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6 新しい自分

 次に目を開けた時は見える世界が違って見えた。まず今までより背丈があるので目線が高い。それと視力が違う。サエより良いみたいだ。遠くまでくっきりと見える。気のせいかもしれないが色合いも少し違って見える。


 サエがおそるおそる鏡を見ると、そこには端正な顔のハンサムな男性が立っていた。しかも若い。十六歳くらいか。


「これが私…?」


 サエは自分で出した声に驚いた。力強さの中に優しさを湛えた素敵な声。大好きだったイチの声がまた聞けるなんて。


 後ろを振り返るとくたびれた前の身体が倒れていた。目を閉じて動きもしない。勝手な感情だけど、サエはそれを見て少し寂しくなった。


 それでもやっぱり新しい身体に入った感動の方が上回った。サエの新しい身体は羽のように軽く、自分の思い通りに操れた。なんだか力が湧いてくる。今ならどこまでも走ってゆけそうな気がする。


「うまくいったみたいね」


 パスカルが満足げに微笑んだ。


「ありがとうございます」


 サエはパスカルにお礼を言って試着室を出た。


「完全に馴染むまで無利しちゃダメだからね。それとたまに記憶が混ざって混乱することがあるけどすぐに慣れるからね。それと…」


 サエはパタパタと走って神様とウサギの元に行った。


「サエ?」


 神様が目をぱちくりさせた。


「なんか見た目は冒険者っぽくなったな」


 ウサギが目を見張った。


「あのさ。サエ」


 神様が苦笑いをした。


「なに?」


「服着て」


 忘れていた。新しい身体になった興奮で裸のままで外に出てきてしまった。


 サエは慌てて試着室に戻り、パスカルから適当な衣装を借りた。


「これでいい?」


 サエは神様の前に戻った。RPGの冒険が始まる時の主人公のような衣装を着ていた。でもなんとなく北欧の民族衣装みたいだとサエは思った。


「裸じゃなかったらなんでもいいわよ。まったく私におちんちんを見せつけたのはあんたが初めてだわ」


 神様があきれたように言った。


「この後は…」


 神様は退屈そうにあくびをしてスマホをいじり始めた。


「ちょっと待てい!」


 サエは思わず大きな声を出した。


「なによ?」


 神様とウサギが驚いて後ずさりした。


「そもそもこれはなんなのよ? 異世界留学ってなによ?」


 サエの頭の中には疑問点が山のようにあった。その疑問が滝のように流れ落ちてようやく言葉になって出てきた。


「そこから説明するの?」


 神様が面倒そうな顔で言った。


「当たり前じゃろがい。普通の人間はハルキゲニアなんて知らんがな」


 サエは神様に詰め寄った。


「性格が変わったぞ」


 ウサギが肩をすくめた。


「そもそもこの小娘が神様ってなんやねん!」


 サエは神様を指差した。


「この世界の管理運営を任されているから神様みたいなもんじゃないの」


 神様が口をとがらせた。


「小娘とは失礼だな。神様と呼べ」


 ウサギがサエを叱った。


「神様っぽくない。威厳がない。そんな偉そうな人には見えねえ」


 サエは早口でまくしたてた。思っていることが言葉にできるってなんて素晴らしいんだろう。


「じゃあ神ちゃんでいい」


「そういう問題じゃない」


「そうか。分かりましたぞ。サエは男になったから美しい神様に岡惚れしてるんですぞ」


 ウサギがはたと思いついたように言った。


「うるせえ。ウサギは黙ってろい」


 サエはピシャリと言った。


 ウサギはムッとした表情になったが、サエの剣幕に押されて黙り込んだ。


「なにからなにまでわけが分からねえ。ちゃんと説明しろい。なんなら8日以内にクーリングオフするぞ」


「地球以外にも世界はあるの。そこがハルキゲニア。地球では科学が発達したけどハルキゲニアでは魔法が発達したの。でもまだ文明の程度が低いのよ。人々の幸福度が高い星を文明の程度が高いと定義しているの。そこで文明の高い星から低い星へと優れた人材を留学させて星の間の格差をなくし、できるだけ均衡な状態にする活動をしているのね。今は地球の方がハルキゲニアよりも文明の程度が高いから、地球から優秀な人材を留学生としてハルキゲニアに転生させているというわけね」


 神ちゃんが長々と説明したが、まだよく分からなかった。


「私のどこが優秀な人材なのよ?」


「正直なところ誰でもいいのよ。どうせ期待してないし。それにチートスキルをプレゼントするから誰でも活躍できるわ。むしろ地球でダメな人ほど異世界では立派になったりするものよ」

「期待しろよ。満塁の駒田くらい期待しろよ」


「それにハルキゲニアに転生してくれる人なんてほとんどいないわ。そんな過酷な星に誰も転生したがらないのよ。そこで人生に行き詰まった人を探して、まんまと引っかかった人をスカウトしてるわけね。そんな人たちは言いくるめたら何とかなることが多いのよ」


「まんまと引っかかったわ…」


「キャハハ。鴨が葱を背負って来るってやつね」


 神ちゃんが高笑いをした。それを見るとサエはだんだん腹が立ってきた。


「人の運命を弄んで楽しいんかい? 意に反して異世界に転生させるなんて非人道的だわ」


「なに言っているのよ。自殺しようとしていたくせに。前にも言ったけど自殺はマイナスポイントなの。ポイントが低いと来世はロクなことにならないから、チートスキルを使って異世界でポイントを稼がせてあげるんじゃないの。むしろ人道的だわ。こんな優しい制度は他にないわよ。まるで天使よ。私は天使のように可愛いし、心も天使のように美しいのよ」


 神ちゃんが真面目な顔で言った。


「傲慢だわ」


 サエは鼻で笑った。


「あんた可愛くないわねえ」


 神ちゃんがサエを睨んだ。


「さっさと転生を終わらせましょ。せっかく留学させてもどうせ凡庸な農夫くらいで終わることも多いんだから」


「農夫なんか嫌じゃあ。ポイントざっくざく貯めてやるからな」


 サエが言い返した。

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