012 服の作成
【エルクハーデ村】
翌日、大衆食堂のテーブルを四人で囲んで朝食を摂っていた。サーヤが賑やかに肩を揺らしていた。
「お姉ちゃん、お友達たくさんできて良かった」
「ああ、そうだな」
「お友達たくさん! お友達たくさん!」サーヤは嬉しそうに両足をぶらぶらとさせる。
「おい叶人。今日は何するんだ?」
ルルアが気恥ずかしそうな顔で叶人を見た。彼はフォークで目玉焼きをかじり、咀嚼してから言った。
「とりあえず、レベル上げのために山の方に狩りに行こうと思うが」
「それぐらいしかやる事なんて無いよね」エニャは両手でコーンスープの器を持ち、すすっている。
「あるぞ、やること」ルルアが両手を胸に組む。
「どんな?」とエニャ。
「この村の服屋に素材を集めて持って行くと、服を作れるらしいんだ。その服は防御力が高い上に、汗をかいても汚れないっつう話だな」
「へえ」叶人は感心したようにつぶやいた。
「それは是非作りましょう!」エニャは瞳を輝かせている。
叶人とエニャはこれまで、服は汚れたら捨てて新しい物を買っていた。捨てる理由は、数着買っても置いておくところが無いからである。下着だけはカバンの中に換えを入れていた。
ルルアが人差し指を立てる。
「ああ。だから、食事が済んだら服屋へ行こうぜ。集める素材の情報を仕入れなきゃいけないからな」
「うんうん。どんな服が作れるんだろ」
「まあ、金で買える服よりはオシャレなんじゃねーか?」
「あたちも作る?」サーヤが人差し指で自分の顔を指さした。
「おう。サーヤも作るぞ」
「わーい! あたち、可愛いのが良い!」
「このゲームは服が防具なのか」叶人がつぶやいた。
「そうかもしれないな」ルルアは頷く。
四人は朝食を済ませると、支払いを終えて村の服屋へと向かった。今、服屋のカウンター前で女三人がカタログを眺めている。作る服を選んでいるのだった。
「あたいはこれがいいな」ルルアがえんじ色のオフショルダーのワンピースを指さす。
「あ、それ可愛い」エニャがにっこりと微笑んだ。
「だろ? あたいはこれに決めた」
「あたしはどれにしようかなー」
「エニャも少し派手なものにしたらどうだ?」
「うーん。あたしはこれ!」エニャは紫色の魔法使いローブを指さす。
「こんなもっさりとした着物にするのか?」
「だってあたし、魔法使いだし」
「まあ、エニャがそれで良いのなら、良いけどよ」
「あたち、あたちはこれが良いー!」サーヤはロリータファッションのドレスが気に入ったようだ。
「おう! サーヤはその白いドレスだな」
「うん! あたち、これ着たいー!」
女性陣はそれからもカタログをめくっては着物の写真を眺めた。やがて気が済んだのか、エニャがカタログを叶人に渡す。
「はい叶人。叶人も選んで」
「ああ」
叶人は帳面のメンズの欄をめくって、すぐに決めた。黒のレザージャケットとデニムのズボンである。全員が服を決めるとエニャが店員のNPCに尋ねた。
「あの、服の素材はどこで入手できますか?」
「服の素材は、この村の西の丘にいるグレートシープを倒すと落とします。羊毛というものです。羊毛がいくつ必要かは服によって違うので、カタログを確認してから行ってください」
「「ふーん」」
エニャとルルアは鼻を鳴らして、それからまたカタログをめくった。自分が作成するために必要な羊毛の数を確認し、全員がそれを覚える。NPCがまた説明するように言った。
「羊毛は大きいので、村の大工屋でリアカーを買って行くことをお勧めします」
「リアカー?」ルルアが眉をひそめる。
「リアカーなんて必要なんだ」とエニャ。
「あたち、リアカーに乗りたーい」サーヤは右手を上げてぴょこんと跳ねた。
「リアカーを忘れずに買って行ってください。では、お待ちしています」
店員のNPCが恭しく頭を下げる。そしてみんなで服屋を出た。今度は村の大工屋を探して歩き出す。
大工屋に行くと、リアカーは銀貨5枚の値段がした。みんなで均等に出し合ってそれを一つ買う。引いて歩くタイプのものであり、かなり大きめだった。
引くのはもちろん男性の叶人である。サーヤは本当に荷台に乗りこんだ。まるで遊園地のジェットコースターに乗っているようにはしゃいでいる。
「楽ちん楽ちん! 叶人、もっととばして!」
「悪いがこれで全速力だ」
「叶人もっととばして!」
「これでもとばしてるんだ」
そんな光景を見て、前を歩くエニャとルルアがクスクスと笑っている。叶人は子守をしている気分になってきた。しかし叶人は子供好きであった。
……サーヤがいるおかげで、みんなの雰囲気が明るいな。
……良いことだ。
そして一向は村を出て、西の丘へと行くのだった。