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いつも通りすぎて、振られた実感があまりなかった私は、その後もしつこく晴彦さんのことを想い続けた。
そうは言っても、会えるのは、1年の内でほんの数日。あとは、私が遠くから勝手に想いを募らせていただけなのだから、そんなに重たい話でもないはずだ。
18の夏。懲りずに想いを伝えると、晴彦さんはまた同じ言葉で私を振った。
19の夏。もう高校生じゃなくなった私は、胸を張って言う。
「もう、高校生じゃないわよ! 花の女子大生。もう、いいわよね?」
晴彦さんは、そんな私の頭に軽くチョップを落とした。頭を押さえて、唇を尖らせる私を見て、彼は眉間に寄せていた皺を少し緩めた。だけど、明確な答えはくれなかった。
20の夏。晴彦さんを想い続けて5年が経っていた。
彼は、私のことを疎ましくは思っていない。それなのに、私のことを受け入れてくれないのには、何か理由があるはずだと思った。
そこで、私は思い切って白鳥さんに相談をしてみた。いつも晴彦さんの近くにいる彼ならば、何か理由を知っているかもしれないと思ったからだ。
自分の秘めた想いを他人に打ち明けるのは、自分の弱点を曝け出すようで酷く不安だったが、話を聞いた白鳥さんは、優しい笑顔で私の背中を押してくれた。
「心配する事ないよ。晴彦は織ちゃんのことが好きなはずだから。だから、二人は両想いだよ」
「でも、いくら私が想いを伝えても、晴彦さんははぐらかしてばかりで……」
「僕からも後押しをしておくよ。明日もう一度告白してごらん」
20歳の余暇の最後の日。日常へと帰る私を見送るために来てくれた晴彦さんと、白鳥さんの前で、別れを惜しみ、モジモジとどこかぎこちなくしていると、白鳥さんが優しく私の背中をポンと押した。
つんのめるようにして晴彦さんの前に立つ。「どうした?」と不思議そうな視線を向けてきた晴彦さんへ、私は決死の覚悟で想いを口にした。
もしもまた断られたら、もうこの恋は諦めよう。ここへ来るのも最後にしよう。そう心に決めていた。
半ばダメ元で口にした想い。決して嘘やデマカセなんかではなかったが、4度の失敗が、私に成功する未来を見せなかった。
「もう20歳だしな。まぁ、そうだな」
そっぽを向いて頬を掻く彼の言葉の意味が分からず、私は、項垂れた。
しかし、白鳥さんにポンッと肩を叩かれ、「僕の言ったとおりだろ?」と言う言葉に、ようやくOKの返事をもらっていたことに気がついた。
「い、いいの? 私と?」