36話
「現在セザール国内の高ランクプリーストが集められて、ダストさんの魔法攻撃に抵抗する為の魔法防御癖を展開している様です。アレ位の魔法でしたらセザール国内のプリースト達が集まれば防ぎきる事は出来ます。ただ、ダストさんが全力を出した場合はどうなるか未知の領域です」
「ダストさんの迎撃は?」
「高ランクのウィザードやレンジャーが応対する事になっています。我々のギルドからも出撃要請が出ています。つまり、僕やセフィアさん、その他ヴァイスリッター内の高ランク冒険者達がダストさんの迎撃要因として駆り出されます」
「俺達はどうすれば良いですか?」
「ヴァイス・リッターでの待機でお願いします。恐らくここがカイルさんにとって最も安全な場所になると思いますから」
当然か。
ホールス・ソーラの性能込みで精々Cランク程度の冒険者が賢神の石の力を使ったダストさんの前に現れても犬死するだけだろう。
俺は少しばかり、ほっと胸を撫で下ろす。
「私、戦えます!」
が、俺の考えとは真逆なのか分からないがルッカさんが声を上げる。
「いえ、勇敢な御気持ちは有難いですが、残念ながら勇敢ではなく無謀ですのでヴァイス・リッターでの待機をお願いします」
「分かり、ました」
ルッカさんは、どこか納得出来ない空気を出しながらもエリクさんの指示に従ったみたいだ。
「それでは、我々はダストさんの迎撃に向かいます。マジックビジョンは残しておきますので興味がある方はご覧になって下さい」
エリクさんとセフィアさんはダストさんの迎撃に向かった。
しばらくすると、マジックビジョンにエリクさんとセフィアさん、ヴァイスリッターのSランク冒険者が映った。
彼等は現場にいるプリースト達から魔法抵抗を受け、ダストさんを迎撃すべく前線へと躍り出た。
自分を迎撃すべく冒険者達を派遣した事を見たダストさんは、既に完成していた魔法を冒険者達に向け放つ。
ダストさんが放った魔法は紅蓮の業火となり周囲一帯を焼き尽くす。
賢神の石の力はすさまじい。
マジックビジョンが映す映像は、周囲一帯の建物が紅蓮の業火により燃やし尽くされ跡形も無くなっていた。
周囲の建物が一瞬で燃やし尽くされた以上、この炎に巻き込まれた冒険者達の安否が絶望的に思えるが……。
俺がそう思うと、今度はダストさんに向け地上からウィザード、レンジャーの人達の放つ無数の攻撃が放たれる。
どうやら、高ランクのプリースト達が何重にも重ね掛けをした魔法抵抗のお陰であれだけの業火を受けても、皆やけど一つ負っていない様だった。
人的被害が無かった、その事実を知る事が出来た俺はほっと一息つき胸を撫で下ろす。
しかしながら、賢神の石の力を受けたダストさんは物理防御も魔法防御も上昇しているのか、ウィザードやレンジャーの人達が放つ攻撃を受けても大したダメージを受けていない様に見える。
ダストさんは少しばかり空を移動し、氷魔法の詠唱を始める。
地上に居る冒険者達は、ダストさんを追いかけ、移動し再度攻撃を行う。
冒険者達が攻撃を行った所で、ダストさんが氷魔法を発動させ周囲に猛吹雪を、いやこれは雪じゃなく氷のつぶてみたいだ。多分、氷竜巻だろうか? ダストさんの放つ氷魔法は、魔法抵抗を何重にも受けている冒険者達には効果が無い。だが、魔法抵抗を施されていない周囲の建物は無数に発生した氷のつぶてを全方向から受け、見るも無残な廃墟へとその姿を変貌させてしまう。
冒険者達にダメージを与えられない事を悟ったダストさんは、周囲の建物に対して損害を与える事に専念しているのだろうか?
俺の予想通りか、ダストさんは再度空を移動し今度は地属性の魔法を詠唱する。
ここで、エリクさんが皆に対して攻撃を制止させる。
ダストさんの意図に気が付いたのだろうか? けれど、ダストさんを追わなければ一方的な建物の破壊は止められないと思うけど……。いや、地属性の魔法と言う事は……?
俺が何か違和感を覚えたかと思うと、マジックビジョンの先で地面が激しく揺れ出す。
激しい揺れが生じたかと思うと、地面が真っ二つに割れ街道が滅茶苦茶な事に。
冒険者達が進行するであろう場所では地割れが発生し、底が見えない深い穴が生じていた。
もしもエリクさんが止めなければ、地割れに飲み込まれ転落していた人も現れただろう。
ダストさんの地属性魔法が終わった事を確認し、エリクさんが皆に攻撃の指示を出している。
それを受けた冒険者達は各々の攻撃可能間合い迄近付き、魔法や射撃武器による攻撃をダストさんに浴びせる。
あ、ダストさんの頬にかすり傷が着いた。
ダストさんが苦悶の表情を浮かべている、何故だろう? さっきまでは彼等の攻撃を無効化していたのだけども。
もしかして、冒険者達の攻撃を防ぐ度にダストさんの魔力が消耗しているのだろうか? つまり、冒険者達から無数の攻撃を受け続けたダストさんは遂に魔力が尽きかけたのだろう。
俺の思った通りか、ダストさんが転移魔法を発動させ何処かへと転移した。
ダストさんによる襲撃はひとまず終わったみたいだ。
しかし、セザールタウンに居る多数のSランク冒険者達が束になって漸く撃退出来ると言うか、それでも建物に対する被害は甚大なのだから賢神の石の力は物凄いモノと言うか何と言うか。
「凄かった、ね」
ルッカさんが力無く呟く。
「ああ、そうだな。俺達が戦っていたらどうなっていたのか分からないな」
プリースト達の魔法抵抗の効果がどれだけ強力だったとしても俺自身の魔法防御力が低いとなるとダストさんの魔法を受けたら跡形も無く消滅してしまいそうだ。
「私……」
ルッカさんが何かを思い返すかのように俯く。
「大丈夫、俺達がもっと強くなった時には必要な事だと思うから」
「うん、ありがとう」
ルッカさんは、もしもあの場に自分が行っていたらどうなっていたのかを想像しているのだろうか?




