003 初めての狩り
【エルクハーデ村、出口付近の草原地帯】
村の出口に看板が出ていた。この村の名前はエルクハーデというらしい。初心者の渓谷とも書いてあった。
叶人とエニャが歩いていくと、草原にはプレイヤーらしき人物がポツポツといた。誰もが素手でモンスターと戦っている。人数は6人ほどである。
モンスターの頭上にはHPバーが出ていた。そこに名前も記載されている。草原にいるモンスターは、スライム、ゴブリン、おっとりとしたイノシシである。
エニャが言った。
「よし。それじゃあ叶人。モンスターを倒しに行って」
「は? モンスターを倒せって、攻撃すればいいのか?」叶人は驚いて振り向いた。
「攻撃する以外に倒す方法があるの?」
「いや、無いと思う。武器は無いし、蹴ればいいのか?」
「うんうん、蹴っちゃって」
「わ、分かった」
叶人は近くにいた、おっとりとしたイノシシに近づいて軽く蹴りを放った。
「ぐひぃっ」イノシシが怒ったような声を上げる。
「ご、ごめん!」叶人は条件反射で謝った。
イノシシはこちらをターゲットしたのか、獰猛な牙を光らせて向かってくる。叶人は逃げるように攻撃をひょいひょいとかわした。エニャが焦ったように声をかける。
「何やってるの叶人! 倒して!」
「倒してって、可哀そうじゃないか!」
「相手はモンスターよ!」
「そ、そうかもしれないけどさ」
叶人はため息をついて、イノシシに相対した。突進を避けて、その腹を思い切り蹴りつける。イノシシが横に転んだ。
「ぐひぃぃっ!」
「や、やっぱり可哀そうだ」叶人の表情が歪んだ。
その時だ。エニャが両手を突き出して唱えた。
「ファイアーボール!」
彼女の両手から火の玉が射出されて、イノシシに命中した。獣がごうごうと燃え盛る。イノシシは地面でジタバタと暴れて、やがてHPバーを無くした。
獣が赤い光となって消失する。その場に銅貨を三枚落とした。
叶人はびっくりとしていた。エニャはファイアーボールを使えるようだ。どうやって使えることを知ったのだろうか?
それを聞いてみた。
「え? 最初から使えたよ? あたし、魔法使いの職業だし。適当にファイアーボールって唱えてみたら、火の玉が出たの」
「そうなのか? 使えることはどうやって確認するんだ?」
「確認の方法は知らないなー。あ、ちなみに私、ヒールも使えるよ?」
「そうなのか?」
「うんうん。ダメージを受けたら回復してあげるから、叶人はどんどん戦っていいよ」
「あ、ああ。分かった」
それから叶人とエニャは狩りを繰り返した。モンスターの落とす銅貨を拾うと、すぐに二人のポケットはパンパンになった。一度引き上げることにして、村の道具屋でカバンを買うことにする。
草原を出ようとした時のことである。狩りをしていた一人の男性が近づいてきて、話しかけてきた。
「君たち、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
叶人とエニャを振り向いた。その男性は、男にしては髪が長く、清潔感のある人だった。叶人は前に出る。
「どうしましたか?」
「いや、あの。君たちも『小説家になろう』の作者だったのかなと思って」
彼のHPバーには、tubakiと名前が表示されていた。おそらく作者名なのだろう。
「はい、そうですが?」
「良かった。できれば僕たちのおけるこの状況について、話ができればと思うんだが」tubakiは側面の髪を手でかいた。
「そうですね。俺としても、誰かと意見交換がしたいと思っていました」
「そうか! ちなみに、君はどう思う? この状況」
「尋常な状況ではないと思います」
「そうだよな」tubakiは顔を上げて乾いた笑い声をあげた。
「はっきり言って、何をどうしたらいいのか分からずにいます」
「僕もだよ。いきなり電子生命体にされて、このゲームに連れて来られて。ゲーム科学発展のためだったかな? 良い迷惑だよ、本当」
「そうですね」
エニャが叶人の背中の服を引っ張った。彼はどうしたのかと振り向く。
「どうした? エニャ」
「叶人、行くよ!」
「ん? いま話し中だが」
「いいから! 行くよ!」
エニャは叶人の手を取り、引っ張って歩き出す。そのせいでtubakiをその場に残して、二人は村に入ることになった。叶人は怪訝な顔をして尋ねる。
「どうしたんだ? エニャ」
「あの人、気持ち悪いよ」
「気持ち悪い?」
「私の体をじろじろと見て、ニヤニヤとするんだもん。絶対悪い人だ!」
「そ、そうなのか?」
叶人はエニャの体に顔を向ける。歩いていると、やはり大きな胸がゆさゆさと揺れている。これでは男なら誰でも見てしまうと思った。
「うん。あの人には関わらない方が良い! 絶対」
「まあ、俺としてはどっちでもいいけど」
「うん。とりあえず、カバンカバン!」
二人で道具屋に行った。カバンは一つにつき銅貨十枚と安かった。他にも銭袋や帰還の札など、持ち金で買えるものを買った。
帰還の札を使用すると、最寄りの村の広場にワープできるというものだった。使い方は道具屋の店員のNPCが教えてくれた。
レムの名前をtubakiに変更しました。