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黒幕の登場

 グランドレイガーとバラカス兄弟との闘いが繰り広げられている頃、ララーシュタインは険しい表情で階段を上がっていた。

 この先に、ロミナはいないことはわかっている。裏口から侵入したライムとバロンとザビーネも、少女を探しているはずだ。

 ロミナの救助は、ザビーネらに任せるつもりであった。ララーシュタインは、陽動のため正面から殴り込んだのである。派手に騒ぎ、自分に注意を惹きつける……そのための、いわば囮だ。

 さらに、ララーシュタインには別の目的もある。計画の黒幕は、この城にいるはずだ。そいつを探し出し、こんな下らん計画を立案したことを後悔させてやる。この誘拐計画に巻き込まれ、無関係のジュリアンが痛い目に遭わされたのだから……。

 階段を上がっていくララーシュタインは、ひしひしと感じていた。おそらく、黒幕はこの先にいる。恐ろしい魔力を持った者だ。

 二階に着くと、ララーシュタインは目の前の扉を開けた──


 そこは、一階と似たような構造になっていた。目の前には広い空間があるが、一階ほど広くはない。おそらく、城の使用人たちが集まるための広間なのだろう。四方より、小さな通路が伸びている。だが、ララーシュタインはそんなものは見ていなかった。  

 ララーシュタインの目は、広間の中心にいる黒いローブを着た若者を捉えていた。髪は真っ白で、肌は青白い。ローブから突き出た腕は細く、体つきは華奢であった。不健康そうな見た目であるが、目だけは異様に輝いている。

 驚愕の表情を浮かべるララーシュタイン。やがて、その口から言葉が漏れる。


「お前、ギルガメスか!?」


 そう、彼の前にいたのは……かつて、ガバナス帝国魔術師団にて同僚だったギルガメス・マゼーレだった。

 ララーシュタインとほぼ同じ時期に団に入っており、同期ともいえる存在だ。魔法に関しては卓越した才能を発揮しており、ララーシュタインも一目置いていた存在である。

 そんなギルガメスは、恭しい態度でお辞儀をした。

 

「ララーシュタインさん、久しぶりですね。会えて嬉しいですよ。それにしても、恐ろしく下品な格好をしていますね。毛皮のベストとは、どこの野蛮人かと思いましたよ」


「なぜ、お前がこんな所に……」


 驚愕の表情を浮かべ言葉につまるララーシュタインに、ギルガメスは笑みを浮かべる。


「決まっているではないですか。僕だって、フロンタル家には何度も煮え湯を飲まされてきたのですよ。この計画を立てたのは、僕です。あなたもまた、僕たちと同じ立場なんですよ。知らないのですか?」


「はあ? 何のことだ?」


「団長のウォルターとあなたは、しょっちゅう揉めていましたね。挙げ句に、施設を大破させガバナス帝国と魔術師団を追放されましたが……あれは、フロンタル家によって仕組まれたものだったのですよ」

 

 その言葉に、当時の記憶が蘇る。

 当時、魔術師団の団長であったウォルターと、一介の団員に過ぎないララーシュタイン。ふたりが、事あるごとに衝突していたのは間違いない。

 しかし、あの日はいつもとは違っていた。いきなり近づいてきたかと思うと、罵詈雑言を浴びせかけてきたウォルター……あれは異常であった。激しい口論の挙げ句、ララーシュタインはウォルターを殴り倒す。さらに、怒りに任せサンダーボールで団の施設を破壊し出ていったのだ。


「確かに、あの日はいつもよりおかしかったが……」


 呟くララーシュタインに、ギルガメスは決定的な言葉を放つ。


「ウォルターがあなたの敵に回るよう小細工したのは、他ならぬフロンタル家の者たちなのですよ」


「何だと?」


「当時、ウォルターは反フロンタル派に属する貴族たちの援助を受けていたのです。また、王家との関係も深かった。フロンタル家にとって、邪魔な存在だったのです」


「それと俺と、何の関係があるのだ?」


「ウォルターは、あなたを嫌っていました。あなたの才能を妬んでいたのですよ。そんなウォルターに、あらぬことを吹き込んだのがフロンタル家の一派です。あんな者を放っておいては、あなたの指導能力を疑われる……とね」


「フッ、なるほどな」 


 ララーシュタインは、思わず苦笑した。確かに、当時の自分は反抗的であった。それが、まさか政治闘争に利用されたとは……。

 一方、ギルガメスは冷静に語り続ける。


「結果、ウォルターはあなたと揉めた責任を取り、団長の座を追われました。次に団長の座に着いたのが、フロンタル家の飼い犬であるダリアンです。おかげで、魔術師団はめちゃくちゃになりましたよ。もはや、フロンタル家の望むがまま動く傀儡集団でしかありません」


 それを聞き、ララーシュタインは溜息を吐いた。


「正直いうとな、今さら魔術師団などどうでもいい。むしろ、あの出来事に感謝している。団を追放されたお陰で、俺はバーレンのゾッド地区で自由に生きられている。フロンタル家に関しては、愚かな連中だとは思うが、恨みなどない」


「そうですか。ならば、今すぐ引き返してください。ゾッド地区で、今まで通り自由を謳歌していただきたいものですね」


「俺としても、こんな所は今すぐ去りたいところだ。しかし、その前にやらねばならぬことがある。ロミナを返してもらおうか」


「それは無理ですね。あの娘は、僕たちの計画に必要な存在なんですよ」


「ふざけるな。ロミナは、貴様らの道具ではない」


 憤然とした態度のララーシュタインに対し、ギルガメスは冷静に言葉を返していく。


「お気づきとは思いますが、ここにはフロンタル家に恨みを持つ者たちが集結しているのですよ。これは、もはや単なる誘拐ではありません。フロンタル家を叩き潰すための聖戦なのですよ。聖戦に、犠牲は付き物です」


「聖戦だと? 笑わせるな。ただの私怨による潰し合いではないか。そんなものに、ロミナを巻き込むな」


 そこで、ようやくギルガメスの表情が変わる。ララーシュタインを睨みつけた。


「ただの私怨ですと? あなたに、我々の何がわかるのですか!?」


「俺には、貴様らの気持ちなどわからん。わかりたくもない。俺の知ったことではないしな。お前たちが自分を正義と信じるなら、俺は悪で結構だ。そもそも、俺は悪の天才魔術師なのだからな」


 そう言って、ララーシュタインはニヤリと笑った。


「悪は、自分の欲求のままに生きる。今、俺の欲求は……ロミナを連れ戻すことと、この計画をぶち壊すことだ。お前の立てた下らん計画のため、俺の召使いが傷つけられたのだからな。お前が本当に自分を正義と信じるなら、俺を止められるはずだろう」


「そうですか。ならば、望むところです。もとより、あなたとは一度やり合ってみたかったのですよ!」


 直後、呪文の詠唱が始まった──


 不思議な光景であった。

 ララーシュタインの手のひらから火の玉が放たれ、ギルガメスの体に炸裂する……かに思えた瞬間、火の玉は大きく軌道を逸らされた。壁に当たったかと思うと一瞬にして消滅する。

 ほぼ同時に、ギルガメスの指先から稲妻が放たれた。

 しかし、稲妻は瞬時に消え去る。現れた時と同じく、唐突に消滅してしまったのだ。


 ララーシュタインとギルガメス……両者は、高速で攻撃のための呪文を唱えている。同時に、相手の攻撃を無効化するための防御魔法も使っているのだ。

 しかも、この戦いには駆け引きの要素もある。弱い攻撃魔法を用いて相手に強い防御魔法を使わせ、相手の魔力を消耗させる。これもまた、魔術師同士の戦いでは必須なのだ。

 相手の次の攻撃を読み、防御すると同時に次の手を打つ。さらには、相手の読みを読んで異なる行動に出る。両者の戦いは、高度な知能戦の段階へと入っていった──


 





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