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最強の武人(3)

 絶望的な状況に、ララーシュタインは顔を歪めていた。

 一方、グランドレイガーは勝ち誇った表情で口を開く。


「どうした? 悪の天才魔術師も、その程度なのか? 実につまらんな。魔法なしでも、相当な強さだと聞き及んでいたのだがな……しょせんは、雑魚の中の王さまに過ぎなかったか」


 その時だった。扉が開き、乱入してきた者がいる。大きく筋肉質の体、特徴のある髪型の男がふたり……そう、バラカス兄弟だ。城門付近で持たせていたはずなのに、心配になってここに来てしまったらしい。

 兄弟は、ララーシュタインの両脇に立つ。両脇から彼の腕を掴み、強引に立ち上がらせた。

 直後、耳元で囁く。


「お前、先に行け」


「先に行け」


 ふたり同時の囁きであった。


「お、お前ら……」


 ララーシュタインはというと、完全に混乱していた。まさか、この兄弟がグランドレイガーを相手に闘おうというのか──


「大丈夫。こいつは俺に任せろ」


「こいつは俺に任せろ」


 またしても、ふたりは同時に言った。

 ララーシュタインは迷った。このふたりの強さは知っている。だが、グランドレイガーのような本物の武人相手に通じるのだろうか。

 しかし、こちらを見ているバラカス兄弟の瞳からは、俺たちにやらせてくれ、という強い願いが感じられた。

 さらに、強烈な意思も感じられる。命に換えてでも、こいつを倒す……という思いが伝わってきた。

 ララーシュタインの迷いは、一瞬で消える。強く純粋な願いは、奇跡を起こすこともあるのだ。この兄弟の、思いの強さと純粋さに賭ける。


「わかった。お前ら、頼んだぞ!」


 ララーシュタインの激に対し、ふたりはほぼ同時に答える。


「おう! ロミナを助けてやってくれ!」


「助けてやってくれ!」


 このやり取りを聞いていたグランドレイガーは、ハルバードをぶんと振り回した。


「ふざけたことをぬかすな! ここは、ネズミ一匹だろうが通さん!」


 怒鳴りつけたが、ララーシュタインは彼を無視していた。あらぬ方向を睨み、呪文の詠唱を始めている。

 グランドレイガーは、せせら笑った。また、魔法を使う気らしい。


「何をしている。魔法は通じぬと言っているだろうが……」


 言い終わる前に、ララーシュタインの姿が消えた。驚きのあまり愕然となるグランドレイガー。

 直後、魔術師は彼の後ろに移動していた。そう、ララーシュタインは瞬間移動の魔法を使ったのてある。


「き、貴様!?」


 ようやく何が起きたかに気づき、グランドレイガーは吠えた。ララーシュタインを追いかけんと、ハルバードを振り上げる。

 そこに突進していったのは、バラカス兄弟だ。筋肉に覆われた肉体だが、動きはしなやかで速い。背後から、グランドレイガーに殴りかかっていった。

 だが、グランドレイガーはすぐに振り返る。


「仕方ない。お前らで我慢してやろう」


 言った直後、ハルバードをぶんと振った──


 兄弟は、パッと停止する。そのまま踏ん張り、ハルバードの一撃を受け止める。刃の部分さえ避ければ、ふたりがかりならどうにか耐えられる……はずだった。

 だが、次の瞬間に吹っ飛ばされてしまったのだ。百キロを超えているふたりが、風に舞う布切れのように軽々と飛ばされてしまったのである。単純な腕力ですら、桁が違っていた。ヒグマに殴られても、こうはならないであろう。

 しかし、バラカス兄弟の方もすぐに対応する。ふっ飛ばされながらも、すぐに受け身を取った。

 すぐに起き上がり、拳を顔の位置にあげ構える。


 バラカス兄弟は、グランドレイガーと向かい合う。ふたりもまた、大抵の人間を見下ろすほどの身長である。しかしグランドレイガーの前では、子供のようにすら見える。

 身長だけではない。腕力もまた桁違いである。力自慢で、筋肉の塊のごとき肉体を持つ双子だが……グランドレイガーの前では、大人と子供ほどの差があるらしい。

 一方、グランドレイガーは余裕のある態度で呟く。


「こんなザコふたりの相手をしなければならんとはな」


 直後、ハルバードが振るわれる──


 兄弟は、巨体に似合わぬ素早さを見せた。地面を転がり攻撃を躱したのだ。

 すぐに立ち上がり、巨人と向き合う。拳を顔の位置に挙げ、構えた。

 

「あくまで素手で来るつもりか? 俺も、随分とナメられたものだな。それとも、頭が悪すぎて武器を使う知能すらないのか」


 グランドレイガーの言葉に、兄弟はパッと目を合わせる。

 ふたりは、ほぼ同じタイミングで頷いた。この兄弟、確かに頭は悪い。城塞都市バーレンで、犬猫含めた中でもっともバカな双子だと言われていたくらいだ。

 だが、こと闘いに関する限りは、天才的な冴えを見せる。目の前の敵を、どうやって倒せばいいか……動物的ともいえる勘で、頭ではなく肉体で判断し行動できるのだ。

 しかも、互いの意思を読む力にも優れていた。今もまた、言葉にせずとも、お互いの意思を理解した。

 そして、各々の為すべきことも即座に判断した。


 突然、バラカス兄弟が動く。まず、兄が両腕をあげ奇声を発したのだ。


「うがああぁぁ!」


 直後、兄はグランドレイガーめがけて走り出した。何の策もなく、何のためらいもなく、ただ真正面から突進してきたのだ。

 思ってもいなかった行動に、グランドレイガーは一瞬ではあるが対応が遅れた。あれだけ力の差を見せつけたのに、またしても真正面から突っ込んでくるとは思わなかったのだ。

 しかし、正面から来るなら対処は簡単だ。すぐさまハルバードで薙ぎ払いにかかる。

 その時、不思議なことが起きた。兄の体が、一回り大きくなった……ように見えたのだ。

 

「なんだと?」


 唸るクランドレイガーだったが、やることは変わらない。己が戦友ともいえるハルバードで、一刀両断にするだけだ。彼は戦場にて、このハルバードで五人まとめて叩き斬ったことがある。突進してくる男がいかに強かろうと、一撃で胴ごと斬ればいいだけだ。現に、先ほどは受け止めることすら出来ず吹っ飛ばされたではないか。

 だが、そこで疑問が浮かぶ。


 もうひとりはどこだ?


 その疑問は、すぐに解消する。兄の後ろから、弟が飛び上がったのだ。

 バラカス兄弟は、全く同じタイミングで手足を動かし移動することが出来る。今は、兄が突進していくのに合わせ、弟もすぐ後ろを走っていたのだ。

 しかも、全く同じタイミングで手足を動かし走っているため、ひとりが突進してきたのか……と、一瞬ではあるが錯覚してしまうのだ。 


 バラカス兄弟は、そこから二手に分かれた。兄は地面スレスレまで伏せ、ハルバードを躱す。一方、弟は兄を踏み台にして飛び上がったのだ。その高さは、グランドレイガーが見上げてしまうほどである。

 その高さから、拳を振り上げ殴りかかった──


「ふざけた真似を!」


 グランドレイガーは唸り、すぐさま叩き落としにかかる。並の戦士なら、対応すら出来なかったはずだ。しかし、グランドレイガーは数々の戦場を生き抜いてきた歴戦の英雄だ。こういった上空からの攻撃とて、既に経験済みだ。

 ところが、次の攻撃は彼にも読めなかった。突然、足に何かが飛びついて来たのだ。

 さらに、両足がすっと引っ張られるような感触が襲う。グランドレイガーは上に意識を集中させていたため、足への攻撃など想像もしていない。完全に虚を突かれ、無防備であった。


 足に飛びついたのは、バラカス兄であった。

 地面に伏せると同時に、そこから全身のバネを使い弾丸のような速さで飛びついた。そこから、グランドレイガーの両足に自身の両腕を巻きつけ、一気に引き倒したのである。レスリングのタックルに似た技だ。

 さすがの武人も、これには耐えられなかった。ドシーンという音とともに、巨体が倒れた。同時に、着地した弟がハルバードを思い切り蹴飛ばす。

 ハルバードは、グランドレイガーの手を離れた。弟は、三メートルを超える長さの槍斧を拾いあげる。何を思ったか、それを放り投げてしまったのだ。ハルバードは、窓から外へと飛んでいく。

 一方、兄の方はさらに追撃する。倒れたグランドレイガーに、上からのしかかり押さえ込もうとする。

 しかし、グランドレイガーもやられっぱなしではなかった。のしかかってきた兄を、片手で突き放す。百キロを超える体を、腕の力だけで突き飛ばしたのだ。同時に、地面を蹴って間合いを離した。

 すっと立ち上がり、兄弟と睨み合う──









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