43話
「良いんだ、こうなっちゃったの、私のせいだから、エリクさんが言った事守っていればよかっただけだからね、あはは……」
「いや、ヴァイス・リッターまで遠くは無い、だから二人共生き残れる可能性は十分に有る」
それは絶対では無い、ダストさんが放つ魔法の間隔から察するに多分生き残れる可能性は10%あれば十分だろう。いや、ダストさんはまだ大技を放っていない、もしも大技が飛んで来たとしたら生き残れる可能性は数%か。
「絶対じゃないよね?」
「……そうだ」
やはり、ルッカさんには見抜かれていたか。
だからと言って自分だけがおめおめと生き残る、なんて事出来る訳が。
10秒程沈黙が生まれ、ルッカさんがゆっくりと口を開く。
「私、私ね? 好きな人は守ってあげたいんだ」
「え?」
「ダストから逃げ切って、カイルと一緒に生き残って、それで、そしたら、カイルとは恋人として一緒にやって来たいなって」
ルッカさんが、涙声になりながら俺に言う。
「なら猶更」
俺が言葉を言い掛けると、隣に居るルッカさんが自分の顔を俺の顔に近付けて、
「私はウィザードなの、だから、打算で物事を考えられるの。一般人に過ぎない私と、ザナッツ・レヴィンの血を引くカイル、どちらか一人しか生き残る事が出来ないなら絶対に貴方が生き残らなければならないんだ」
ルッカさんが、瞳を閉じ自分の唇と俺の唇を重ねようとする。
俺は一切抵抗する事無く、ルッカさんからの口付けを受け入れる。
胸の鼓動が高まる気がする。
ルッカさんが自分に好意を抱いていた事、自分はルッカさんをどう思っているのだろう? もしも、もっと早くこの事に気が付いていたらルッカさんは無謀な事をしなかったのだろうか?
……俺の心の奥底から激しい熱を帯びた感覚が溢れて来る気がする。
もしかして、これが恋心と言う奴なのだろうか? 異性を好きになると言う感覚なのだろうか?
分からない、分からないけど。
でも、このままでは間違い無くルッカさんが死んでしまう事になる。
だからと言って、ルッカさんの言葉が正し過ぎてしまう。
ルッカさんの言っているが正しいんだ。それは分かる。けれど、だけど俺はその事実を、自分一人が生き残る事なんて受け入れたくない。それが例え絶望的な状況でもあっても奇跡を願わなきゃならなくたって、それでも俺はルッカさんと共に生き残りたい。
「俺は」
「ダメだよ? 私、ダストの魔法が飛んで来たらキース・クレッセントを手放すから。そうしたら君は、キース・クレッセントを使うしかなくなるの」
ルッカさんはとびっきりの笑顔を作り、けれどこらえきれなくなった涙を溢れさせながら、言う。
「だけど」
「いいの。カイルには私の魂と一緒に生きて貰えればいいから。私の最初で最後のわがまま、聞いて?」
ルッカさんと、もう一度唇を重ねる。
悲しい事だけども、別れの口付けを。
これが恋人として始まりの口付けであればどれだけ良かったのだろうか?
無い物強請りしたってどうしようもない。俺が出来る事は、もう、ルッカさんの想いに応える事しか出来ないのだろう。
「…………分かった、キース・クレッセントを」
ルッカさんの想いに応える。覚悟を決めた俺は精神を集中させ、ホールス・ソーラの紋章部分よりキース・クレッセントの先端である三日月部分に向け照射、手に平サイズまで縮小させ、それをホールス・ソーラの紋章へと内蔵させる。
これで、ホールス・ソーラはキース・クレッセントの持つ能力を獲得、それを手にする俺の魔法防御力は上がるだろう。
これならば間違い無く、ダストさんから放たれる魔法を軽症で済ませられる。
ただ、この魔法防御上昇効果を失ったルッカさんは……。
これ以上考えるな! 俺はルッカさんの想いに応えるんだ!
「いこう、カイル、ダストからの追撃が来ちゃう」
「……ああ」
キース・クレッセントと合体したホールス・ソーラにより、身体の奥底から魔力が溢れ出す感覚を感じる。
今なら、今まで扱えなかった魔法も放てるだろう。
俺はホールス・ソーラをかざし、竜神旋風の魔法を放つ。
ホールス・ソーラの先端より天高く伸びる筒状に渦巻く激しい風が産み出される!
俺達の周囲を囲っていた瓦礫の山を爽快に吹き飛ばし、再び俺達の元に陽の光が現れる。
竜神旋風の力は凄まじい。しかし、その凄まじさに反して魔力の消耗は大きくない。これがキース・クレッセントと合体したホールス・ソーラの力なのだろう。
自由を取り戻した俺達は瓦礫の山と化した裏路地を、その瓦礫の山を乗り越えながらヴァイス・リッターへ向かう。
「けーっけっけっけ! 待っていたぞカイル! 貴様を取り込んで俺様はセザール大陸を制覇するのだ!」
当然、空を飛んでいるダストさんに見付かってしまう。
いや、俺を取り込む? 一体どういう事だ?
ダストさんが俺を狙っているなら、ルッカさんから離れれば!
甘い考えが俺の脳を過る。
だが、それを見透かしたかの様に。




