 記憶から失われたと言うことは、二人の物語はひと段落でしょうか? 次から別の話かな? (*´ω`*)
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