005 武器屋
【エルクハーデ村】
朝起きると宿屋を出て、叶人とエニャは大衆食堂で朝食を摂った。パンをスープにつけてかじりながら、彼は尋ねた。
「そう言えばエニャも、『小説家になろう』の作者だったのか?」
「そうだよ! 女性向けのBLを書いてた」エニャはポークソテーをフォークで口に運ぶ。
「BLか。それはなかなかだな」
「なかなか、ってどういう意味?」
「いや、良いんじゃないかと思ってさ」
「ふーん。まあ、もちろん男性読者はいなかったと思うけどね」
「本名を作者名にしたのか?」
「漢字は変えたよ」
「そうか。まあ当たり前だよな」
「うんうん。叶人はどんなのを書いていたの?」
「俺は、異世界転生のバトルものだな」
「異世界ものかー。評価ポイントはどのぐらいだった?」
「……100を超えたぐらい」
「ふーん。どんなジャンルも難しいよね。評価をもらうためにはさ」
「ああ。まあ、俺たちにはもう縁の無い話かもしれないけどな」
「今頃、現実では本物の叶人がプロになっているかも」
「まさか!」
「あるかもよ。アニメ化もしているかも」
「よしてくれ。そこまで俺は実力無いよ」
「ふーん。私は叶人の小説を読んだこと無いから、何とも言えないけど」
「それより、今日はどうする?」
「とりあえず、二人とも武器を買った方が良いと思うんだ」
「武器か。確かにな」
朝食を終えると、二人は支払いを済ませて大衆食堂を出た。歩いて村の武器屋へと向かう。目的の建物はすぐに見つかり、玄関から中へと入った。
カウンターの奥にはいかついオッサンが立っていた。両腕を胸に組み、口には紙タバコをくわえている。叶人はおずおずとカウンターに進んだ。
「すいません。武器が欲しいんだが」
「お前、職業は?」
「両手剣です」
「お前、『小説家になろう』の評価ポイントはいくつだ?」
「は? え、ええっと、代表作なら、100を少し超えたぐらいでしたけど」
「そうか。じゃあこれだ」
いかついオッサンはカウンターの下からオモチャのようなナイフを取り出した。それをカウンターに置く。
「銅貨20枚だ」
「あ、あの。店の奥にはもっと強そうな剣がいっぱい並んでいますが?」叶人はさすがにたじろいだ。
「おめーの武器はこれだ。買うのか? 買わねえのか?」
「あ、あの!」
「買わねえのか!?」
「ひっ、か、買います」
「よーし、売ってやろう」
叶人は仕方なく、カバンから銭袋を取り出して銅貨20枚を支払った。オモチャのナイフを手に取る。刃の部分は鋭利な鉄製になっているが、しかし小さすぎる。
今度はエニャが前に出た。
「あの、あたしも武器が欲しいんですが」
「嬢ちゃん、職業は?」
「魔法使いです」
「『小説家になろう』の評価ポイントはいくつだった?」
「えっと、78でした」
「これだ」
いかついオッサンはカウンターの下から竹箒を取り出した。それをカウンターに置く。
「銅貨20枚だ」
「あ、あのー、箒じゃなくって、武器が欲しいんですが」
「買わねえのか?」
「いえ、そうじゃなくって」
「買わねーのかあ! ああん!?」
「……買います」
エニャは支払いを済ませ、竹箒を手に入れた。それを両手で上下に振っている。見るからに頼りない武器だった。
というかこれらは武器なのだろうか? 疑問だった。二人は気落ちを表情に滲ませながら、武器屋を出る。
「またの来店、待ってるぜ」
最後にいかついオッサンが渋い声をくれた。外の地面に出て、二人は顔をつき合わせる。エニャがくぷぷと笑った。
「良かったね、叶人。そのちっちゃなナイフがあれば、子供と遊んであげられるね」
「お前こそ、その竹箒で掃除に精が出せるな」
「くぷぷ、馬鹿にしてる?」
「馬鹿話にしかならん」
「なんでこんな武器しか売ってくれないんだろ」
「知らん。小説の評価ポイントが高くないとダメなのか?」
「そうかも」
「とりあえず、昨日と同じ場所で狩りに行くか?」
「そうね、武器を試してみましょう」
二人は村の北出口へと歩いて向かった。