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11.ティア。私の聖女。


 お茶会の時間である。

 ティアはワンピースに着替え、席に着いていた。テーブルには色とりどりのお菓子が並び、子供たちはキャイキャイと騒いでいる。

 クレスと目が合わぬよう、俯いていた。


「では、今日のお茶係はティアに頼みましょう」


 司祭が言う。


「え!? 私?」


 ティアは驚く。

 お茶係は、この一ヶ月間良い子で過ごした子供に与えられる名誉だからだ。

 謹慎中だったティアは自分が選ばれることはないと思っていた。


「ティアねーだ!」

「いいなぁ。ティアお姉ちゃん。私もクレス様にお茶をあげたかったー!」


 子供たちの声に送られながら、ティアはポットの置かれたワゴンまで行く。

 そしてポットを持ち上げた。


 ん? これってなんか嫌な感じがする……。


 不安定な魔力がポットの中に渦巻いている。


 でも、乙女の楽園でそんなことあり得ないわよね?


 確認するようにティアは軽くポットを揺らしてみた。

 やはり違和感がある。


 ティアは思わず司祭を見た。

 司祭はスッと目を逸らす。

 クレスを見てみると、ただただ普通に微笑んでいる。


 なにか変。まさか、司祭様がなにか入れたの? このまま注いで歩いたら、このお茶を子供たちも飲むことになるのに?

 どうしよう、中に変なものが入ってるって言ったほうが良いのかな?

 でも、そんなことがクレス様に知られたら、司祭様はどうなるのかしら?

 乙女の楽園は? 子供たちは?


 ティアはグルグルと考える。


「どうしたのですか? ティア」


 クレスに優しく問われ、ティアは動揺する。


「あ、あ、なんでも、ありません……」

「なら、早くお茶を注いでください」


 クレスにせかされ、ティアは焦る。


 どうしよう。どうしたら良いの? わからない! わからないから!!


 ティアは持っていたポットに神聖力を注いだ。

 ホンワリと薄いピンク色の光りがポットを包み込む。

 こっそりと処理しようと思っていたのに、思ったより神聖力が強く出てしまった。


 わぁ! やってしまった! 紅蓮の希望と同化してから神聖力が強まったのを忘れてた!


 ティアは焦るがどうにもならない。


「ティアねーのおてて、ひかった!」

「聖女様みたい!」


 子供たちは大興奮だ。


「そんなはずないよ、勘違いだよ」


 司祭は驚き言葉を失う。

 聖女の奇跡を目の当たりにして、驚いたのだ。


 やっぱり、ティアは聖女として覚醒している!! しかも、魔法陣も詠唱も使わずにこれだけのことが出来るなんて……大聖女になる資質さえある! 見つけた! 私が見つけた! 私の宝石!


 クレスは確信した。 


「ティア……」


 クレスはティアに呼びかけた。

 その紫の瞳は、熱に浮かされたように潤んでいる。

 

 その色っぽい視線にティアは思わずギョッとする。


「は、はい……。クレス様……」

「まずは私にお茶を注いでください」

「……はい」


 ティアはクレスのカップにお茶を注ぎ、耳打ちする。

 浄化したとは言え不安だった。出来たら飲んでほしくない。


「あの、もしかしたら、美味しくないかも……」

「ティアが浄化してくださいましたね」

「っ気がついて……」


 クレスは穏やかに笑い、カップのお茶をクイと飲んだ。


「ああ、甘い。大丈夫ですよ、ティア。あなたの浄化は成功しました。独学でここまでとは……」


 そういうと、ティアのピンクの髪をひとすくいつかみ毛先にキスをした。

 部屋中がどよめく。子供たちが黄色い歓声を上げる。


「!? !? !?」


 ティアが動転して目を白黒させると、クレスは愛おしいものでも見るような目をした。


「ティア、あなたは私の命の恩人です」

「い、いえ、そんな。命がどうとか、そんなものはいってなかったと思います!」

「そこまでわかるのですね。素晴らしい」


 クレスはうっとりとしてティアを見つめた。

 ティアはしくじったと思い目を逸らす。

 

「ティア。私の聖女。早く私のもとにこられるよう、最善の努力をしましょう。私が、王国最強の聖女にしてあげます」


 クレスの言葉に、ティアはブンブンと手を振った。


「そんな、無理です。私、無理です!」


 だって、私はドラゴンの相棒になった悪女なんですから!!


 ティアは思うが、さすがにこの状況で言えるわけもなかった。

 ティアは助けを求めて司祭を見た。すると、司祭は冷たい顔でティアを見つめていた。

 突き放すような表情にティアはゾッとする。


 司祭様……怒ってる……。


 ティアは慌てて目を逸らした。

 

 周囲の子供たちはパチパチと拍手をする。


「ティアねー、すごい!」

「ティア姉ちゃん、さすがだね!」


 ティアは孤立無援だった。

 がっくりと肩を落とし、愛想笑いを浮かべた。







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