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p.3

 どれだけの間、私は波音に心を奪われていたのだろうか。様変わりしている目の前の景色に驚き、足がすくんで動けずにいると、不意に、ガシリと肩を掴まれた。


 ビクリとした私に構わず、その人は私の手を取ると、力強く歩き出す。砂に足を取られながら、彼に引きずられるようにして私は砂浜から抜け出した。


 階段を数段上り、先導する彼がようやく足を止めたので、私も足を止めて振り返る。先ほどまで私が突っ立っていた場所は、もう海になっていた。


「満潮になると言っただろっ! どうして、動かなかったんだっ!」


 初めて聞いた晴彦さんの声は、少し低くて怒気を含んでいた。威圧を感じるその視線に思わず口籠る。


「あの……」


 そんな私に構わず、晴彦さんは怒りのままに捲し立てる。


「死のうとか考えていたのか? だったら、この海でそういうことはするな! お前が何処でどうなろうが俺の知ったことじゃないが、この海を汚すようなことはやめろ! いいか! 分かったな!」


 一方的なその言い草に、私は頭にきて思わず言い返した。


「そんなに怒鳴らなくたっていいじゃないですか! 確かに、ちょっとぼんやりとしていて危なかったかもしれないけど、別に死ぬつもりなんてありませんよっ!」


 私の豹変ぶりに、晴彦さんは目を見開き、ポカンと口を開ける。そんな彼のそばにいつの間にかやって来ていた白鳥さんが、クスクスと可笑そうに笑う。


「無事で良かった。ねぇ、晴彦」


 呆然としながら、晴彦さんが私に問い掛けてきた。


「お前、死ぬつもりじゃなかったのか?」

「だから、違うって言ってるじゃないですか」


 私の素っ気ない物言いに、自分の勘違いに気がついた晴彦さんは、ジロリと白鳥さんを睨んだ。


「おい、白鳥。どういうことだよ! こいつ、死ぬつもりなんかなかったじゃないか?」

「僕は別に、この子が死ぬかもなんて言ってないだろ。ただ、『あの子、大丈夫かな?』って晴彦に聞いただけじゃないか。それなのに、晴彦が血相を変えて引き返しただけだろ」


 飄々とした白鳥さんの言葉に、晴彦さんはギリっと音がしそうなほどに歯噛みした。繋がれたままになっていた手にも力が入り、思わず私の口から声が漏れる。


「痛っ」

「あっ、悪りぃ」


 バッと私の手を離し、気まずそうに頭を掻いたその姿は、先ほどまでの威圧などどこにもなく、それどころか少し頼りなげに見えて、どこか可愛らしかった。


 私は、思わずプッと吹き出してから、それを誤魔化すように、笑みを深めた。

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