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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第二章 修道女プシュケ
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魔王降臨

 その魔王ことリュネシスは、大広間のバルコニー近くでひとりどっかり腰を下ろし、静かに(ゆう)()えの世界を(なが)めていた。


 男の片手の中には、なみなみと酒が(そそ)がれた(さかずき)がある。


 しかし、何やら深く考え込み、手元の酒に口をつける素振(そぶ)りすらなく、ましてや酔いが回っている気配など()(じん)もない。


 この城から見える(あかね)(いろ)に染まった街の景観(けいかん)は、ギラギラと騒々(そうぞう)しく(にぎ)わい、輝き、昔からあまり代わり()えがしない。


 その光景に無言で視線を向けている魔王の(そう)(ぼう)が、(えい)()に細まり(こお)りつくような光を宿(やど)した。


 百年前——若者が〝魔王〟として目覚めた後の、闘争(とうそう)()(どう)の日々を、目の前の赤い空が(そう)()させる。



―――― § ――――



 あの日——リュネシスは、怒りの〝嵐〟と化した。


 ディアム城の者たちを皆殺しにし、アルゴスの新たなる()(しゃ)として名乗りを上げ、全世界に向けて高らかに宣戦(せんせん)を布告したのだ。


 同じ日、同じ(とき)に、空を(おお)う巨大な魔王の影を、世界の人々は見た。


 魔王は天地を()るがすがごとき(こう)(しょう)と共に、全人類の破滅を宣言する。


 それはまさしく〝悪魔狩り〟によって、(きょう)(らん)(ぼう)(ぎゃく)の地獄と()()てた、漆黒の世界に降臨(こうりん)する帝王の幻像(ヴィジョン)に他ならなかった。


 心正しい者には勁烈(けいれつ)(きわ)まりない「裁きの天使」の()姿(すがた)と見え、罪深い者にはこの世の滅亡を予言する、「大いなる悪魔」の顕現(けんげん)に思えた。


 世界は大混乱に(おちい)った。


 アルゴス国内においても〝黒の一族〟側の正規軍による反乱が各地で起きた。


 しかし魔王は、(かん)()なきまでに対立軍を(たた)(つぶ)し、一切(いっさい)(よう)(しゃ)なく根こそぎに(せん)(めつ)した。

 そして、その暴力と恐怖を徹底的に知らしめることで、まずは完全にアルゴスを手中に治める。


 その後は、()(とう)のようであった。


 世界を統べる〝十二人の王〟の内、積極的に悪魔狩りに()(たん)していた五人の王と、(あま)()いる配下の大臣、将軍、そして法王——彼らが一日おきに、一国ごとに、計ったような正確さと()(みつ)さで稲妻(いなずま)に打たれ、凄絶(せいぜつ)な死を()げたのだ。


 さながら地上を舞台に開幕(かいまく)した、()まわしき(どう)()(きょう)(えん)のごとくに——。


 物理的にも、魔法的にも、完璧な守備を固められた城内に()ながら、突如(とつじょ)として凄まじい雷撃(らいげき)を受けて(くろ)()げの(しかばね)となった国王。

 悪魔狩りの(たい)()雄弁(ゆうべん)に演説する()(なか)禍々(まがまが)しいまでの(こう)(しょう)と死の宣告(せんこく)(ともな)い、天を()いて()(らい)した光の剣——その閃光(せんこう)に、(たい)(しゅう)目前(もくぜん)で焼き殺され、灰と化した法王。


 それらは魔王の力と(きょう)()の見せしめとして、この上なく(まと)()、世界を恐怖のどん底に叩き落としたのである。


 人々の多くは元々、悪魔狩りの正当性に()(ねん)(いだ)いていた。

 そのため世界の悪魔狩りの旋風(せんぷう)は、アルゴス(かん)(らく)()(わず)(いつ)つの日を数えるだけで消滅したのであった。


 (げき)()した十三人目の、この世の影の王──〝魔女王ラド―シャ〟は、もはや自身の存在を秘めることもなく、(だい)()()な軍隊を自国の〝ヘルヘイム〟よりアルゴスに向けて()(けん)した。


 総数五万にも及ぶ魔女王の大軍団を指揮したのは、女王の一人娘アカーシャである。


 当時まだ十四ほどの、ほんのうら若き少女にしか見えぬその風貌(ふうぼう)は、しかしながら()(るい)なき美しさと()(げん)に満ち、その瞳に宿る底知れぬ(きょ)()は、獰猛(どうもう)悪辣(あくらつ)なる魔族の()れを従えるに足る、恐るべきカリスマ性をも秘めていた。


 対するはまだ、まともな軍勢(ぐんぜい)すら形成(けいせい)しておらぬ、(かく)(せい)したばかりであった若き魔王リュネシス。


 魔王(みずか)(あやつ)(ひき)いる、十体(あま)りの希少(レア)金属(メタル)の〝巨神兵(ゴーレム)兵団〟を前衛(ぜんえい)()き、七つの首を持つ〝風の龍神(りゅうじん)ティアマット〟の背に立ち、たった独りでアカーシャ(ひき)いる魔女王大軍団を(むか)()つ。


 (じょう)(しょう)()(はい)(あっ)()の戦闘集団を統率(とうそつ)する、アカーシャの()(じん)と作戦は完璧であった。

 また、空と陸をも()め尽くす圧倒的総力数は、出会う者すべてに確実な(ほろ)びをもたらす死神の超軍勢であり、アカーシャは自軍の勝利を信じて疑わなかった。


 だが——。


 戦端(せんたん)が開いてものの数分で、魔少女は悪夢を見ることになる。


 破滅と絶望の具現化である魔女王(はい)(りょう)の精兵たちが、魔王(じゅう)(ぞく)の龍神と巨神兵(ゴーレム)たちに為す(すべ)もなく蹴散(けち)らされ、あからさまな劣勢(れっせい)(おちい)ったのだ。


「ぐお——っ!!!」

「がぁ——っ!!!」


 龍神と巨神兵たちの(もの)(すご)(ほう)(こう)が重なり合い、大地と大気を()るがした。


 想像を絶する戦闘力である。


 魔王の実力をけして(あなど)っていた訳ではない。


 しかし、己の配下たる魔女王軍の絶大な戦闘力と、高度に確立された自身の戦術すべてを、ことごとく(くつがえ)されるなど、魔族の頂点に立つ者として永らく君臨(くんりん)してきた魔少女にとってあり得ないことだったのだ。


 動揺(どうよう)する胸の内を抑え戦陣(せんじん)見据(みす)えるアカーシャの目が、ほんのわずかに見開かれた。


 彼女の視線が(とら)えたのは、天を()う巨大な竜の背に仁王立(におうだ)ちとなり、大いなる力を(あやつ)る年端もいかぬ少年ではないか。


——おのれ!!


 怒りに(たけ)るアカーシャ自らが先陣(せんじん)に立ち、放ったしゃく(ねつ)の炎の呪文が巨神兵(ゴーレム)たちを襲う。


 その威力は巨大な(いん)(せき)のような勢いで、()(じゅう)にして(じゅう)(こう)希少(レア)金属(メタル)の巨神兵ですら、(かみ)(つぶて)のように軽々と弾き飛ばす。


 そして同時にその超高熱は、いかなる攻撃にも耐えうるはずの合金性の怪物たちをも、(あめ)のように瞬時に溶解(ようかい)させた。


 さらに連続して(たた)き付けられた凄まじい炎の玉は、巨竜の背で悠々ゆうゆうと腕を組む魔王をめがけて一直線に飛んでいく。


 しかし──。


 その巨大な炎の球体が魔王を包み込んだ瞬間に、少年の姿が忽然(こつぜん)と視界から消え失せた。


 魔少女の放った炎の極大呪文が、確実に魔王と龍神に与えたダメージの()(ごた)えはあったのだ。


 だが、その(せつ)()——爆発的な閃光(せんこう)に包まれ(まぶ)()に目を細めた黒衣の魔王が、直後に〝ニタリ〟と妖しく(ほほ)()んだのをアカーシャは確かに見た。


——幻影(げんえい)か?


 (いぶか)しむアカーシャは、すぐにその逡巡(しゅんじゅん)を打ち消した。


 (あか)い瞳を持つ魔少女の(しん)()は、その「魔眼」の()(のう)にある。

 彼女の()(じゅつ)(かい)()から()り出される(ぜっ)(たい)(てき)(げん)(じゅつ)の妖力は、母ラドーシャですら一目(いちもく)置くほどに完成された魔術を発動させる。


 それほどまでに(げん)(じゅつ)得手(えて)とするアカーシャを出し抜いて、逆に彼女に幻術を繰り出せる者など、この世に存在するとは思えない。


 ましてやあの瞬間に、魔法が働いた気配は全く感じられなかったはずなのだ。


「うっ」


 突如(とつじょ)として背後から強烈な〝殺気〟を感じ取り、アカーシャは(こお)りつく。


 そこから()るはずの無い手がすっと伸びていて、いつの間にか魔少女の(のど)(もと)に、光り輝く大剣を突き付けていたではないか──。


「なんだ……あれほどの魔力を振るう者がどんな化け物かと思えば、こんな小娘だったのか——」


 嫌味なまでに甘ったるい声が、辺りに響いた。


 すでに周囲の配下たる獰悪(どうあく)な魔物たちは、光のような剣撃(けんげき)惨殺(ざんさつ)されている。

 同時に無敵不敗を誇るはずのアカーシャの体が、強い金縛(かなしば)りに()けられ、身動き一つ取ることもできぬ。


 まさに、(かみ)(わざ)とも言うべき(しょ)(ぎょう)であった。


——これは魔法ではない。まさか失われた神の力……神霊力か?


(しん)(れい)(りょく)〟——アカーシャも、目の当たりにするのは初めてだった。


 魔王がたった今(かい)()見せた、瞬間移動(テレポート)念動力(サイコキネシス)


 それは確かに超能力の一端(いったん)ではあったが、俗に言う超能力の概念とは根本的にことにする。

 

 超能力の定義をも超えた高次元の能力——精霊や魔法の力を介さずして、()(ねん)だけでいかなる現象であろうとも引き起こす力。

 いん(りつ)からなるこの世の法則を超え、思考の力だけで因を飛び越え、(てん)(ぺん)()()の規模に至るほどの事象すら引き起こす、まさに神の力であったのだ。


 魔王の真の力を(さと)ったアカーシャに(こた)えるように、声の主は軽やかに語った。


 (よう)(れい)なる悪魔は、彼女の心すら読み取っているようだった。


「ああ……まだ、この〝力〟を使うつもりはなかったのだが、まさか私の(わい)巨神兵(ゴーレム)たちが、あれほど()(やす)く倒されるとは思わなかったからな。恐ろしい娘だ──本当に恐れ入ったよ」


 危険なまでの甘さで、(のう)()に響くような声だった。


「——殺せ」


 アカーシャは、ただそれだけを(ささや)いて、静かに眼を閉じていた。


 魔王が喉元に突きつけた聖剣——〝雷煌(らいこう)(せい)()〟と呼ばれる——から肌を通して感じられる底知れぬ(しん)()は、不死不滅である魔少女の肉体ですら、その不死性を無効にして、確実に破壊と死に至らしめるであろうことを(さっ)することができた。


 すでにアカーシャによる統率力を失った(あく)(ぎゃく)なる集団たちは、()()(きょう)(かん)()(つぼ)に飲まれ、〝風の龍神ティアマット〟の引き起こす猛烈(もうれつ)な竜巻の()(じき)となり、(かた)(ぱし)から吹き飛ばされ、あるいは切り刻まれていく。


 たとえティアマットの風の洗礼(せんれい)(まぬが)れた者がいたとしても、まだ半数以上は残存(ざんぞん)している巨神兵たちの信じがたい力に(たた)(つぶ)されていく。


 すでに戦場は、絶望的にして、一方的な殺戮(さつりく)の舞台と化していた。


「ぎゃーっ!!」

「に、逃げろーっ!!」


 兵たちは、もはや暗黒軍団としての意地も誇りもかなぐり捨て、我先(われさき)にと悲鳴を上げて逃げ惑う。

 魔女王兵団の生き残りは、今や三分の一ほどもいない。すでに壊滅(かいめつ)していると言ってよかった。


 覚悟を決めたアカーシャは、ただ(うつ)ろな眼で戦場を(なが)めている。


——これでよかったのかもしれない。もともと、母に与えられた非道な軍の存続などに未練も執着もない。これでよかったのかも……。


 アカーシャの唇が、苦味のある微笑みの形に(かす)かに(ゆが)んだ。


 たとえ、自分ひとりがこの場を生き延びたとしても、一軍団を失うほどの失態を犯せば、いかに魔女王の娘とはいえ処刑は(まぬが)れない。

 そしてどの道、冷血な母とは決定的な確執(かくしつ)もあったのだ。

 いずれは母の手に()けられ殺されていたであろう、と彼女は思う。


 さらに魔王にはまだ、隠し持っている実力が──底しれぬ力を秘める風と雷の魔力もあるときく。


 さしもの魔少女も(ぼう)(ぜん)()(しつ)となり、完敗を認めざるを得ない。


 アカーシャの紅く光彩(こうさい)の無い瞳には、人間の少女が持つ、無邪気な夢や希望などを一切(いっさい)拒む、果てしのない(きょ)()だけが(うつ)し出されていた。


 そう……もとより彼女は、死を望んでいたのだ。


「おまえ、私と同じ匂いがするな……」


 (なま)めかしい魔王の声が、ふと──魔少女に似た抑揚(よくよう)のない(ささや)きに変わった。


「おまえの目は美しいな——」


「!?」


 思わぬ言葉に、魔族の姫はわずかに動揺(どうよう)する。


「最初から捨てるつもりだったのか?その命を……ならば、私に(ささ)げろ——私と共に生きる意味を探そう」


 魔王の声には、何者もけして逆らうことのできぬ力が(こも)っていた。


 そして、(こく)()する境遇(きょうぐう)を持つ者同士の共鳴する想いが、強く()かれ求め合い——その短い静寂が流れた後、魔少女から躊躇(ためら)いは消えていた。


 その時より炎の魔女アカーシャは、無意味な生と死を放棄し、魔王リュネシス麾下(きか)においてちゅう(せい)(ちか)い、彼を守護する最初のひとりで最強の(ひと)りとなる。


 そこでこそ魔少女には、(だれ)(はばか)ることも(そく)(ばく)されることもなく、自由に生きられるという不思議な確信めいたものがあったからだ。


 以後、魔王リュネシス麾下(きか)において、想像を絶する統率力によって支配された、魔獣・魔物たちの大軍団が形成される。


 その大兵団(だいへいだん)主軸(しゅじく)として(ちょく)(せつ)(とう)(かつ)(たずさ)わったのは、誰をおいて他ならぬ漆黒の魔少女アカーシャであった。


 魔王軍〝総帥そうすい〟として全ての指揮を(ゆだ)ねられ、魔王リュネシス配下の巨大な軍団は、その成立後まもなく(じっ)(しつ)(てき)に、紅い瞳を持つ妖美な魔少女が永久にしょう(あく)することになる。


 先の大戦の後、地上の魔族の実に三分の一もの総数が、魔王リュネシスの側に付いた。

 それはまさにリュネシスの父である、いと高き天使の長であった者が、かつて引き起こした天界大戦の模倣であった。


 運命とはなんと、皮肉な(めぐ)()わせを演出するのだろうか……。


 その後、世界制覇を目指さんとする魔王軍のかんな猛攻が地上を席巻せっけんし、それに相対する魔女王軍とのせめぎあいが六ヶ月に渡って続いた。

 世界の()(けん)は魔王側と魔女王側に完全に二分され、両者のはげしい戦いによって地上は荒廃し、魔軍の戦いにまきこまれた人類の半数近くが死滅し、滅亡寸前にまで至った。


 以後、両者の間でひとつの条約が交わされる。

 互いに領地を侵さずとする無期限・無条件の「不可侵条約」が締結(ていけつ)されたのだ。


 ただし、この取り決めには裏があった。


 それは、あくまで魔族を対象とする魔族間だけの条約であり、その効力は人間には及ばない。


 これは解釈しだいでは、どちらの魔軍も人為国家を攻める程度ならば、戦を起こすことは可能となる。

 ゆえに前述の通り、魔女王側から人間だけを狙い撃ちにするような、国家間の小競(こぜ)り合いが収まらなかったのだ。


 この百年近く、魔王リュネシス配下の大軍団は、世界征服に向けた()(けん)戦争を半ば放棄している。


 来たるべき魔女王軍との真の戦いに(そな)え、不気味なほどの(せい)(じゃく)(たた)えて、沈黙する(あるじ)に付き従っている。



―――― § ――――



——ラド―シャか……。


 脳裏に浮かぶ様々な想いを反芻(はんすう)しながら、男はひとり盃を唇に運ぶ。


 遠くない将来、魔女王軍団との壮絶(そうぜつ)な大戦の予感を──次こそは両軍の()(ゆう)を決し、どちらかが死滅するまで戦わねばならぬであろう大いなる最終戦争の()(ちょう)を、若き魔王は感じ取っていた。


 プシュケはドキドキと胸を(たか)()らせ、魔王のいる大広間に足を()み入れた。


 今日はなぜか、整えたはずの心が大きく跳ね上がる。


 それでも乙女は、静々(しずしず)()を進めた。


 歩む先には動かない男の背が()る。


 その冷徹なまでに()()まされた横顔は、美しくも近寄り(がた)い王者の()(げん)に満ち、そして(あかね)(ぞら)の照り返しの中、(せつ)ない(うれ)いの色を(にじ)ませて——少女は思わずその色に()まれ、(かす)かに(すく)んだ。

 

「何かあったのか」


 魔王がこちらを向かぬまま、地獄の底から響いてくるような声で言った。


 先ほどの()(ごと)のことなのか、昨日、足を運べなかったことなのか——さすがにプシュケも一瞬躊躇(ためら)ったが、どうにか冷静さを(たも)ったまま応える。


「いえ。別に何もありません」


 その言葉を受け、魔王はゆっくりと(かた)()しに振り返った。


 若者の耳たぶを飾る闇の(はく)(げつ)(かたど)ったピアスが——天界にすらふたつと存在しない、光の()(せき)で創られた神々の至宝〝クリスタルピアス〟が、その超神秘的な力の一端(いったん)を現すかのように、キラリと発光した。


「忘れるな——おまえの〝つとめ〟は、ただ私の(そば)で仕えていることだ」


 昨夜エレナがしゃしゃり出て、プシュケの()()(あい)()げ、(みずか)らが魔王の〝たしなみ〟の役を申し出た。


 気づかぬふりをしながら、真相(しんそう)を悟っていたリュネシスであったが、(だま)ってエレナとその取り巻きたちの好きにさせた。


 魔王である自分が()(まつ)なことに口を(はさ)むべきではない。そう思ってのことだったが──むしろ、それこそが悪知恵の働くエレナの計算であったのだが──結局は、ここのところ慣れ親しんだ、プシュケとの穏やかなくつろぎの時とは真逆の(けん)()(かん)()え切れなくなり、彼女らを(しっ)()して追い返したのだった。


 (そう)(めい)なプシュケは、魔王の(よう)(そう)から昨夜に起きたであろう(いち)(まく)を、薄々(うすうす)ながら推察(すいさつ)する。


「はい。申し訳ございません」


 胸元で華奢きゃしゃな両手を握って()びる少女の表情は──咲いたばかりの花のように、明るく嬉しげに弾けていた。







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― 新着の感想 ―
アカーシャとの出会い。こんな出会いなら嫉妬で短慮は起こさなそう。 と、言うことはエレナが最初の被害者となってしまうのか。 エレナは自らおっ立てた破滅フラグを回避できるのかが見ものですね〜。 ⁽⁽◝(•…
描写がとても丁寧で、情景が自然と浮かんできました。 世界観と登場人物がとても魅力的で、あっという間に物語のなかに引込まれていきました。 心の柔らかい部分が刺激される素敵なお話に没頭しては時間が経つの…
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