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1 宇宙の作り方

「今日は宇宙を作ります。みなさん準備をしてください」


 教壇に立つ理科の先生が張り切った口調で言った。


 一番後ろの席に座っていたナオは退屈そうにあくびをして、教科書をパラパラとめくった。


 ナオの住む世界では高校の授業で宇宙を作る。大学入試にもよく出題されるし、ほとんど義務教育みたいなものだ。


 昼間なのにカーテンを閉め切った理科室は薄暗くてほこりっぽい。窓際にある水槽から磯の匂いがする。切れかかった一本の蛍光灯がチカチカと眩しい。


 ナオは制服のスカートに付いたほこりを鬱陶しげに払った。


「それでは適当にグループを作ってください」


 先生が適当に放った一言が教室中に緊張をもたらす。高二にもなると仲良しグループはもうほぼできあがっている。グループを確認し合う彼女たちの視線が交錯する。


 でもナオは適当なグループのどこにも属していない。余り者は、私だ。


「ぼっちとかマジウケるんですけどー」


 自分に向けられた悪意をよそに、ナオはひとりで準備を進める。


 レプトン、クオーク、ゲージ粒子、スカラー粒子、ダークマターなどを教卓から持ってくる。


 これら宇宙の原材料をフラスコの中にいれてかき混ぜる。するとビックバンが起きて宇宙が誕生するというわけだ。


 でもほとんどのフラスコには生物は誕生しない。ただしごくまれに恐竜や人間などの生命が誕生する場合もある。


 クラスメイトがヒソヒソと私の方を見て笑っている。


 ひとりぼっちの高校生活にはもう慣れたけど、やっぱり寂しい。


 ナオは慌てて涙をこらえたが、流れた涙が一滴だけフラスコの中に入ってしまった。


 今さらもう涙だけを取り出せないし、まあいっか。


 ナオはフラスコを棒でくるくるとかき混ぜた。


 適当に観察日記を作ると、授業は終わり、宇宙の入ったフラスコは回収された。自然消滅するまでは専門の機関に預けられて保管されるのだ。


 ナオはフラスコと観察日記を先生に渡すと、自分の教室に帰った。


 窓際の自分の席に座って、あくびをする。


 校庭では体育の授業が終わった生徒たちが後片付けをしていた。


 いつも通りの退屈なホームルームが終わるとナオは鞄をひっつかみ、ひとりで帰路についた。


 ナオは両親がいないので、施設に帰る。


 施設がナオを預かってくれるのは高校までだ。高校を卒業したら自分ひとりの力だけで生き抜いていかないといけない。


 ナオは鞄を自分の部屋に置くと、私服に着替えてすぐにアルバイト先に向かった。


 ナオはフラスコを預かる機関でバイトをしている。


 生命が誕生したフラスコを見護るのが仕事だ。


 特に人間が誕生したフラスコはいろいろと管理が大変なのだ。戦争を終結させたり、疫病を根絶したり、貧富の差を是正したり、やるべきことは山ほどある。


 ナオは時給が高いのでこの仕事を選んだが、やることが多くて大変なので、この仕事に就きたがる人は少ない。だから今は全てのフラスコまで手が行き届いていないのが現状だ。


 ナオがバイト先でいつも通りフラスコを管理していると、新しいフラスコが入荷してきた。


 ナオのクラスがさっきの授業で作った宇宙だ。


 ナオは丁寧に箱からフラスコを取り出し、顕微鏡や専門の装置を使って生命の有無を調べた。


 しかしひとつだけ生命反応があったフラスコがあった。名前を見ると自分のフラスコだった。


 ナオは驚いたが、なんだか自分のフラスコが愛しくなって、生命が誕生したフラスコ専用の管理室にそっと置いた。


 顕微鏡で覗くと、コエロフィシスなど原始的な恐竜の姿が確認できた。


 フラスコの中と外では流れる時間が違う。フラスコの中の方がずっと早く時間は流れる。


 この様子だと明日には哺乳類が見られそうだ。


 フラスコを管理する以外にもナオには仕事があった。


 それぞれのフラスコは文明の程度がまちまちなので、文明の進んだフラスコから遅れたフラスコへと優秀な人材を転生させるのだ。


 そして進んだ技術を導入してもらって発展を促し、フラスコ間の格差を是正するのが目的である。


 要するに異世界転生者を募集しているのだ。しかしこれがなかなか難しく、文明の遅れた過酷な世界ほど誰も行きたがらないのが現状である。


 またどのフラスコにも担当の妖精がいてナオのフラスコには白いウサギの妖精が付いた。


「後は任せてください。優秀な人材をスカウトして参ります」


 ウサギは張り切って言った。


 ナオは今日の仕事を終えると夜勤の人と交代で職場を後にした。

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