010 ギルド
【エルクハーデ村、宿屋】
宿屋の一室のベッドで、叶人とエニャは並んで腰掛けていた。彼女がしきりに彼の背中をさすって、慰めてくれている。おかげで、次第に叶人は感情の乱れが収まった。
「エニャ、もういいよ」
「叶人、大丈夫?」
「ああ、ありがとう。もう平気だ」
「良かった」
エニャが叶人の背中から手を離す。部屋の掛け時計を見ると、まだ午後の四時過ぎだった。いつもなら狩りをしている時間だったが、二人とも今日は行く気になれなかった。
叶人は両手を組んで言った。
「あいつら、絶対に許さないぞ」
「そうだね。いつか復讐しよう!」
「ああ。だけどそのためには、もっと人数が必要だ」
「仲間を集めるの?」
「そうしたい」
「じゃ、じゃあさ。ギルドを作ろうよ。私たち」
顔を向けると、エニャが素敵な笑顔を浮かべている。叶人は小刻みに頷いた。
「そうだな。ギルドを作るか」
「うんうん、グリムレイパーだっけ、あんなのに負けないぐらい、うーんといっぱい仲間を集めて、みんなで助け合うおうよ」
「団長は誰がやるんだ?」
「そりゃあ、叶人でしょ」
「俺か?」
「当然でしょ」
「そうか。まあ、いいけど」
「うんうん。あー、なんかあたし、楽しくなってきた!」
エニャはウキウキして両足を揺らす。叶人もまんざらでも無かった。
「ギルド名はどうする?」
「ギルド名かー。可愛くて格好いい名前が良いな」
「可愛くて格好良い? そんな名前あるか?」
「そう言う名前を考えるの!」
「ふむ……」
それから二人はギルド名にふさわしい名前を出し合った。様々な候補が出た。叶人は言った。
「花鳥風月が良いんじゃないか?」
「花鳥風月って、ありきたりすぎじゃない?」
「そうだけどさ。誰でも知っている分かりやすい言葉じゃないか。英字の名前にして、変に格好つけすぎるのもどうかと思う」
「まあ、それはそうだけど」
「俺は花鳥風月を推す」
「まあ、叶人がそれで良いんなら、それで良いよ」
「いいのか?」
「うん。ギルド名は花鳥風月にしよう」
「決定だな」
「うんうん! よし、それじゃあ明日からは仲間集めだ!」
「仲間集めか。慎重に集めないとな」
「慎重に? どうして?」
「だってさ。グリムレイパーのメンバーみたいな悪い奴を仲間にしたら、面倒だし嫌じゃないか」
「まあ、確かにね」
「ああだから、仲間集めは慎重に行こう」
「分かった」
そしてここに、ギルド『花鳥風月』が誕生したのだった。