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20.あなたはたまに悪女らしい


 ティアがドラゴンに向かって両手を広げると、イディオスがあたりまえのように抱きしめてきた。


「違う! 違います!! グリーンドラゴンを治療するんです」


 ティアがアワアワとすると、イディオスは頬を赤らめ、慌ててティアから離れた。

 ドラゴンたちがニヤニヤと笑う。


 ティアは咳払いをして仕切り直す。


「グリーンドラゴンさん、首をおろして?」


 グリーンドラゴンはティアの言葉に従って首をおろした。

 ティアはギュッとドラゴンの首に抱きつく。

 そして、そこから神聖力を送り込み、傷を探索する。


 すると、ドラゴンの内部にはたくさんの魔石のやじりが打ち込まれていることがわかった。種類の違う魔石同士が反響し、いまだにドラゴンを蝕んでいる。

 しかも、長い年月が経ちすぎ、それらの魔石はドラゴンの皮膚より下に食い込んでいた。


「……これは……ひどい……」


 ティアは魔石の埋まっている場所に手をかざし、ひとつづつ丁寧に取りだした。ドラゴン退治に使われた魔石は最上級のものだった。しかも、ドラゴンの体の中で更に強い力を得ている。

 ドラゴンの体から取り出された魔石は特殊な魔力を持つため、ドラゴン産の魔石と呼ばれ特別視されていた。


「これが伝説のドラゴン産の魔石……」


 ティアはため息をつく。

 ルタロス王国の貴重な聖遺物にはドラゴン産の魔石が使われているのだ。『紅蓮の希望』も例外ではない。

 しかし、ルタロスではドラゴン自体が珍しかった。古くから邪神の使いとして退治されてきたからだ。

 その上、ドラゴンは人気のないところで隠れて死ぬ。

 そんな理由もあって、ドラゴン産の魔石はルタロスでは破格の価値があった。


「珍しいのですか?」

「もちろんです! 最上級の魔道具が作れます。エリシオンでは違うんですか!?」

「エリシオンではすべて魔獣で事足りるから、魔法や魔道具をほとんど使わない。昔は魔法陣があったらしいがその本も今はあまり残っていない」


 イディオスの答えに、ティアは文化の違いを感じた。

 魔法や魔道具の発達したルタロスに対して、エリシオンは魔獣操舵に長けた国だった。魔石に対する価値観が違った。


「……でもこれは将来役立つはずです。ラドン様に渡しましょう」

「そうなのか?」

「ドラコーン島になにかあったとき、交渉の切り札になるはずです。使い方によっては、エリシオンの王家だって、ルタロスの王家だって脅せます」


 ティアはクククと思わずほくそ笑む。


「あなたはたまに悪女らしいことを言う」


 イディオスが笑う。


 ティアはコホンと咳払いしてから、ドラゴンの治療に専念した。魔石をすべて取り出すと、もう一度ドラゴンを抱きしめて体全体で治癒の魔法を送り込む。


恩愛カリス


 ティアの体がピンク色に輝き、ドラゴンを包み込んだ。


 大きなドラゴン相手では、キュアノスと同じというわけには行かない。

 しかも、古くて大きな傷だ。

 ありったけの神聖力をドラゴンに送り込んだ。


 緑のドラゴンは、グルルと一鳴きすると翼をバタと羽ばたかせた。

 どうやら、傷が治ったらしい。

 

 ティアはドラゴンから離れた。

 クラリと目眩がする。

 神聖力が枯渇したのだ。


 ふらついたティアをイディオスが抱き留めた。そしてあたりまえのようにお姫様抱っこする。

 疲れた果てていたティアは大人しく抱かれていた。

 男の人はまだ怖くても、イディオスは怖くない。


 緑のドラゴンは静かに起き上がり、洞窟の入り口に向かって歩いていった。

 そして大きな雄叫びを上げる。歓喜の咆吼だ。


 ティアは思わず耳を塞いだ。


 緑のドラゴンはティアに振り返ると深々とお辞儀した。

 そして、洞窟の入り口から大空に向かって飛び出していった。


 イディオスはティアを抱いたまま洞窟の入り口へ向かう。

 そこからは、竜の谷の空を喜びながら舞う緑の竜が見えた。

 空を舞う緑のドラゴンを見た、ほかのドラゴンたちも喜びながら空を旋回しはじめる。

 緑のドラゴンを中心にして、ドラゴンの輪ができた。

 まるでお祭りのように喜び合う姿を見て、ティアは思う。


「ドラゴンも人といっしょなんだ……」


 思わず呟けば、イディオスが嬉しそうに微笑んだ。


「本当にドラゴンが好きなのね」


 ティアが問えば、イディオスは満面の笑みで頷いた。


「ああ、好きだ」


 今まで見たことのない慈愛に満ちた表情に、ティアはドキリとする。

 そして、無表情で冷徹と言われる竜騎士に、そんな顔をさせるドラゴンたちが少し羨ましいと思った。


 イディオスは自分の白いドラゴンを撫で、行っておいでと囁いた。

 白いドラゴンは嬉しそうに飛び立って、ドラゴンの輪に交ざっていく。


「キュアノスも行って良いのよ?」


 ティアが言うと、キュアノスは関心なさそうにフンと鼻を鳴らした。


「キュアノスは興味がないらしい。コイツは生まれたときから一匹(おおかみ)だからな。ドラゴン相手でも群れないんだ」


 イディオスが笑った。


「そうなのね」


 ティアはキュアノスを撫でる。キュアノスは嬉しそうにティアの頬に頭を擦り付けた。

 大量の神聖力を使ったティアは思わずふらつく。


「そう言えば、神聖力を使うと疲れるんだったな。少し休んでください」


 そう言われ、連れていかれたのはグリーンドラゴンの巣の奥だった。

 埃っぽく汚れた行き止まりには、古いなにかが積み重なっていた。



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