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廃ダンジョン・トレッキング

廃ダンジョン・トレッキング(魔女の沼編)

作者: 花黒子


 特殊な趣味であることは自覚している。だが、最も安全に稼げる趣味でもある。

 俺が狙うのはただ一つ。廃ダンジョンだ。


 今回はかつて毒の沼があったという魔女の沼地にあるダンジョンだ。

 すでに魔女は死んで200年くらいになるらしい。その後、召喚術師や死霊術師、キノコ農家などが住んでいたが、地震などの災害ですっかり沼が干からびてしまい、周辺は誰もいなくなったという。

 もちろんダンジョン探索も終わっていて、10年ほどは誰も入っていないのではないかと冒険者ギルドの職員も言っていた。


 そういうダンジョンを求めていた。


 行ってみると沼跡は少し雑草が生えているだけで開けた空き地のようだ。緑豊かな森も近くにあり、きれいな泉も見つけた。小鳥が鳴いているくらいで魔物の気配もない。キャンプ地としては完璧と言える。


 近くの森から枝を拾ってきて、タープを張り、早速拠点を作る。


「え? あんなところに入るんですか? まぁ、山賊も近寄らない場所ですよ。まぁ、どうせ汚れていると思うんで、様子を見て来てください」


 女子職員はそう言いながら麻製のごみ袋を数枚と軍手を渡してきた。別にダンジョンの清掃員ではないのだが……。がらくたでも金属であれば買い取るということらしい。

 慈善事業でやっているわけではないので、できればこういう要素は排除したいが、冒険者と登録しているのでこれも致し方ない。農家にも農業組合があるし、漁師にも漁業組合がある。


 ひとまず森の中を歩いてきたので小休止。湯を沸かし、自然の中で茶を飲んでからダンジョンに入る。茶は毒消し用のものにした。沼の毒が残っていてもこれで少しは毒状態にはならないだろう。


 軍手をしてランプを掲げてダンジョンに入る。


「うっ」


 入った途端にすえた臭いがした。キノコの原木が至る所にあり、すっかり乾燥している。キノコ農家が捨てていったものだろう。後で薪にして燃やしてしまおう。

 奥に進むとマタンゴと呼ばれる魔物の死体があった。それほど珍しい魔物ではないが、完全に干からびてミイラになっている。魔物学者に売れるかもしれない。


 さらに進むと死霊術師たちが残した魔法陣や儀式の道具、死体が出てきた。自分たちの魔術で汚したのに片付けていかないような奴らは、大成しないだろう。実験に使われた死体がかわいそうだ。

 儀式で使っていた錆びた鉄製の道具はすべて回収して、後で洗おう。

 

「これでただ働きはなくなった」


 とりあえず麻の袋がいっぱいになったので一旦外に出る。


「意外に見て回るところが多いな」

 こういう目的がはっきりした使い方をしているダンジョンは、結構危険な場合が多い。先人たちが探索し終わっていると思って油断して罠に嵌ることもある。ここから先はかなり慎重に行く必要が出てきた。

 ランプの油を足して、空袋を持って再びダンジョンへと入る。ピッケルで床や壁を叩き、異音がないか調べながら、ゆっくり奥へと向かう。


「やっぱりあった……」


 矢の罠と毒煙の罠などたくさん見つかった。毒は瓶に詰め、矢は罠で使っている金具を袋に詰める。一番奥まで使っていたのが召喚術師たちなのだろう。召喚した魔物の死体が干からびていた。失敗としっかり向き合えない者はやはり大成しなかっただろう。


「いや、死んでるのか」


 ローブ姿の骸骨が落とし穴の底で眠っていた。ナイフが肋骨に突き刺さっているので、召喚術師同士の内紛があったのかもしれない。

 待てよ。後から来た死霊術師たちはこの死体に気づかなかったのか。毒煙の罠を食らって、それ以上進まなかったのだろうか。


「冒険者を雇えばいいのになぁ」

 

 ローブをはぎ取り、ネックレスと指輪を回収。死体は後で薪と一緒に燃やしてしまおう。

 ボス部屋には召喚術の魔法陣があり、しっかり床ごと壊されていた。立派な魔女だったらしく、薬草などが入った瓶なども見つかった。誰も持って行かなかったのだろうか。

 

 そこでようやく違和感に気づいた。どうやら罠にかかって幻覚を見せられているらしい。水筒に入れたお茶を飲み、目をつぶってゆっくり息を吸って目を開く。そこは焼けた跡や斬撃の痕跡などが残され、ほとんど何もない空間だった。


 チロチロ……。


 さらに奥から水が流れるような音が聞こえてきた。音が聞こえる壁を叩くと、簡単にボロボロと崩れた。


 隠し扉の向こうには、枯れた草の鉢植えがいくつも置いてあった。一人で研究をしていたらしく、椅子と机、簡易ベッドなどが置かれていた。


「本当にちゃんとした魔女だったのか」


 沼の毒に耐える薬草を作りたかったようだが、毒草を育てることになってしまったらしい。研究資金が足りず家族に無心をしたが断られて、怒りに震えている様子などが日記に書かれていた。こんな研究者は嫌だ。


 一応、日記や研究結果のスクロールなどを持ち出し、乾いた種を採取。後片付けをしっかりすれば、丸一日かかった。


 持ち出したモノはすべて冒険者ギルドに持って行く。

 魔女の研究結果は歴史的な遺産でもあり、鑑定には時間がかかるらしく冒険者ギルドに併設されている宿に泊まらせてもらえることになった。食事も付いてくる上に、金属の報酬も別払いなのでラッキーだ。


 二日ほど食堂で酒を飲んでいたら、魔女の親族だったというエルフが現れた。金持ちだったら謝礼を受け取れるが、あいにく隣町にある薬屋の店主で、研究成果も今ではありきたりな内容だったと説明してくれた。


「どうしたらいいかね? あんな土地だけ貰っても税金だけ取られて敵わないよ」

「だったらキャンプ場にするといいですよ。あそこあんまり大きな植物が生えないみたいですから。もしくは冒険者ギルドと提携して初心者冒険者の訓練場にするとか」

「ああ、そりゃいいね。ちょっと提案してみるよ」

 

 遺産相続も難しい。

 翌日には、次の廃ダンジョンへと向かっていた。


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