9 町の中へ
そのかいあって遠くの方に街らしきものが見えてきた。白い城壁と赤いとんがり屋根の大きなお城が見えたのだが、城のふもとには城下街が広がっているに違いない。
サラは城の方角へと走った。またよく分からない人に出会う前に街に入っておきたかった。
城に近付くにつれて少しずつ民家や畑が見えてきた。街は壁に囲まれているようだ。オレンジ色のレンガの壁が周囲をぐるりと囲んでいる。壁の外には畑や牧場が広がっていた。
壁の中は結構な都会なのか人々の賑わう声が遠くからでも聞こえる。何時なのか知らないが大きな鐘の音が鳴った。
街を見つけて安心したのも束の間、サラの頭にはまた別の不安がよぎっていた。これではどうみても中世のヨーロッパである。文明のレベルが低いとは聞いていたが、ここまでとは聞いてない。電気・ガス・水道はともかく、インターネットは絶望的だ。
牛車や馬車が走っているところからしても、車も電車も飛行機もなさそうである。
社会貢献活動と言っても、そもそもサラは自分がこの街で何をしたらいいのか、さっぱり分からなかった。土木工事でもするのだろうか。
そう考えるとなんだか頭が痛くなってきた。でも死ぬつもりだった自分が、身体が変わったとはいえ、自我を保ったまま生きているのは不思議な感覚だった。
転生って本当にあるんだな、とサラは思わず呟いた。最初はまだ夢見心地でふわふわしていたが、時間が経って新しい身体に馴染んでくると、信じざるを得なくなった。
でもこの身体はサラにとって大切なものだった。だから今度はちゃんと天寿を全うしようと思った。サラは生きることに前向きになっている自分に驚きを隠せないでいた。
しばらく走ると城下街に入る門まで来た。しかしそこには門番が立っていた。
「身分証明書を」
門番が手短に言った。
「そんなの持ってないよ。こっちの世界に来たばかりだもの」
サラは口をとがらせた。
「こっちの世界?」
「地球からハルキゲニアへ引っ越しました」
「訳が分からん。怪しいやつだ。捕まえて牢に入れておけ」
門番が号令をかけた。
「ちょっと待てい。さっきの盗賊は異世界転生について知ってたぞ。なんで門番が知らねえんだ」
サラは喚いたが、門番がたくさん出てきた。サラはもう逃げる体力は残っていなかった。結局サラはお城の牢に放り込まれることになった。
「まあ街の中に入れたけど…」
牢の中でサラは溜息をついた。一体これからどうなるんだろう。
「異世界に転生するならガイド的な役割の人物を付けて欲しかったな…」
サラは独り言を呟いてゴロンと横になった。なんだか疲れた。しばらく眠ろう。
目を覚ました時はもう夜だった。粗末な食事が置かれてあった。固そうなパンと冷え切ったスープだった。
「なんか惨めだな…」
サラは具の入ってない冷たいスープをすすった。
「まったくどうやってポイントを稼ぐんだ…」
サラは独りで文句を言った。こんなガラリと環境が変わるのに神ちゃんとウサギの説明が少なすぎると思った。
こうなったら魔法のランプで抜け出すか。しかし一度しか使えないチートアイテムだ。ここで使うのは少しもったいない気がした。
牢は石造りで冷え冷えとしている。鉄格子のはまった窓から入る風が冷たい。
どこの世界でも生きるって大変だなあ、とサラは思った。
ところでどうしてここでこんなことしているんだろう、とサラは思った。もっと他にやるべきことがあったような気がした。
サラは突然気分が悪くなってきた。頭がクラクラする。自分のものとは違う記憶が混ざり始めた。なにがなにやら、こんがらがってきた。サラは苦しくなってその場に倒れこんだ。