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011 ルルアとサーヤ



 【エルクハーデ村】



 叶人とエニャはレベル上げに励んでいた。ファブリオンを倒さなければ次の町へは進めない。倒せるようになるまで強くなろうというのが当面の目的であった。


 もちろんグリムレイパーに負けないようにという目標もあった。二人は狩り場のランクを上げて、少し山を登ったところでホブゴブリンやオークなどを狩った。


 その日の夜のことである。叶人とエニャは狩りを終えて、宿屋へと歩いていた時だ。村の出口の方で、人々の悲鳴が聞こえた。



「誰か! 助けてくれー!」


「こいつを、こいつを倒してくれー!」



 二人は立ち止まり振り返った。顔を向け合い、眉をひそめる。



「どうしたんだろう?」エニャが心配そうな声で言った。


「分からない。行ってみよう」



 叶人とエニャは(きびす)を返し、元来た道を早足で戻った。広場の方へ行くと、三名の男性が走って逃げてきている。その後ろには大型のモンスターがいた。


 鷹のような顔をした二足歩行のモンスターだった。その頭上に表示されている名前を見る。



 ――中ボス、デスホークアイ。



 敵は片手に大きな斧を持っている。中ボスに出くわしたプレイヤーたちが、戦っても倒せずに、村まで引いてきてしまったようだ。叶人はすぐに「プロテクトシールド」と唱えた。



「叶人! 戦うの?」


「ああ。俺たちで倒すぞ!」


「倒せる?」


「分からん!」



 叶人の武器は未だにオモチャのナイフだった。それを右手にモンスターに相対する。デスホークアイに斬りかかっていった。



「ヘイスト!」



 エニャが加速の魔法をかけてくれた。叶人は敵を斬っては逃げる。それを繰り返した。


 ボスのHPは減るのだが、しかし自然回復がとても早い。 叶人は叫んだ。



「エニャ、バックアタックしてくれ!」


「分かった! ファイアーボール」


「ヘイトハウル!」



 叶人はこれまでの間に、ヘイトハウルというスキルを覚えている。敵のターゲットをこちらに向けることのできる、タンク職には必須のスキルだった。それを使い、叶人はターゲットの維持をしつつ、エニャが魔法攻撃を浴びせる。


 しかしデスホークアイのHPは減らしてもすぐに回復した。二人だけでは火力不足が否めなかった。エニャは悲観した。



「ダメだよ叶人! 敵のHPが減らない!」


「くそ! どうすりゃいい!」


「私たちも逃げよう!」


「もうちょっと待ってくれ!」



 二人が粘っていたその時である。彼らの間に走る黒い影があった。小刀を両手に、その女性はデスホークアイに斬りかかる。


 別のプレイヤーの援護だった。女性は叫んだ。



「おい男! お前、そのまま敵を引いてろ!」


「誰だ!?」


「誰でも良いだろ! そのままボスを引きつけていてくれ!」



 彼女は小刀を振り回し、「月影」と唱えた。五連撃がデスホークアイの背中を切り裂き、大きく血しぶきが飛ぶ。ボスのHPがごりごりと削れた。



 ……強いなこの女!

 ……これなら行ける!



「ヘイスト!」



 エニャがその女性に補助魔法をかけた。女性の小刀を振る速度が上がった。叶人は「ヘイトハウル」と唱えつつ、円を描くようにその場を走り回る。


 それから二分も経っただろうか? 「キュアアアア!」と不気味な声を上げてデスホークアイが地面に沈んだ。赤い光になって消える。


 叶人はぜいぜいと息をしたまま立ち止まった。女性の頭上のHPバーを見る。ルルアという作者名の彼女も肩で息をしていた。


 どこかで見たことのある女性である。確か、グリムレイパーの招集の時に発言していた女性だ。



「すまん、助かった」


「いいけどよお。このボス、どこから来たんだ?」


「分からん。誰かが村まで引っ張って、逃げてきたみたいだ」


「ふーん。まあ、倒せて良かったよ」



 エニャが駆け寄ってきた。



「すごいすごい。ルルアさん、つよーい!」


「へっ! こんな雑魚から逃げるなんて、相当弱かったんだな。逃げてきた奴らは」


「私は恵里菜です。エニャって呼ばれてます」


「あたいはルルア」


「俺は叶人だ」



 三人が名乗り合ったその時だ。横合いから小さな女の子が走ってきた。



「お姉ちゃーん!」


「サーヤ!」ルルアが小さな女の子に体を向ける。



 そのツインテールの女の子はルルアの腰に抱きついていった。女の子の武器なのだろう、弓を持っている。叶人は怪訝な表情になった。



 ……ルルアの妹か?



「お姉ちゃん強い強い強い」


「ああ! あたいは負けないぞ!」



 二人がじゃれ合う微笑ましい光景に、叶人とエニャは笑顔になった。エニャが聞いた。



「ルルアさんの妹さん?」


「ああ。あたいの妹だ。サーヤって言う」


「姉妹で『小説家になろう』に投稿してたの?」


「まあ、そういうことになるな」



 サーヤは小学校低学年ぐらいの年にしか見えなかった。叶人は疑問に思った。



 ……この年で小説を書いていたのか?

 ……まあ、そんなこともあるのか。



 叶人はデスホークアイが落としていた銀貨二枚を拾った。そのうち一枚をルルアに差し出す。



「これ」


「ああ、もらっておく」ルルアが受け取った。


「ねえ、叶人! ルルアさんを勧誘しちゃおうよ!」いきなりのエニャの提案だった。


「勧誘? 勧誘って何だ?」ルルアが眉をひそめる。


「そうだな!」叶人は頷いた。



 叶人とエニャは顔を向け合い、それからルルアとサーヤに向き直った。彼が聞いた。



「ルルアさん。貴方、もうどこかのギルドに所属していたりするか?」


「ギルド? そんなもんに所属してないけど。というかそもそもこのゲーム、ギルドなんて作れないじゃねーか」


「私たち、作ってるんです! 口約束で作ってるだけなんですが」とエニャ。


「ふーん。それで? あたいにもギルドに入れと、そういうことか?」


「良かったら」叶人はぎこちない笑みを浮かべた。



 ルルアはサーヤと視線を合わせる。サーヤは両手を腰に当ててルルアを守るように立った。



「お姉ちゃんは渡さないよ!」


「いや、別に取る訳じゃないよ」エニャは表情をひきつらせた。


「おめーら良いのか? 入るんなら、サーヤも一緒に入ることになるが」


「かまわない」叶人は間髪入れずに答えた。


「あたちも入れてくれるの? じゃあ、いいよ!」サーヤが顔をほころばせる。


「入るにしても、あたい、あんたたちの事良く分かんねーからさ。見学的な感じなら、入っても良い」


「それでいいです!」エニャが声を張った。


「そうか。じゃー、よろしく頼む。ええっと、エニャさん?」


「エニャでいいわ」彼女が右手を差し出す。


「あたちはサーヤ。いたずらっ子なの」サーヤがエニャの右手を両手で握った。


「いたずらっ子とか言わなくていいぞ」ルルアが優しい瞳でサーヤの頭に手を置く。続けて聞いた。「ギルド名は?」


「花鳥風月だ」と叶人。


「ふーん、花鳥風月ねえ。まあ、妹もろとも、よろしく頼むわ」


「よろちくびー」とサーヤ。



 みんなが笑った。こうしてこの夜、ルルアとサーヤが花鳥風月に加入した。



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