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13.ならば、女神は俺がもらおう


 司祭は蒼白な顔をしてティアを見ている。

 腰が抜けたように地面に座り込んでいた。


 ティアは起き上がらせようと手を差し伸べた。

 すると、司祭は地面に転がる石をティアに投げつけた。


「来るな! 化け物! ドラゴンを扱う悪女め!!」

「違います! 私はみんなを助けたくて!!」

「うるさい! うるさい! うるさい!! 私はその姿に騙されないぞ! そうやって慈悲をかける振りをして、男を惑わす悪女なのだ!!」


 罵りながら次々と石を投げ続ける。

 子供たちは、豹変ひょうへんした司祭の姿を見て、恐れおののき震えて泣く。


「司祭様?」

「どうして?」

「やめてぇ!」


 子供たちを庇う修道女は、司祭から子供たちを守るようにギュッと抱きしめた。


「司祭様……」


 ティアが一歩足を踏み出すと、司祭は尻をついたままジリジリと後退しつつ、石を投げ続ける。


「来るな! 来るな! この悪女!!」

 

 カツリ、小石がティアの額に当たった。

 ティアの額から血が流れた。


「キュァァァ!!」


 キュアノスが空から咆吼し、翼を広げた。


「だめよ、キュアノス! こんなの平気だから!」


 ティアはキュアノスを止める。そしてもう一度司祭に呼びかける。


「……司祭様。話を聞いてください」

「耳が腐る! 空気が汚れる! 早くこの場から出て行け!! 今さら謝っても無駄だ。縋っても私は騙されない!!」


 ティアは傷ついた。

 すべては、今まで育ててくれた司祭と乙女の楽園のためだった。

 それなのにこの仕打ち。

 ティアはうつむき唇を噛む。


「司祭様……」

「私を呼ぶな! 今さら縋っても無駄だ! お前は除籍した。ここにお前の居場所はない!! ざまぁみろ!! そして、ここは完璧な楽園になる――!」


 司祭は狂ったように声を上げて笑った。


「ならば、女神は俺がもらおう」


 イディオスの声が響いた。同時にドシンとホワイトドラゴンが庭に降りる。

 イディオスはホワイトドラゴンから飛び下りた。マントがヒラリと翻る。そしてティアの前に跪いた。


「っ!? イディオス!?」

「俺のもとに来てください。ティア。こんなところにいるのは宝の持ち腐れだ。エリシオンなら、あなたの力を思う存分に発揮できる」


 そうして真剣な眼差しで、右手を差し出した。

 真面目な顔のイディオスが、ティアはまだ少し怖い。剣を向けられたことを思い出すのだ。

 しかし、こくりと頷き手を取った。


「はい!」

「では、行きましょう!!」


 イディオスはティアを当たり前のように抱きかかえる。

 ティアは、いびつに笑う司教を見おろした。そして告げる。


「ありがとう。私、除籍されたかったの!」


 そして優雅にニッコリと笑った。

 司祭は思わず目を奪われ、笑いを止めた。

 子供たちもぽうっと見蕩れた。


「これからは自由に生きます!」


 ティアの宣言を聞き、イディオスは満足げに笑った。

 そして、ティアを抱えてホワイトドラゴンの背に飛び乗った。するとドラゴンは翼を羽ばたかせた。


「ティアねー!」

「ティア姉ちゃん!!」

「まって! 行かないで!」

「おねぇちゃん!!」

「ティア! あなたがいないと困るわ! 戻ってきて、ティア!!」


 子供たちが追いすがる。修道女もティアを呼び止める。

 ティアはその姿に胸を痛めたが、除籍されたのではどうすることも出来ない。


「みんな、元気でね!」


 にじむ涙を手で拭って、ティアは手を振った。



 その様子を隠れ見ていたのは、土の精霊王だ。


「あの子がエリシオンに行くなら、わらわもついていこう」


 土の精霊王は小さく笑った。




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