7話
「なっ、俺は安全面を考慮した最適解を言っただけだ」
「えっ? そうなの? 私、格下相手の弱っちい魔物相手でも初陣だからって日和っちゃったって思ったなー?」
「そんな事無い」
ここまで言われては何かムカついて来る、しかも総合成績では俺を下回る相手に言われれば猶更、だ。
「ホントかなー? あ、聖者ちゃんの前だから良い子ぶってるんだねー? 良いよ良いよ、カイル君も男の子だもんね、仕方無いよ」
ルッカさんが、俺の顔を覗き込むかのように見上げながら、ニシシと笑っている。
「そんな事ねぇよ。初対面の女の子にカッコつけてなんか意味あるのかよ?」
「ええー? カイル君ってそんなに健全な男の子だったかなー? あ、むっつりってやつ? 私怖いなー」
と言うルッカさんだが、あまり感情が籠っている様に感じない。
なんだか棒読みに近く、どちらかと言わずとも俺を煽っている様に聞こえる。
「まさか、俺がそんな事ある訳無いだろ。それよりも良いのか? このまま強行しようものなら、野営する羽目になるかもしれないぜ?」
「野営? 面白そうじゃん?」
チッ、野営しなきゃいけないと言えば引き下がると思ったが、この脳筋女なら逆に楽しんでしまうか!
「あのなぁ、野営って言ったら魔物に襲われるかもしれないぞ?」
「えー? 何を今更? 学園の授業で野営した事なんて幾らでもあったじゃん?」
ぐぎぎ、確かにルッカさんの言う通り、冒険者に野営はつきものだと授業で野営を行った、しかも何回も。
「聖者のルミリナさんを野営に巻き込む訳には行かないって」
苦し紛れっぽいが、聖者の血を引く新人プリーストを危険な目に遭わせないのは立派な理由だ。
「えっと、カイルさん、その、私も教会の方でプリーストを目指すシスターのチームで野営を行った事はありますから、大丈夫です」
ルミリナさんが、僅かに頬を赤らめながら言う。
残念ながら、ルッカさんの意見に賛同する意見を!
って、そりゃそうだよな、プリーストとして冒険者を目指すなら俺達と同じく野営の一つや二つくらいやってますよね、あははははは。
「あ、でもさー、狼の魔物ならいるよねー」
ルッカさんが、左手で口を覆い右手人差し指で俺を差しながら言う。
「え、あ、そ、その、えっと」
ルッカさんの言葉に対し何だか恥ずかしそうな表情を浮かべるルミリナさんだが。
「カ、カイルさんなら、だ、だいじょうぶです」
ルミリナさん顔を真っ赤にし顔を地面に向けながら小声で呟いていた。
「あはは、大丈夫だって、拘束系の魔法なら私も使えるから何かあった時はカイルを拘束魔法でぐるぐるに縛り上げて何も出来ない様にしちゃうから」
ルッカさんが、ルミリナさんに対しウィンクを見せる。
「どーして狼の魔物の話をしていて俺が拘束魔法掛けられることになるんだよ」
「ええー? 分かんないのー? そうやって油断させて私とルミリナちゃんを、キャーやだぁ~ルッカちゃん身の危険を感じちゃうー」
ルッカさんが、胸元を両腕で隠しながら俺から1歩後ずさる。
「ウィザード学部に居る癖に接近戦したがる様な女が身の危険を感じるって何の冗談だよ」
ルッカさん相手に本気で戦って確実に勝てる保証なんて無いのに何が言いたいのやら。
「カイルくーん? 何か言ったかなー? 私、炎魔法と雷魔法が得意なのはカイル君も知ってるよねー? ねぇ? どっちが良いかなぁ? 君が好きな方選ばせてあげるよ?」
何やらルッカさんが青筋を立てており、今にも炎魔法か雷魔法を俺に向かって放って来そうだ。
ルッカさんの魔法攻撃力は俺の魔法攻撃力よりは高い、なんだかんだ言ってウィザード学部に在籍していただけの事はある。
俺の魔法防御力でルッカさんの魔法を受け切れるかと言えば『魔法抵抗』を何度か重ね掛けすれば受け切れない事は無い。
受け切れない事は無いのだけども、はっきり言って滅茶苦茶痛い。
学生時代の模擬戦で、ルッカさんの魔法を避け切れないと判断して慌てて『魔法抵抗』を掛けた上でルッカさんの魔法を直撃した事が何回もあるのだ。
当然俺は痛いと分かっていてやられる趣味を持ち合わせていない。
「じゃあ炎の魔法で」
と、宣言しておけば俺の水属性魔法で相殺が出来る。
脳筋のルッカさんが意表を突いて雷の魔法を放つ、なんて事は無いと思いたい。
「そう、分かった、野営の時楽しみにしていてね?」
びっみょーに可愛い声をしながら言うルッカさんだ。
しっかし、どこか黒さを感じる。そうだ、小悪魔と言う奴、いや小悪魔見習い、それ位のびっみょーな表現が似合う可愛さだった。
「はいはい、ルミリナさんは巻き込むなよ?」
「あは、私がそんな事する訳無いじゃない?」
「何故疑問形で言ったし」
とーぜん脳筋思考のルッカさんが命中、なんて器用な要素を意識する訳が無い。
と言いたいが、俺と比べて魔法と言うか攻撃行動全般の命中精度が悪いだけでやっぱりその他一般生徒と比べたら高い命中を誇っている訳だからなんだかんだ言って表立ってルッカさんの事を馬鹿に出来るものでもない。




