006 グリムレイパー
【エルクハーデ村】
叶人とエニャはレベル上げにいそしんだ。あれから数日間が経過した。その間、草原地帯と宿屋を往復する日々が続いた。
叶人は自分の体に白い光が立つ回数を数えていた。累計9回立ったので、おそらくいま彼は10レベルである。レベルが上がるにつれてステータスも上がったのか、草原のモンスターを簡単に倒せるようになっていた。
村にはスキル鑑定屋という建物があり、そこで覚えているスキルを鑑定してもらうことができた。叶人の覚えているスキルは、十文字斬り、プロテクトシールド、そしてユニークスキルの目力の三つである。
ちなみに目力の効果は、二秒間視界にいる対象を怯ませるというものである。スタン効果に似ていた。
代わってエニャの覚えているスキルは、ファイアーボール、サンダーショック、ヒール、ヘイスト、そしてユニークスキルの気合いためだった。気合いための効果は、彼女が次に使うスキル効果を増幅するというものだった。
五日間が経過した頃のことだ。二人が村の広場を通りかかると、人々が集まっていた。
この数日間で村には人が増えていた。叶人やエニャの後からも人が電子生命体となり、このゲームに送られているのだろう。いま広場には十数名ほどの人間がいる。
誰かが声高に喋っている声がした。
「ねえ、叶人。あれなんだろう」エニャは立ち止まり、広場に指を向けた。
「分からん。行ってみるか?」
「うんうん、ちょっと覗いてみよう」
「分かった」
二人は人だまりの隅に移動した。目の前のベンチの上では、ポン吉という名前のプレイヤーが両手を開いて大声を張っている。
「みんな! 山の洞窟のドラゴンを倒しに行こうぜ! そいつを倒せば、この村の村長から森の地図がもらえるって話だ!」
ポン吉は背が低く、オタマジャクシのような両目にたっぷりとした肉厚な唇をしていた。小男のような印象を叶人は覚えた。
ポン吉のベンチの後ろには、彼の仲間らしき男性が何人かいる。最初の日に会ったtubakiという名前の男性もいる。ポン吉は続ける。
「この村の南出口の先は、迷いの森になっている! 次の町に進むためにはどうしても地図が必要だ! みんな! 次の町へ進むために、ドラゴンを倒そうぜ! 今ここに俺たちは、ギルドを結成する! ギルドの名前はグリムレイパーだ! みんな、グリムレイパーに入ってくれ!」
話を聞いているみんなが、お互いの連れ合いと顔を向け合っている。叶人は両腕を胸に組み、さてどうしたものかと思考を巡らせた。
山の洞窟にドラゴンがいるという話は初耳だった。だが、それは村長に話を聞きにいけば分かることだろう。だから、ポン吉が嘘を言っている訳ではないと思った。
「どうする?」エニャが顔を向けて小声で聞く。
「分からん。とりあえず、村長に話を聞きに行った方が良いと思うが」
「そうだよね」
その時だ。人垣の中で手を上げて発言する者があった。
「質問良ーか?」肩口で髪を切りそろえたボーイッシュな女性だった。
「なんだ!?」ポン吉が顔を向ける。
「あたいたちはゲームクリアをしても意味が無いと思うんだが。このゲームから出られる訳じゃねえ。だから、次の町へ行くメリットを教えてくれ」
「そ、それはだな……」
ポン吉は下を向いて言いよどんだ。顔に脂汗をかいている。少しして両手をグーに握り、また声高に叫ぶ。
「ゲームクリアをしても意味が無いと言ったが、それはゲームクリアをしないと分からない話だ。意味があるかもしれない。意味は無いかもしれない。だけど俺たちは、ゲームをクリアする以外、他にすることが無いじゃないか!」
「やることが無いからと言って、命をかける必要があるのか、それ? その、ドラゴン退治にさ。この村で安全に暮らすっていう選択もあると思うんだが」
「確かに言われてみればそうだな! だから、この招集は強制じゃない! 次の町へ進みたい、ゲームをクリアしたい! そう思う奴だけが、グリムレイパーに入ってくれ!」
「ふーん」
ボーイッシュな女性はどう思ったのか、人垣を離れて広場を出て行ってしまった。ポン吉は続ける。
「ここに残っているみんなは、ドラゴン退治をしに行くということで良いか!?」
また人々が連れ合いの人間とささやき合う。そして数人が人だまりから離れて行った。
エニャがまた声をかけてくる。
「叶人、どうするの?」
「少し考える時間が必要だな」
「そうね」
ポン吉は最後にこう言った。
「出発は今日の午後一時とする! 行くって奴らは、その時間にまたここに集まるように! 遅刻するなよ! そんな奴は置いて行くからな!」