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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第三章 炎の魔女アカーシャ
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魔族の姫《激闘編》

 そして、月日は流れた——。


 幼女は——アカーシャは、この上なく妖美な〝魔少女〟として成長し、やがてその天分(てんぶん)は、幼くして「火の精霊界」すら(しょう)(あく)するまでになる。


 魔少女は身分の上でも、そしてその実力も、魔女王ラド―シャの(こう)(けい)(しゃ)として恥じぬ、魔族の(おう)(じょ)として成り上がったのであった。


 しかし、アカーシャの心はいつも(くう)(きょ)だった。


 (さん)(らん)とときめき常に(たた)えられる「魔女王の娘」たる地位も、「魔族の姫」としての(きら)びやかな暮らしも、すべてが(むな)しいだけであった。


 人間への復讐を誓い、闘いの日々に身を投じても、強大な敵対者の息の根を止めても、やりきれない思いはただ(つの)るだけである。


 むしろ(れい)(こく)()(じょう)な母ラド―シャに利用されているだけのようで、ぬぐいきれぬ不快感だけが()き上がり、アカーシャはいつしか母とあからさまに反目(はんもく)し合うようになり、同時に一つの確信を()る。


——父が(ざん)(さつ)されたあの日の一幕(いちまく)は、すべて母が仕組んだのだ!


 だが、もう引き返せない。


 アカーシャには、すでに皇女としての立場と責務が確立されており、それを(みずか)ら捨て去ることは己の腕をもぎ取ることに等しく、(とう)(てい)できる決断ではなかったのだ。


 さらにラドーシャの持つ神のごとき無限の魔力には、最強にして無敵不敗を誇るアカーシャですら()(けい)(いだ)かずにはいられないほどであり、血の(つな)がりを道理に好まなくとも母には従わざるを得なかったのである。

 たとえ形だけではあろうとも——。


 ()()(うっ)(せき)する(いん)(うつ)な想い……。


 しかし、百年前のあの日、(とつ)(じょ)として世界中を(おお)いつくし宣戦を布告した若き魔王の()(だい)なる幻像(ヴィジョン)——全世界の誰もが(おそ)(おのの)く中、アカーシャだけには、それが大いなる崇高な〝神の影〟に思えた。


——あれは、母ラド―シャですら(りょう)()()るのではないか?


 あの幻像を()の当たりにした時から、アカーシャの胸の奥に強く(うず)くものがあった。

 気のせいだと簡単には受け流せない、(はげ)しく()かれ吸い寄せられるような想いと予感が——。


——行くべきなのかもしれない。私は……あの男の元に………。


 初めて感じる未知なる(しん)(きょう)()(まど)うアカーシャの元に、()しくも魔女王ラド―シャより、魔王リュネシス討伐(とうばつ)の大任が下される。


 建前はあくまで、強敵である魔王を()つ誇り高き要務──とのことであったが、聡明(そうめい)なアカーシャは、この申し渡しを(がく)(めん)(どう)()には受け取らない。


——これは、私と魔王との共倒れを狙おうとする卑劣な母の画策(かくさく)だな。フフ……いかにも腹黒い魔女王(あの女)の考えそうなことだわ。


 ()(はや)、肉親とも思わぬ母に対して憎悪に近い嫌悪感を覚えながらも、しかし、アカーシャは迷わなかった。運命の糸に引き寄せられる力を確かに感じる。

 さして未練のないこの命を、あの男と()(ちが)えるのも悪くはない。


——行こう。あの男の元に!


 かくして、アカーシャは母の(めい)を受け出陣する。


〝そして見たのだ!〟


 アカーシャ率いる魔女王の大軍団を相手に一歩も引かず、たった(ひと)りで闘いを(いど)もうとする若き魔王の姿を——内なる奥に身震いを覚えたがゆえに、アカーシャは(たけ)った。

 (せつ)()とはいえ、誇り高き魔少女の心を奪った者を、許す(わけ)にはいかない。


 しかし、魔王の力は——己のみに頼って立つ孤高の存在そのものが、魔少女を(うべな)()るほどに(けい)(れつ)で、生まれて初めて()み上げた熱い想いを、アカーシャは認めざるを得なかったのだ。


 そのようにして魔少女は、魔王と共に進む道を選んだのである。


 そして、ほどなくしてアカーシャには、リュネシス麾下(きか)〝魔王軍総帥そうすい〟としての地位が与えられたのは先にも()べた通りである。


 ただアカーシャには、それがリュネシスからの無言の敬意のように思えた。


 事実、魔王軍の最終決定権を持つはずのリュネシスが、アカーシャの(りつ)(あん)(よこ)(やり)を入れることは、まずなかったのだ。


 これは魔王にはない、魔少女の(すぐ)れた(じつ)()(のう)(りょく)を最大限に考慮しても、容易には説明の付かないことであった。


 魔王軍としての(めい)(もく)(じょう)、世界征服の野望は軍を維持(いじ)する上において、まず必要不可欠であるが、実のところアカーシャはそのような烈烈(れつれつ)たる征服戦争には、魔女王ラド―シャの配下にいた時から()んでいた。

 それが母との確執を生む、大きな要因のひとつでもあったのだが——。


 そんなアカーシャの本心を配慮したかのように、リュネシス自身も世界征服の野望を口にすることは(ほとん)どなくなり、軍の方針(ほうしん)そのものも全て魔少女の一存に(ゆだ)ねられた。

 まるで魔王が、己の権限を丸投げしたかのように——。


 ゆえにアカーシャは自由であった。


 リュネシスは当初ふたりの間に存在した、暗黙(あんもく)に近い約束すらもけして(たが)えはしなかったのだ。


 だからこそアカーシャは、リュネシスに()()わり(しん)()にすべてを取り仕切り、()(とな)える魔の大軍団を(たば)ねた。


 ただアカーシャは、リュネシスの信頼に応えたかったから——。




 その後、六ヶ月に渡り両魔軍の()(れつ)なる抗争は続く。


 魔王軍と魔女王軍の(あやつ)る大いなる魔力の戦いによって地上は焼き尽くされ、荒廃し、(ぜい)(じゃく)な人間たちはその犠牲となっていった。

 

 特に、幼い命が()(ざん)にも奪われていく悲惨な現実は、地上に地獄を(あふ)れさせたがごとき凄惨(せいさん)な光景だった。


 見かねたアカーシャは独断で、魔女王に対し休戦協定を申し入れた。魔王に裁決を(あお)ぐ余裕もないほど、ことは急を要していたからである。


 邪悪な魔女王の本心がどこを向いていたのかは解らぬが、意外にもそれはあっさりと受け入れられた。


 魔女王軍の被害も想像以上に甚大(じんだい)で、このまま突き進めばたとえ魔女王軍が勝利を収めたとしても、壊滅に近いダメージを受けることは必至であった。

 (ざん)(こく)()()()な魔女王であろうとも、さすがにそれだけは()けたかったのかも知れぬ。


 ともあれ休戦協定は、双方にとって不利益のない平等なものとして定められ、ようやく地上は一定の平和を取り戻した。


 何の断りもなく重大な決定を独断専行(どくだんせんこう)したアカーシャであったが、魔王軍の総大将であるリュネシスは、やはり一言も口を(はさ)むことはなかった。


 休戦協定にかかる()()(しょう)(だく)をもあっさりと了承し、その概要(がいよう)(しょう)(さい)についても魔少女に丸投げで、必要以上の関心を持とうとはしなかった。


 だがその後、これも不可解なのだが──魔女王軍の自国への挑発的な侵略に対し(いきどお)り、配下の魔軍を動員して本格的な反逆をしかけようとするアカーシャの動きに対してだけは、魔王は待ったをかけたのである。


——いまさら魔女王を恐れてのこととは思えない。ただ、よほど人間たちの(ため)に戦いたくはないのか。それとも彼は……。

 

 (せん)(けん)(めい)のある魔少女にすら理解の難しい魔王の()()が読めず、それだけにリュネシスはアカーシャにとって、この世界でただひとり興味の持てる存在であると言えた。


 アカーシャとて、つまるところ人間たちがどうなろうと知ったことではない。ただリュネシスの本心には、他に何か(ふく)みがあるような——。


 まとまりのない()(こう)(めぐ)らせながら、魔少女は静かに、魔王から(かす)かに匂う〝甘さ〟を想った。







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― 新着の感想 ―
魔女王が父親を罠に嵌めていたのか……読み違いをしていました。 成長が遅いとあったので、優秀な育成人材がつけられたのかと勘違いしていました。 既に成熟して独り立ちできる状態だったんでしょうね。 (。ŏ﹏…
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