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p.7

 いつの間にか夜を迎え、辺りに咲いていた向日葵は輝きを潜ませてしまい、代わりに眼窩に広がる海が淡く青い光を放っていた。


 幻想的な光に目を凝らしていると、その光の中に見慣れた姿を見つけた。


 暗い闇に包まれ、見下ろすほどに離れた浜辺でも、見間違えるはずがない。恋しくて恋しくて求め続けたあの人の姿を。


「晴彦さん!」

「えっ? ちょっと、織ちゃん……」


 声にならない声を上げて駆け出した私を制するように白鳥さんの声が後から追いかけてきたけれど、私は構わず全力で浜に向かった。


「晴彦……さん」


 浜に降り立った私は、青く淡い光の中に佇む彼の背中に呼びかける。私の呼びかけにクルリと振り返った彼は、いつもの不器用な笑みを見せて、私の名前を読んだ。


「織子」

「もう、どこへ行っていたのよ? どれだけ心配したと思っているの!」

「ごめん」

「もう、どこへも行ったりしないで……」


 怒りと安堵が入り混じり、私は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、彼から目を離さずにいた。私の視界から一瞬でも彼が居なくなってしまったら、またそのまま姿を見失ってしまいそうだったから。


 淡い光を纏った彼は私に近づくと、黙ったままそっと私の涙を拭ってくれた。


「泣くな織子。俺は、お前の涙を見たくない」

「誰のせいだと思っているのよ……」


 グスリと鼻を鳴らしながら軽く睨むと、晴彦さんは、困ったようにクシャリと髪を掻いた。


「……俺……のせいだよな」

「わかっているなら、もう何処へも行かないで。私を一人にしないで。約束して」

「……」

「何とか言ってよ」

「……俺はもう、織子のそばにいてやれない」

「なんで? どうしてそんなこと言うの? 私、何かした?」


 私の必死の訴えに、晴彦さんは、静かに首を振る。


「本当は織子もわかっているんだろう?」

「わかるって何を? 私、何もわからないよ。何も知らない」


 夢中で晴彦さんにしがみつこうとした時、黒い海に一筋の白い光が浮き上がる。


「もう無理みたいだ」

「何が無理なの?」

「俺は、必ず、お前を迎えに来る。だから、それまでは、あいつの想いを……」

「何? 待って、晴彦さん」


 青く淡い光を放っていた晴彦さんの体は、次第に薄くなり、慌てて彼の腕を掴もうとした私の手は、虚しく(くう)を切っただけだった。


「晴彦さん……」


 白い月が浮かぶ暗い海が、ポツリとこぼれ落ちた私の言葉を呑み込んでいく。


「織ちゃん」


 背後からそっと声がかけられた。


「白鳥さん。海が……海が青く光っていたの」

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