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5.十三回目のループ



 ティアは目覚めた。あたりをキョロキョロと見まわす。懐かしい部屋にはベッドが六つ詰め込まれていて、年の違った子供たちが眠っている。


 また十五歳に戻っている!


 十五歳のころのティアはまだ乙女の楽園にいた。

 乙女の楽園で暮らせるのは十七歳までだ。そこから先は、各地の修道院へ送られる。聖女に選ばれたものはそこから聖女教育を受け、なれないものは修道院の修道女として働くことになる。

 

 温かいベッド、清潔な部屋、美味しい食事と、親から捨てられる前の生活に比べれば、ここは楽園だった。こんな楽園を作ってくれたドロメナ教にどれだけ感謝したことか。

 幸せな思い出しかない。

 しかし、今では教団にとって使い捨てできる聖女を育てる場だと知ってしまった。


 でも、ドロメナ神は違ったのよね、生贄なんて望んでなかったんだ……。


 だとしたら過去に繰り返された死は完全に無駄だったことになる。


 さて、自由になるためには、まずここから追い出されなきゃ!


 逃げるのではなく、追い出されるのが肝心なのだ。

 楽園から逃げ出せば連れ戻されるが、ドロメナ教から除籍されれば追われることなく自由になれる。

 そのため、ティアは逃げ出すのではなく追い出されることを望んでいた。


 やっぱり、聖女の反対の悪女になるのが一番手っ取り早いわね。そうよ! 悪女になろう!!


 意気込んだはいいものの、世間知らずのティアは実際の悪女を知らない。

 教会に納められていた本の知識しかない。教会で読めるだけあって、あまり毒々しい話はない。

 ティアは悪女をおとぎ話の中の魔女のようなものだと思っていた。


 さて、まずはどんな悪いことをしようかな。


 ティアは、クククとほくそ笑んだ。

 そのときドアの向こうから声が聞こえる。


「起きる時間です。今日は種まきをするよ」


 優しい男性の声が聞こえる。乙女の楽園を管理している司祭だ。

 司祭を中心に数人の修道女たちが、子供たちの面倒を見ている。


 やっぱり、今日は秋の種まきの日だ。戻る日までいつも一緒なのよね。 今日は朝から忙しいはず。そうだ! まずは寝坊をしてやろう!


 ティアは布団の中で寝たふりをする。

 すると同じ部屋の子供たちが、やってきてティアをユサユサと揺すった。


「ティア姉ちゃん、起きて!」

「ティアねー、あさよ!」


 子供たちが口々に騒ぐ。

 ティアは狸寝入りを決め込んだ。

 すると司祭がやってきて、優しく声を掛ける。


「ティア、起きなさい。お寝坊さんは聖女になれませんよ」

「そうだよ、せいじょになれないよ」


 子供たちの声に、ティアは寝言で答えた。


「むにゃむにゃ……、ティアは聖女になりません……むにゃむにゃ……」


 あまりにもわざとらしい寝言に、みんなは笑う。


「ティア姉ちゃん、おもしろーい!」

「ティアねー、へんなの!」


 その瞬間、ティアのお腹が盛大に鳴った。

 司祭が笑う。


「お腹はお目覚めのようだよ。ごはんを食べさせてあげよう、ティア?」


 三日間の絶食でたしかにお腹が空いているのだ。

 たしかに、寝坊でごはんが食べられないのは悲しすぎる。

 ティアはあまりの気まずさに、モゾモゾと布団から顔を出した。


「おはよう、ティア」

「おはようございます、司祭様」

「さあ、朝の準備をしよう?」


 司祭から優しく言われ、ティアは頷いた。


 そうよ! 悪いことよりまずはごはん! 腹が減っては戦は出来ぬ、よね。


 ティアはベッドから出ると、お決まりの白いシャツと茶色いズボンに着替える。

 メコノプを育てる孤児院の制服は作業服のようだった。

 ティアはエプロンバックを腰につけ、支度を調え、朝食を摂る。


 いつものケシの実がついたパンに、乙女の楽園で飼われているニワトリの卵、同じく楽園で穫れた野菜といった朝食だ。

 それに、メコノプのお茶がつく。


 聖花と尊ばれるメコノプは、ドロメナ教が独占しているのだ。ドロメナ教の選ばれた女子孤児院数カ所のみで栽培されている。

 

 でも、そんな珍しい花だってこと、ここから出るまで知らなかったのよね。ほかの野菜と一緒に植えられてるし。とくになにも言われなかったし。


 ティアはメコノプのお茶をジッと見た。メコノプのお茶は青く美しい。

 

「どうしたんだい? ティア」


 司祭がティアを見て微笑んだ。


「綺麗だなって思ったんです」

「ああ、そうだね。ティアもドロメナ様に一生懸命お仕えすれば、このように青く清らかな聖女様になれるでしょう」


 でも、私は今から悪女になるんですけど!


「はい!」


 ティアはそれらしい笑顔を見せた。


 悪女ならこれくらいの嘘はつかなくっちゃね! ってことで、もっと悪いことしちゃおう!


 ククク、とティアは笑い、今後の予定を考えた。


 この日に戻ってきたのは意味がある。

 なんどこの日を繰り返しても、数日後に必ず起こる出来事。

 

 ルタロス王国が、隣国エリシオン王国と戦うことになった原因。


 傷ついたドラゴンの子供が、ルタロス王国の者に発見されるのだ。

 ルタロス王国ではドラゴンは邪神の使いだ。

 ドラゴンは九年かかったが討伐された。

 しかし、隣国エリシオンにとってドラゴンは神の使いである。子ドラゴンが殺されたことを知ったエリシオンの竜騎士団が、この村を焼いたのだった。

 それが戦争の発端となったのだ。


 そうよ、戦争になるきっかけさえなければ、『神の花嫁』が本当に生贄なることはないんだから。

 それは絶対阻止しなきゃ!


 ティアは小さく気合いを入れた。





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