きっとまた、この場所で
朝、飼い犬のジョンが私の布団に潜り込み、私のほほをペロっと一舐めする。
平日、私の起きるタイミングはいつもこんな感じだ。私は上半身を起こし、フワァ~ッと背伸びをする。
「ジョン、おはよ~」とジョンの頭をなでながら挨拶をすると、「ワンっ!」と一言ジョンが挨拶を返してきた。
私は寝間着のまま、窓を開け、新鮮な空気を肺の中に取り入れる。梅雨時だからか、少しじめじめとしているけど、今日は快晴だ。今日は学校に傘を持っていかなくてもよさそうだな。
さあ、まずはジョンと一緒に散歩に行かないと、、、。私は動きやすいようにジャージに着替え、ジョンの首輪にロープを繋ぎ、外に出た。
外に出ると小鳥がチュンチュンと囀っているのが聞こえてくる。
本当に、気持ちの良い朝だ。
こんな朝には何かいいことがあるに違いない。根拠は全くなかったが、私はなぜかそう思った。
ジョンと散歩して15分ほど経つと、私たちはいつも寄っている公園についた。うん、概ね予定通りの時間で散歩しているな。
いつもの朝と違ったのは、今日は公園に先客がいたということだ。
すっぴんで、しかもジャージ姿の私は、この姿でできるだけ人と関わりたくなかったため、公園の中央のベンチに座っている彼から少し離れたところを通り抜けることにした。
途中まではジョンも私に従って公園の端を歩いていたのだが、もうそろそろでベンチに着きそう、というタイミングでジョンがその男性の元へと走りだしてしまった。
「こ、こら!ジョン!いきなり走ったら危ないでしょ?」
私は必死にジョンの行動を止めようとしたけど、ロープを離してしまい、ジョンはその男性の元に一直線に走って行ってしまった。
私はそれを必死に追いかけるけど、まだ起きて頭がしっかり働いていないこともあり、一度走り出したジョンを止めることができなかった。
ジョンは、ベンチに座っていた男性の太ももに前足を預け、ハッハッと撫でてほしそうにしていた。
男性はジョンの突然の行動に少し驚いていたが、顔を綻ばせ、ジョンの顔を撫でていた。
ようやく追いついた私は、「す、すみません!いつもはこんなに走ったりしないのですが、、、」と男性に謝る。
「いや、いいんですよ。それよりもこの子、名前は何と言うんです?」
「あ、はい、ジョンって言います」
「そうか、君はジョン君か。よろしくな、ジョン君」と言いながら、その男性はジョンの頭を撫でる。
ジョンも嬉しそうだ。「ワンッ!」と一言返事をしている。
その男性のことを一言で言うと、「優しいお兄さん」という感じだろうか。身長は180cmほどあり、瘦せ型であったため、よりすらっとした印象を持った。穏やかな顔つきをしており、正直私のタイプだな~と感じていた。
そう思った瞬間、私の今の服装はジャージで、しかもすっぴんだったということを思い出し、途端に恥ずかしくなってきた。
どうすればよいか分からなかった私があたふたしていると、「せっかくなんで少し話しませんか?」と男性が座っているベンチの隣をポンっと軽く触る。
それから私はその男性の横に座り、世間話をする。
彼の名前は「北条かなた」。最近このあたりに引っ越してきた会社員らしい。年齢は25歳前後であろうか。今日は朝早くに目が覚めてしまったということで、近くを散歩していたらたまたまこの公園を見つけて、ぼーっとしていたとのことだった。
私も自己紹介をした。このあたりに住む高校生で、ここには毎日ジョンの散歩で訪れているということ。そして、今日散歩をしていたら急にジョンが走り出してびっくりしたことを話した。
そんな話をしていると、ついつい時間が経っているのを忘れてしまった。
公園に設置されている時計を見たら15分ほど時間が経っているようだった。
「あ、もうこんな時間、、、」
「ほんとだね、僕も会社に行く準備をしないと、、、」
「私も、学校に行く準備が、、、」
私たちはそう言いながら、ベンチから立ち上がる。
「またね、私さん。そしてジョン君も」と言いながらジョンを撫でながら別れ際の挨拶を交わす。
「はい、またお会いしましょう、北条さん」
私もそう返す。ジョンも「ワンッ」と挨拶をしているみたいだ。
私は少し名残惜しさを感じていたけど、北条さんとはきっとまたこの場所で会う気がする。その時にまた話せたらいいな、と思いながら、ジョンとともに帰路についた。
そう考えていると、私の心臓の動きが速くなっているのを感じた。
うん、思っていた通り、今日は良いことがあった。
私は家に着くまでの間、この新たな出会いに胸をときめかせていた。