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最強の人造人間

 バロンとライムは、塔の最上階に到着した。

 かなり広く、十人ほどが雑魚寝できるくらいのスペースがある。階段の向こう側には、鉄製の扉が設置されていた。扉には、覗き窓も付けられている。やはり、要人を囚えておくための部屋なのだろう。

 もっとも、ふたりには室内をまじまじと観察している暇はなかった。番人らしきものが、ゆっくりとこちらに近づいてきたのだ。

 一見すると、甲冑を着た人間のようである。身長は高く、手足は妙に太い。動きはぎこちなく、どこかギクシャクしている。

 バンパイアのライムは、相手が何者なのか一目で見抜いた。


「こいつ、ゴーレムだ!」


 ゴーレム……魔法によって生命を吹き込まれ、動き出した人形である。意思はなく、創造主である魔術師の命令にのみ従い動く。腕力は、人間よりも遥かに強い。その上、疲れることなく動き続けることが可能だ。

 しかも、このゴーレムは鋼鉄で出来ている。当然、武器による攻撃など通用しない。

 

「サッサトドケ!」


 バロンは吠え、凄まじい勢いで襲いかかる。だが、ゴーレムはぶんと腕をふった。何の変哲もない、力任せの一撃である。

 その一撃で、巨狼は吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。不死身の人狼とはいえ、ゴーレムの怪力による打撃をまともに受けたのだ。まったく無傷というわけにはいかない。床に倒れ、うめき声を発した。


「人形なら、おとなしくガキと遊んでな!」


 叫ぶと同時に、ライムの口から魔法の冷気が吐かれる。全てのものを、瞬時に凍りつかせる冷気だ。生物ならひとたまりもない。一瞬にして、生命活動が停止してしまうほどのものだ。

 だが鋼鉄の体のゴーレムには、何らダメージを与えていない。そもそも、寒さを感じるための器官がないのだ。また、冷気により体の機能に異常をきたしたりもしない。

 ゴーレムは、今度はライムめがけ突進した。鋼の拳が、彼女に炸裂する──


「うぐぅぅ!」


 悲鳴とともに、ライムは吹っ飛ばされた。人間なら、たった一発で撲殺されていたであろう打撃だ。しかし、ライムは吸血鬼である。この程度で死にはしない。すぐに、傷は癒えていく。

 ゴーレムもまた、相手が死んでいないことを悟ったらしい。ライムに近づき、首を掴む。

 ライムは、相手が何をする気なのか即座に悟った。こちらの体を、バラバラに引きちぎるつもりなのだ──


「は、離せ!」


 喚きながら、懸命にもがき暴れる。彼女はバンパイアであり、その腕力は人間よりも遥かに強い。だが、ゴーレムの前では赤子も同然である。

 バロンが吠え、横から飛びかかった。腕に噛みつき、どうにか引き離そうとする。だが、その力は全く緩まない。

 その時だった。何者かが、室内に入って来る──


「やめろ!」


 叫ぶ声に、ゴーレムの動きが止まる。だが、それは一瞬だった。ライムとバロンを放り投げると、声のした方向を向く。

 そこに立っていたのは、ひとりの少年であった。まだ幼く、小さな体である。しかし、その身からは異様な光を放っているのだ。普通の人間でないのは、一目でわかる。


「ジュリアン……」


 巨狼の口から声が漏れた。すると、ライムは驚愕の表情を浮かべる。


「あ、あれがジュリアンなの?」


 そう、現れたのはジュリアンに間違いなかった。ただし、バロンの記憶にあるものとは、まるで違っている。ひ弱な少年の印象は完全に消え失せ、神秘的な雰囲気を漂わせているのだ……。

 ゴーレムもまた、この少年を強敵と判断したらしい。すぐさまジュリアンに掴みかかっていく。その腕力ならば、少年の細首など一瞬でへし折れただろう。

 対するジュリアンは、手をぶんと振っただけだった。少なくとも、バロンとライムにはそうとしか見えなかった。

 にもかかわらず、ゴーレムの腕が落ちる。鋼の体が、少年の細腕による一撃で切断されてしまったのだ。

 しかし、この程度で怯むゴーレムではなかった。切断された前腕をさっと拾い上げ、切断面にくっつける。一瞬にして、腕は繫がってしまったのだ。


「なるほど。切っても、すぐに元通りか……ならば、消し去るしかないね」

 

 ジュリアンは、余裕の表情で呟いた。次の瞬間、ふたりに向かい叫ぶ。


「伏せてください!」


 怒鳴った直後、ジュリアンの目が光り始める──


「わかった!」


 ライムとバロンは、慌てて床に伏せた。

 次の瞬間、少年の目から光線が放たれたのだ。光線は、ゴーレムの胸を直撃した。

 次の瞬間、ゴーレムの上体は消え去っていた。硬く頑丈な鋼の上半身が、瞬きする間に跡形も無く消し飛んでしまったのだ。

 それだけではない。放たれた光線は、塔の壁にも巨大な穴を開けてしまったのだ。頑丈な石造りの壁が、溶けたチーズのような状態になっている……。

 ライムとバロンは、驚きのあまり動けずにいた。だが、ジュリアンの行動は止まらない。まだ動き続けているゴーレムの下半身を持ち上げると、壁の穴から外に投げ捨てた。

 次いで、ゴーレムの守っていた扉を、力任せに開ける。

 石の壁に覆われた部屋には、ひとりの少女が眠り込んでいた。ロミナである。外の騒動にも、気づいていなかったらしい。

 ジュリアンは苦笑し、そっと揺り動かした。


「ロミナちゃん、起きなよ」


 優しい声を出すと、ロミナはようやく目を開けた。


「あれ、ジュリアンなのだ。光ってるのだ……ここは、どこなのだ?」


 言いながら、上体を起こした。途端に、自身の足首に枷が付けられていることに気づく。

 そこで、何があったのか思い出したらしい。


「大変なのだ! 悪い奴らが、ロミナにひどいことをしたのだ!」


「大丈夫。悪い奴らは、みんなやっつけたよ。さあ、ウチに帰ろう」


「うん、帰るのだ」


 そう言って、ロミナは立ち上がった。だが、その時になって自身が足枷と鎖によって繋がれていることを知ったらしい。


「ううう、こんなものを付けられてしまったのだ。これでは、帰れないのだ」


「こんなの、僕が外してあげるよ」


 言うと同時に、ジュリアンは無造作に手を上げた。直後、手刀が振り下ろされる。鎖は、瞬時に切れてしまった──


「うわ! ジュリアン凄いのだ!」


 感嘆の声をあげるロミナに、ジュリアンは微笑んだ。

 直後に、異変が起きる。ジュリアンの体が、ぐらりと揺れたのだ。

 ロミナの眼の前で、バタリと倒れる──


「ジュリアン!? どうしたのだ!? お腹でも痛いのか!?」


 叫びながら、ジュリアンの体を揺さぶる。しかし、少年は目を開けない。

 その時だった。不意に、部屋に入ってきた者がいる。

 

「お、お母さん……」


 ロミナが、唖然とした表情で呟く。そう、入ってきたのはライムだったのだ。

 ライムは、倒れたジュリアンをそっと抱き上げる。胸に耳を当て、さらに口元に触れてみた。


「お、お母さん! 大変なのだ! ジュリアンが倒れてしまったのだ!」


 叫ぶロミナだったが、ライムの方は不思議そうな顔で首を傾げる。


「これは、どういうことなんだろうね?」


 ライムは、誰にともなく呟いた。ロミナはというと、なおも尋ねる。


「ど、どうしたのだ!? ジュリアンは、大丈夫なのか!?」


「わからない。これはもう、ララーシュタインに聞いてみるしかないね。さあ、行くよ!」


 言ったかと思うと、ライムはジュリアンとロミナの体を担ぎ上げる。

 直後、凄まじい速さで走り出した。その後を、巨狼が追いかけていく──




 城の中庭には、ララーシュタインやザビーネやバラカス兄弟たちが集合していた。皆、疲れた表情で土の上に腰を降ろしている。傭兵たちは既に逃げ去っており、もはや影も形もない。

 そこにライムが駆けつけた。まずは、ロミナを地面に下ろす。

 次いで、ジュリアンの体を抱えたまま、ララーシュタインの前に飛んでいく。


「大変だよ! ジュリアンが、いきなり倒れちまったんだ!」


「な、何だと!」


 ララーシュタインは、慌てて体のあちこちに触れる。だが、すぐに安堵の表情を浮かべた。


「大丈夫だ。生まれて初めて全力を振るったため、疲れてしまったらしい。今は眠っているだけだ」


「そう……ねえ、この子は何なの?」


「俺が魔法で作った。言ってみれば、人造人間だ。その気になれば、小国ぐらい単独で制圧できるほどの能力を秘めている」


 聞いたライムは、驚愕の表情を浮かべた。ララーシュタインの方は、切なげな表情で話を続ける。


「本人は、普通の人間として暮らしたかったらしい。だが、その夢を叶えさせてやることは出来なかった」


「そう。あんたも、大変だったんだね」


 一方、ロミナはザビーネやバラカス兄弟らをキョトンとした顔で見ている。


「みんな、どうしたのだ? なぜ、ここにいるのだ?」


 その問いに、ザビーネは苦笑しつつ答える。


「君のためだよ。君を助けるために、みんな来てくれたんだ」


「そ、そうなのか?」


 ロミナが言った時だった。突然、ライムの表情が変わる。


「待って! 大勢の人間が、こっちに近づいてくる!」


「奴らの助っ人か?」


 顔をしかめるララーシュタインに、ザビーネが答える。


「いや、違うな。この気配は……ミネルバたちだ」




 彼女の言葉の通りだった。

 武装した兵士たちが、整然とした動きでこちらに歩いてくる。その先頭を歩くのはミネルバだ。派手なドレスに身を包み、執事や兵士たちを引き連れ城に入ってきたのだ。

 やがて、ミネルバの指示により兵たちは止まった。ララーシュタインたちを睨み、口を開く。


「まさか、あなたたちが先に来ていようとは思いませんでしたわ」


 その言葉に、ララーシュタインは立ち上がった。ミネルバに向かい口を開く。


「ほう、ここを嗅ぎつけたのか。さすがだな」


「ふん、フロンタル家の情報収集力を甘く見てもらっては困りますわ。しかし、少し出遅れたようですね」


「少しではない。もう、全て片付いたところだよ。今になって、何の用だ?」


「決まっているてしょう。わたくしの妹を、迎えに来たのです」


 言った後、彼女ほロミナの方を向いた。


「あなたがロミナね。想像通りのかわいい子」


「お、お前は誰なのだ?」


 唖然となり聞き返すロミナに、ミネルバは優しい口調で答える。


「こっちにいらっしゃい。あなたは今日から、フロンタル家の一員となるのよ」


「こ、この女の人は何を言っているのだ? 意味がわからないのだ」


「あの人は、お前の姉さんなんだ」


 わけがわからず右往左往するロミナだったが、答えをくれたのはララーシュタインであった。直後、ライムの肩を叩く。


「ライム、あんたの口から説明してあげるんだ」





 







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