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一日目【またこのパターンです。】

エクレア視点の一話です。

1.


目が覚めたのはなぜだっただろうか、確か変な魔力の流れを感じたからだった気がした。

自室のベットに体を丸めて眠っていたアタシは、体を起こし少し伸びをしてからベットを出る。外はお昼ぐらいだろうか。

身だしなみを軽く整え自室を出る。普段なら弟子がやかましく「今起きたんですか」とか「ご飯覚めちゃうからもっと早く起きてください」とか「生活習慣早く治してください」とか小言を言ってくるのだが、今は皇国首都に使いに出している為アタシ一人だった。

「さて…」玄関のハンガーにかけているローブを手に取り、外に出てみる。最初に感じた魔力の流れはとても小さくなっておりどこから流れているのか分かりにくかったが、数分もすれば魔境界側から流れてきていることが分かった。それと同時に魔力の流れも感じなくなり、普段と変わらぬ感覚になった。

これは面倒だな、と心の中でこぼしつつ最悪のケースをいくつか想定する。

「魔王の新しい魔法の実験か、確かこの前も見たことない魔法で教国にとんでもない被害が出てたしね。はたまた、魔王に匹敵する何者かの誕生。だとするとせめて共倒れを願うね。あとは一番想像したくない結界の破損…」

口に出しながらもどの想像も最悪だと思った。

「なんにせよ確認は必要だね。とりあえずアイツには連絡を入れておくか。何かあったら任せるしかないからね。」

懐から魔力紙を取り出しすらすらと文字を書きアイツの下に飛ばす。魔力紙は魔力を込めたペンで文字を書くことで任意の相手の魔力紙に手紙を送ることができるもので、これを使ってやり取りするのは弟子のサクラを除けばたった一人しかいない。

手紙を書き終えた私は「閉ざせ」と唱え、家に不可視の結界を張る。とりあえず境界側へ向かって動き出す。足に魔力を込め地面を蹴る。アタシの体は一瞬にして森の中へ突入する。この調子で行けば一時間もせずに湖の近くまで行けるだろう。周りを警戒しながらも森の中を抜けていく。動物たちから警戒の気配を感じ、やはり何かがこちら側に来ていることを確信する。

しかし、英雄様が大昔に貼った結界を通り抜けられるほどの奴が果たしてアタシ一人で止められるかという不安もあるが、確かめないことにはどうにもならない。


大昔、三人の英雄が暴虐の限りを尽くしていた魔王とその配下を湖の外の島に結界を張り締め出した。

そうして一時の平穏を手に入れた人々は反映していった。

三人の英雄はそれぞれを王とした国を三つ建国。それが今の三国である。

魔の英雄を祖とする「魔導国家グレイプニル」は6人の元老によって統治された国であり、魔法に秀でた国である。

治の英雄を聖女と崇める「神聖教国アドミニア」は宗教国家であり、ここに住む者は皆信者である。そのため、教主が国を治めている。とはいえそこまで厳しい教えがあるとは聞いていないので普通の宗教なのだろう。

そしてアタシの住むこの草原に最も近い国が、武の英雄が建国した「フォトナイズ皇国」であり、騎士や魔術師などがその腕を民を守るためにふるう国であり、統治するのは皇族で英雄の末裔である。

この三国の周りを大きな湖が囲っており、超えた先にあるのが魔族が巣くう島である。その島もまたこの三国を囲うようになっている為、結界が無ければ一瞬で全滅してしまうだろう。


この結界を張られた時期に関しては正確なことはいまだにわからないが、千年や万年単位で昔という事は確かである。それだけ長い間結界は張り替えられるどころか傷一つできなかった。

なのにだ、今更その結界を潜り抜けてくるなんて。魔王の魔法は理が違うため結界を潜り抜け、数十年に一度災害のように人々を襲っていた。しかし連発もできないようで毎回十年単位で間隔があき、その間隔は魔法の大きさにも比例していた。さらに毎回違う魔法が放たれている。

気まぐれなのか、もしくは魔力を放つときに何かしら代償が必要なのか。わからないが人々はその数十年の間に立て直し繁栄しなおしていた。


その魔王が前に放った魔法も今から25年前であり、今までの感覚で行けばあと20年近くは大丈夫だと思っていた。が、こうして何者かがこちらに入って来てる以上進行が近いかもしれない。

必ず調査だけにして、すぐに状況報告と引っ越しの準備だななどと考えているうちに湖にたどり着いた。



2.


湖の状況は想像していたよりも静かではあった。いや、静か過ぎるくらいだった。

周りを警戒しつつ、結界に向かい魔法を放つ。

「解析」と小さく唱えると素早く光が結界に集まり、魔力の流れなどを調べだす。

すぐに結果は出た、ここから3時間ほど行ったところに穴ができているようだった。サイズ的には人が一人通れるくらいの大きさだが、そのサイズの魔族であれば通れるという事だった。

アタシはすぐに足に魔力をまとわせ森を抜けたときと同じ要領で走り出した。

走っている最中も決して警戒は怠らなかった。怠らなかった故に気付けた。

走り出してからしばらく、何かが湖の中から陸に上がり森の中に入っていったような跡を。少し乾き始めている為気付きにくいが、湖の水分は魔力を持っている為、乾きだしていてもわかった。

「共鳴」

素早く感知の魔法を使う。するとなんという事だろう、明らかに森の中にないはずの反応が二つ。つまり二人以上の魔族が森に侵入している。

片方は森の中心辺りで動いていないが、もう片方は森を抜け草原の近くまで行っていた。

「ちっ」小さく舌打ちしつつ森から出そうな反応を優先すべきと判断し走り出す。


走り出し家まで10分ほどといったところで反応があった辺りに到着した。

しかし、周りを見渡せど木しかなく魔族の影も見当たらない。感知の魔法を使えど反応はこの場にある。

「面倒だね、焼くか。」

辺りはすでに日が落ち始めている。早急に見つけもう一個の反応も追わなければ不味いと判断したアタシはつけていた眼鏡を懐にしまいながら、素早く杖を召喚し火の魔法を詠唱した。

「燃え盛る獄炎!地獄の火炎ヘル・フレア!」

アタシの内に眠る火の大魔獣の力の一部を解き放つと、アタシを中心に火柱が上がり周囲を飲み込み爆発する。

地面は焼け焦げ木々は灰と化している中、一本だけ激しく燃えながら蠢く木が合った。

「貴様ぁ!何をする!」と魔法を放ったアタシに向かって声を発する。

「まさか、気に化けていたとはね。そりゃ気付かないわけだ。」

「おのれ、我が王の邪魔をするのか!」

「さて、何しに来たのか教えてくれなきゃ何が邪魔なのかわからないね。」

そう返しながらすぐさま次の魔法を準備する。

「まさか貴様が攫ったわけでは無かろうな!人間!」

全く持って身に覚えのないことを言われ、何かを探していることはわかったが何を探しているのか。さらったという事は魔族か?という疑問が生まれるも話し合いにならないと判断する。

「小娘一人、すぐにひねりつぶしてやるわ!」と息まきながら燃える木の魔族は蔦を伸ばしアタシをくし刺しにしようとした。流石に手負いなだけあってスピードはそこまでではなくその場を離れることで余裕で回避できた。

「どこ狙ってるんだい、そんなんじゃあたりやしないよ。」と少し挑発しながら様子をうかがう。

「貴様!儂を愚弄する気か!」

「おや、ご老人だったのかい。お爺ちゃん、ベットはここじゃありませんよー。それとも耳も悪いのかしら?」

「この儂を老人、しかも馬鹿にしおったな!許さん!」と怒りながら魔力を纏わせた葉を飛ばしてきた。

この木、沸点引くいな。もうちょい小突けばなんか吐くな。頭の中で思いついた作戦で少し情報を引き出すことにした。

「お爺ちゃんそんなに暴れると、目的忘れちゃうんじゃない?ほら、何しに来たか口に出しながら思い出しなさい?」

すると魔族は一瞬動きを止め「貴様に言われなくても覚えとるわ!儂の目的は!」と思った通り口を割った。

「儂の目的は!我が魔王の新たな体を取り戻しに来たのじゃ!」

「新しい体?どういう事よ!」驚愕の事実に私は思わず聞き返してしまった。

すると魔族はハッとしたように「貴様だましたな!おのれぇ!」とさらに怒りだし、これ以上の詮索は無意味と判断した。

氷の大魔獣の力を開放しながら周りを警戒すると、先ほどまで中心にいた反応がこちらに近づいてきていることに気付いた。合流されるのは不味い。さっさと倒してもう一人を相手しなきゃ、最悪は撤退。

そんなことを考えながら呪文を解き放つ。

「凍てつけ…」

懲りずにくし刺しにしようと伸ばしてきた蔦の先から凍り、アタシの目の前で蔦は止まり全身を凍らせていた。

私の後ろに現れたもう一人の魔族に「一歩遅かったわね」と心の中でつぶやきながら目の前の魔族に近づき、魔力を込めて思いっきり殴った。

「はぁ…」これから始まるであろう第二ラウンド前に休憩くらいは欲しいものね。などと考えながら「それで、次はお前か?」と後ろを振り向き杖を向ける。

いつでも大魔獣の力を開放できるように警戒しながら。

「出来るなら、さっさと帰ってほしいのだが、まぁそうもいかないよな。ほらさっさとかかってこい。」といつもとは違う威圧する口調で声をかける。

後ろにいたのは見た目は二十になるかどうかの人間の姿をしていた少女だった。そして着ているものに若干の見覚えがあった。

「ーーーーーーーーーーーーー…」何か少女が口にした言語はアタシには聞き取れなかった。

やっぱりこの子、アイツに似ている。アタシは見覚えのあった格好と聞き取れない言語から昔を思い出しながら驚いた。

「なんだって?」とアタシが返すと少女は身振り手振りで何かを伝えようとしてきた。

多分これは言葉が理解できてないって事よね。昔にも同じようなことがあったアタシは警戒をしつつも杖を下ろし昔を思い出していた。あの時は確か…

「解析、調律。」この二つだったはずと思い出した呪文を唱える。

少女の周りに光が集まり始め、光が少女を包んみ元に戻った。不思議そうに首をかしげている少女に私は「付いてこい、場所を変えよう。」と声をかける。正直言えばこの時点でアタシはこの少女の事をほとんど警戒していなかった。

「あの…」と驚きながら恐る恐る声をかけてくる少女。ちゃんと効果はあったようだと安心しながらも懐から眼鏡を取り出しながら「なんだ、ついてこないなら置いていくぞ。話はそれからだ。」と返す。

さて、この堅苦しい言葉いつまで続けるか…そんなことを考えながらアタシは歩き出した。



3.


すっかり暗くなり、森を抜け草原の中心まで歩き地面にある魔力の源に向かって呪文を放つ。

「出でよ」と唱えると不可視の結界が解け自宅が見えるようになる。鍵のような仕組みのおかげで知っているもの以外出入りのできない家なので何か取られたりの心配がなくとても便利だ。

ドアを開け中に入り後ろを振り向くと少女が呆然としていたので「なにしてる、早く入ってこい。」と声をかける。慌てて中に入った少女は「お邪魔します」と呟く。

彼女が入ったのを確認して閉ざせとまた呪文を唱えると「もしかして、また見えなくしたんですか?」

とワクワクしながら質問してきた。

少し無邪気過ぎないか?と思い少し圧をかけることにした。

「それに答える前に、まずお前は何者だ。どこから来た。目的は。何のためにあそこにいた。」

少しばかり殺気立てて聞いてみた。すると思い出したかのように不安の気配が出てきた。

「あー、えーっと。まず確認したいんですけどここはどこですか?できれば日付と時間も聞きたいです」

と恐る恐るの返答にやはりかと思いながら怪訝そうな顔を作り「ここはフォトナイズ皇国のはずれの魔境界近くの森の手前だ。日付はエメラルドの十一日目だ。時刻は見ればわかるだろ、大体19を過ぎたくらいだ。」と返した。

少女もどうやら予想はしていたらしくそこまで驚いた様子もなかった。

「えー、私は三日月 緋奈で日本から来ました。目的は帰宅?人を探して歩き回ってて爆発音につられてって感じですかね…」

緋奈と名乗る少女。緋奈は「これでいいか?」とでも言いたげにこちらの顔色を窺っていた。

とりあえず玄関に立ちっぱにさせるのも可哀そうなので、テーブルの席を指さしながら「そうか、とりあえず座れ。」と促した。

部屋の奥の扉を開け入り、洗濯籠と私が昔着ていた服を取り出しながら食料の調達をサクラにしなければと考えリビングに声かける。

「見た感じ濡れていたようだな、暖炉の方に近づきたいなら椅子を持ってそっちの方に行くといい。着ているものは脱げ、代わりの服と洗濯の籠を持ってくる。飲み物はあったかいものでいいか?あと嫌いなものは無いな?サンドイッチ程度の軽食しか用意できんが文句は言うな。」

「え、あ、はい。」ととあいまいな返事をするので見つけた服と籠をもってリビングに行き「何しているさっさと服を脱いで座っていろ、風邪ひくぞ。今風呂を沸かしているからちゃんと体を温めてこい。ほらこれをとりあえず着ろ、私が着れなくなった服だ。」と緋奈の荷物を勝手に持っていきながら置いていく。

あとで荷物の中身を確認しようと二階の自室に置き、あまり立たない台所に立つ。コーヒーよりかはココアの方がいいか。戸棚の奥にあるココアの粉を客用のマグカップに入れ温めたミルクを入れ混ぜる。自分のマグカップにはいつも飲んでいる紅茶を入れ、こちらにもミルクを入れる。

マグカップをもってリビングに行くと言った通り着替えて洗濯籠に脱いだ衣服を入れ、暖炉の近くで温まっていた。「ココアと言ってわかるか?暖かく甘い飲み物だ。」と言いながらマグカップを渡す。

「ありがとうございます。ココアはわかります、日本にもあったので。」

「そうか、とりあえず自己紹介がまだだったので名乗っておこう。」

アタシはこのタイミングで普段通りのしゃべり方に戻すことにした。

「アタシの名前はエクレア。まぁ色々あってここで隠居生活してる魔女さ。」

魔女と聞いても驚かないのでやっぱり気付いているのだろう。なのでそれを肯定してやることにした。

「多分、アンタの想像してる通りここはあんたのいた世界と違うね。まぁご苦労さん。ここから帰る方法はこっちに呼び出した本人探して返してもらうしかないね。」

やっぱりと納得する緋奈。

「エクレア…様?」「エクレアでいいよ、仰々しいのは好きじゃないんだ。」「じゃあエクレアさんで。その呼び出した人っていうのは誰かわかるんですか?」

もっともな質問だな。帰りたいのだからそれは聞くに決まっている。が、今回の場合は…

「わからなくはない…というか本来なら呼び出した奴、呼び出した奴の事を召喚師、呼び出された方を召喚者って呼ぶんだけど。その召喚師の近くに召喚されるんだよ。」と前置きし「アンタほんとに近くに誰もいなかったのかい」と聞いた。

必死に思い返すそぶりを見せる緋奈。

「溺れかけててあんまりわからないです」

そうかいと返事しながらアタシはマグカップの紅茶を飲む。

「とりあえず、今日は風呂入って寝な。話は明日聞いてやる。」と風呂場に案内し、彼女が風呂に入ってる間にサクラに魔力紙で連絡を入れながらアイツにも状況を伝える。

サクラからは「わかりました、明日の朝には帰ります。」と返信がすぐに帰ってきた。

それから昔使っていたアイツの部屋のベットを整え緋奈が使えるように準備しているとちょうどお風呂から上がったようだった。

あれはあそここれはあそこと一通り教え、再び外に行く準備を整え結界近くまで移動した。彼女なら一人でも大丈夫だろう。

しかし懸念すべきは彼女が誰に召喚されたか。

そしてもう一つ、魔王の新たな体。

アイツからの手紙の返事には「少し調べたいことがあるから、その少女の荷物の一部を送ってくれ」という内容だった。

「三日月…ねぇ…」

とんだ巡り会わせだね。と心の中で思いつつ結界を修復し帰路に就く。

感知の魔法を飛ばしてみたが他にもぐりこんだ魔族もいなさそうだった。

家に戻り、地下室の魔法陣を使ってアイツの下に荷物を送る。荷物の中にあった四角い箱と紐のような物、後は乾かした書物を一冊。まぁ適当なこと言いながら誤魔化せば彼女も許してはくれるだろう。

自室に戻り手元に残した書物を読んでみるも何が書いてあるかはさっぱりだった。

仕方がないので台所の保存箱からサクラが作ったサンドイッチを取り出し自室に戻り食べながら一つ思い出した。

「サンドイッチあげてないじゃん」

まぁ色々言葉遣いとか変かもしれないですが気にしないでください。

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