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予兆はあった

 それは、出張のちょっと前の同期会でのこと。


 「かんぱーい」

 「お疲れさま」

 「おー」


 同期は、私を含めて6人。開発が4人、総務とセールスエンジニアが1人ずつ。

 互いに忙しい業務の中、半年に1度は親睦のための飲み会を開いている。

 陸は、出向先の都合がつけば参加しているが、今回は不参加との連絡が来ている。

 うちの会社は、大手電機企業の子会社だ。仕事の多くは、本社から回ってくるので、営業職は少ない。セールスエンジニアの方のSEはいるが、開発職の人間が多い。


 「1開発部は、相変わらず忙しそうだね」

 山本華が、グラスを合わせながら私に話しかけてきた。


 「ほんと相変わらずだよー。2開発部は、どんな感じ?」

 原田祐樹、山本華夫妻は、2開発部の別々のプロジェクトに属している。山本は、旧姓で、通名だ。苗字を変えたら面倒だからね。


 「こっちは、コンプライアンス通り、定時退社がほとんどだよね。」

 「そうそう。今のところ、大きなシステム改修とかはないから」

 2開発部は、社内システムや教育システムの開発運用を担当しているので、比較的余裕のある仕事をしている。

 1開発部は、お客様向けの開発を行っているため、お客様都合で休日が変更されたりつぶれたりする事が多い。海外展開をしている顧客の場合、深夜対応も必要になってくる。とはいっても、ブラックではない企業なので、勤怠管理はきちんと行われているし、残業時間の上限は法定内に収まるように休みは取っている。ただ、突発的なトラブル対応のため、休暇返上になることもあるというだけで。倉木のように、お客様先に出向になった場合は、出向先の勤怠にも合わせるので、中々会うこともできなくなる。


 「ところで、倉木とは連絡とってるん?」

 営業の佐藤が、私の隣に移動してきた。


 「毎日連絡してるよ。なんで?」

 「ラブラブだぁー」

 華がにこにこと笑いかけてきた。

 「倉木の出向先に、同僚の同期も行ってるんだけど。。。」

 出向先の担当女性上司が、倉木陸にやたら絡んでいるように見えるので気をつけろと、連絡が来たらしい。ちなみに、陸に私という彼女がいるのは、社内では割と有名な話だ。


 倉木陸は、モテる。細身の高身長で、さわやか系の整った顔立ち。常ににこやかな笑みを浮かべていて、質問すれば親切に教えてくれる。年上年下男女構わずに声をかけられている。ちなみに同期は、男女3人ずつの構成だったが、新人研修を一緒に受けているうちに、相性やら何やらで、自然に3組ずつのペアに分かれたので、ドロドロな話にはならなかった。

 開発部に配属された原田祐樹、山本華は、2年後に結婚した。営業の佐藤知也と総務の石田美那は、1年間付き合って別れた。美那は総務の人とお付き合いしているらしいが、詳細は秘密らしい。佐藤は、今は仕事優先だとのこと。強がりっぽく言っているが、本音らしい。


 「白川さんでしょ。知ってるよ」

 「うそ。なんで?」

 「デート先で偶然出会った」


 偶然?という華に、美那も大きく頷いていた。

 いや、まぁ、私たちのデートとデート先は秘密じゃなかったらしいので、偶然じゃない可能性もあるけれど。

 「でも、わざわざそんなことする?」

 何のために。と問い返すと、

 「下見?」

 「牽制?」

 「戦線布告?」

 華に美那、原田夫までが不穏な言葉を吐いてくれる。


 「でも、陸は何でもないといっているし。。。」

 「あいつはあまり、そういうことに気が付かないんだよな。新人研修のときも、講師の前田先輩がやたらと近づいていたり食事に誘ったりしていたのに、対応が冷たかったりしてただろ」

 「え?あれはわざと無視してたんじゃないの?」

 「素だよ。倉木は、興味がない相手には、塩対応だ」

 佐藤は、この中では倉木と一番親しかったっけ。

 「でも、芽唯にはラブラブだったよねー」

 美耶がにこにこ笑っている。ちょっと恥ずかしい。


 「倉木は気が付いていないとしても、だ。芽唯を傷つけることがあったら、私が許さない」

 華が唐揚げを持ち上げて力説してくれる。

 「華。ありがとー。私の唐揚げもあげるよー。」

 持つべきものは同期だ。

 盛り合わせの皿から、華の取り皿に一個追加する。

 「俺も、倉木に話してみるけど、気をつけろよ」

 うん。でも、何を気をつければ?どう、気をつけろと?

 酔っ払いの頭には、難し過ぎた問題だった。


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