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12.出ていけ!! 悪女!!


 乙女の楽園の司祭は不機嫌だった。

 ティアに作らせ、自分名義で納めていたポーションのことが、今回のことで教団に明らかにされると焦っていた。


 きっと、あのクレス様の様子では、ポーションのことを教団に話すだろう。そして、どれだけティアが素晴らしいか伝えるに違いない。逆に私がどれだけ無能か笑いものにするだろう。

 それに、少し前の従順だったティアならともかく、今のティアなら教会へ行って、なにもかも話してしまうだろう。

 ティアに子供の面倒を見させていたことも。邪教の本を処分していなかったことも……。 


 司祭は頭を抱えた。すべてが明らかになれば、乙女の楽園から追い出され、司祭をクビになる。


 なんとかしないと、ティアのせいで、私の人生が狂わされてしまう!! あの悪女!!


 司祭の瞳が黒く濁る。


 そうだ、悪女だ。クレス様をたぶらかす悪女なんだ。だから、司祭としてあの子を追い出さなければ……。


 司祭はティアを陥れるべく、たくらみはじめた。


 まずは、先に除籍届を本山へ送っておこう。そうすればアイツはドロメナ教の保護を受けられなくなる。身寄りのないアイツは、聖女にも修道女にもなれない。


 司祭は嫌らしく笑った。




*****



 翌日。ティアは司祭に呼び出された。

 監禁部屋の邪教の本を始末するのだという。

 手伝ってほしいと頼まれ、ティアはそれに従った。

 それさえ終われば、午後は自由時間だと言われたからである。


 乙女の楽園の庭にたき火が用意されていた。

 この炎を神聖力で聖なる炎に変え、邪教の本を燃やすのだ。

 聖なる炎が不完全であれば、本は暴れ回り、延焼することもある。

 それなのに、子供たちが多くいる庭で焼こうとする司祭に、ティアは疑問を感じた。


「司祭様、ここで燃やして良いんですか?」

「はい、いいですよ。ティアが本をくべてください」


 司祭は高を括っていた。


 ティアにいくら神聖力があろうとも、聖女の勉強はしていないのだ。邪教の本の処分方法など知るわけがない。


 失敗させて、それを理由にここから追い出してしまえ!


 ティアはそんな悪意に気がつかず、炎をジッと見つめていた。

 どう見ても、聖なる炎ではない。


 司祭様は神聖力が弱いから……。きっと、聖なる炎を作り出せていないのに気がついていないのね。でも、指摘したら恥をかかせちゃう……。

 それに、邪教の本とは言え、焼いてしまうのは忍びないのよね。なんとかして、助けてあげたい。


 ティアはそう思い、たき火に向かって手をかざした。

 パチパチと炎が音を立て、青色に変わっていく。美しい聖なる炎になったのだ。

 そして、こっそりとその中に転移魔法を展開する。ティアのエプロンバッグに繋がる空間に、本を移転させるのだ。


 素知らぬ顔をして邪教の本を炎に投げ込む。

 本は青い炎に吸い込まれ、跡形もなく消えていった。


 その様子を見て、司祭はワナワナと唇を震わせた。


 おかしい。なんで邪教の本の処分方法を知ってるんだ! しかも、私ですら作れない聖なる炎をいとも簡単に。普通じゃない……。あり得ない……。……そらおそろしい……。


「司祭様、これだけで良いですか?」


 ティアは屈託なく尋ねる。

 司祭はティアのことを化け物を見るような目で見た。

 ブルブルと体が震える。

 圧倒的な強者きょうしゃを前にして、本能が危険信号を出している。


 排除しなければ! 怖ろしいことになる!


「出ていけ!! 悪女!! 邪教の使い!!」


 司祭が怒鳴り、ティアは驚いた。

 ティアには司祭が黒いオーラに包まれて見えた。神聖力が邪悪な感情にけがされているのだ。


「……司祭様?」

「おかしいだろう! なんで聖なる炎が出せるのだ! なにも知らないくせに、なぜ聖女の御業みわざが行える!? なにかおかしなことをしたに違いない! 邪神と契約をしたのだろう!! この悪女!!」


 司祭から突風が巻き起こった。

 罵る司祭の魔力が暴走する。嫉妬と恐れの入り交じり、どす黒くなったその魔力は、もはや神聖力ではなかった。


 たき火が風に煽られ、火の粉が舞う。黒い魔力と青い聖なる炎がぶつかり合い爆ぜた。 

 その衝撃で、司祭の魔力が混じった赤黒い火の粉が、乾いた草に落ちて焼け広がる。


「止めてください! 司祭様!! 乙女の楽園が燃えてしまう!!」

「全部、全部、お前のせいだ! ティア! お前は除籍だ! 出て行け! 出て行け!」


 言葉に我を失った司祭が手を振ると、黒い風が火のついた草を巻き上げた。


「きゃぁぁぁ!!」


 子供たちが逃げ惑う。修道女が子供たちを庇い避難させる。


「っ! 先に火を消さないと!!」


 ティアは司祭と話し合うことを諦め、消火しようとした。まずはたき火を普通の炎に変える。聖なる炎は火力が強いのだ。そして鎮火させようとする。

 しかし、神聖力を使っているあいだに、赤黒い炎が次々と枯れ草に移っていく。


 どうしよう。神聖力だけだと間に合わない! 水がほしい! でも、井戸の水じゃ間に合わない。

 どうしたら。そうだ!! キュアノス! あの子は水系の魔法が使えるって言ってた!


 ティアは白樺の結界を破った。そして、エプロンバッグからドラゴンの角笛をとりだし吹く。

 人には聞こえない音が、ドラゴンを呼び寄せる。


「キュアノス! 水を運んできて!!」


 ティアが叫ぶ。


 すると程なくして乙女の楽園の空が陰った。

 上を見ると大きくなったキュアノスが旋回している。しかも、ホワイトドラゴンとイディオスまで一緒に現れた。

 二体のドラゴンと、美しい竜騎士の登場に、司祭はあんぐりと口を開けた。


「キュアノス! この火に水をかけて!!」


 ティアが叫ぶと、キュアノスとホワイトドラゴンは口から大量の水を吐き出した。


「慈悲の雨!!」


 その水に神聖力を付与する。


 ドラゴンたちの運んだ水は、聖水となり雨のように降り注いだ。

 聖水の雨を受け、赤黒い炎が消えていく。

 あたりはシンと静まりかえった。





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