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26.妾は土の精霊、エルロ・オフサルモス・カラジアス



 そんな中、玄関のドアが四度叩かれた。


 イディオスがドアを開けると、そこにはひとりの幼女がいた。

 褐色の肌に、黒いおかっぱ髪。ネコのようなつり目に、耳は少し尖っている。幼女といえども凄みがあり、人とは思えない美しさだ。


「ここに大聖女がいるな」


 幼女は慇懃無礼に尋ねる。イディオスは冷たい目で幼女を見くだした。


「お前はだれだ」

「妾はドロメナから来た者だ」


 名乗りを聞いてティアはマントの上から飛び上がった。イディオスの後ろから、おそるおそる玄関を覗きこんだ。


 幼女はティアを見つけると満面の笑みを向けた。


「大聖女ティア、妾は土の精霊、エルロ・オフサルモス・カラジアスだ」


 伝説でしか聞いたことがない精霊の登場だ。


「土の精霊様がなんで!?」

「大聖女よ、礼を言う」


 驚くティアにエルロは言った。


「礼、ですか?」


 ティアは首をかしげた。


「際限なくドラゴンに穢されるため、ここは妾も見放した地。浄化してくれた礼を伝えに来た」


 イディオスが驚いた顔でティアに振り返る。


「……浄化?」

「領主様に許可を得ず、地面をちょっとだけ浄化しちゃいました」


 テヘ、とティアが誤魔化すように笑う。

 

「大聖女の尊い行為に報いるため、妾もルタロスからエリシオンへ移住すると決めた」

「はい?」

「妾もここに住む」


 エルロが再度言い、イディオスは慌てた。


「駄目だ! ここは俺とティアの巣だ!」

「いやいや、イディオス、土の精霊様がドラコーン島に来ることは良いことですよ! きっと、土地が豊かになります」

「そうだ! 我が住む場所は土地が豊かになる! 妾が来たのだ。ここでもメコノプを咲かせてやるぞ」

「聖花メコノプをですか? でも種が……」

「案ずるでない」


 エルロはニヤリと笑って、庭の一角を指差した。

 すると、ポコンポコンと小さな芽が土から生えて、あれよあれよという間に花を咲かせる。メコノプである。


「どうだ!」


 ドヤ顔で胸を反らす土の精霊をティアはギュッと抱きしめた。

 

「すごい! すごいです!! エルロ様」

「さすがだろ?」

「さすがです」

「これでメコノプを使ったポーションが作れるわ! 痛みがスッと引く強力なポーションなんです!」


 ティアはキラキラとした目でイディオスを見た。

 イディオスは小さくため息をついた。

 そんなに嬉しそうな顔を向けられては、反対しにくい。


「男よ、そんなに悩むでない。妾が住むのは家ではない。土地だ。お主の巣をこわしたりはせん」

「……わかった」


 エルロが言い、イディオスは嫌々ながらと言ったように承諾する。


 するとエルロはティアに跪き、その足に口づけた。ブワリとそこから神聖力が満ちてくる。


「な!?」


 動揺するティアにエルロは笑った。


「これでお前の踏んだ土地から妾が自在に行き来できる。大聖女ティア、困ったときは妾の名を呼べ」


 エルロはそう言うと、ズブズブと地面の中に溶けていった。


 ティアとイディオスは呆然として地面を眺めた。

 庭の地面はエルロが沈んだ部分から、ふかふかとした豊かな土になった。


「!! すごい!! こんなに軟らかな土なら、きっと薬草もたくさん育てられる!」


 大興奮で庭中をピョンピョンと跳ね回るティアを、イディオスは微笑ましいと思いながら、眺めていた。


「イディオスはなにを植えたいですか?」


 ティアが夕日の中で振り返る。夕日に彼女の髪が光る。まるで、太陽から生まれ出た女神のように美しい。


「……ブーゲンビリア」


 イディオスは呟く。魂の花と呼ばれる花の名だ。その花は、ティアの瞳と同じ色をしていた。


「うん、いいですね! 壁に這わせたら綺麗よ、きっと!」


 白い壁、青い屋根、それに寄り添うブーゲンビリア。

 イディオスはその様子を想像して、幸せで一杯になる。

 

 イディオスの満たされた笑顔に、ティアは目を奪われた。

 夕日のせいなのか、頬が赤らんで見える。青空色の瞳は紫に陰り、なんだか妖しげな雰囲気だ。


「綺麗ね」


 ティアが思わず漏らせば、イディオスはティアに見蕩れて頷いた。


「ああ、綺麗だ」


 お互いに違うものを見ていながら、零れた言葉は一緒だった。



 それから、イディオスとティアは、家を整えつつ畑を作り薬草を育てはじめた。

 メコノプから作ったポーションが竜騎士団でも好評だったことから、ループの知識を生かし、いろいろな薬草を育てて、様々なポーションを作りたいと考えていたのだ。


 エルロのおかけでふかふかになった畑に種をまき、浄化した水をキュアノスが撒く。神聖力で祈りを捧げると、あっという間に芽が出てきた。


「やっぱり、水が悪いのもいけないわね……。できるだけ領地内で作物が作れるようになりたいし、水源をこっそり浄化しにいっちゃおうかしら。あと、特産品があれば、仕事も増えて豊かになるかも……」


 ティアの夢は、自由になってのんびりと暮らすことだ。

 裕福でなくとも身の丈に合った暮らしができれば良い。

 しかし、そのためには周囲の環境が暮らしやすい必要があった。


「特産品、そうよ! ドラゴンの皮があるじゃない!! ……でもどうやって」


 ティアはイディオスを見た。


「王都から商人を呼べば良い。ラドンに協力を頼もう。ドラコーンが潤うことは良いことだ」


 イディオスはゆったりと笑った。



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