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29話

『カイル。お主がアリナ・ルーツの子孫をもう一人引き連れた事を我が気付かぬと思ったか?』


 だよな。


『それとも、見ず知らずの女の為、高々アリナ・ルーツの子孫が増えただけの不確定な状況で我に勝負を挑むか?』


 クッ、アリアさんの実力が分からない。けれど、ダメだとしてもまたエリクさん達に転移を……。


『我が対策をせぬとも? お主がこの魔法陣に触れれば最後、今度こそお主の精神は我の統治下におこうぞ。それでも貴様は見知らぬ女を助ける為自分を犠牲にするのか? お主を慕う女は居るだろう。止めて置け、お主の行動は完全に無意味なものだ』


 違う、そんなんじゃないっ! 目の前で命を落とす事が分かっている人間すら助けられない奴の何がセザール学園首席なんだッ!

 俺は、覚悟を決め魔法陣ヘ向け1歩近付く。

 だが、


「カイルさん!? ダメです!」


 エリクさんに肩を掴まれ制止されてしまう。


「エリクさん! 止めないで下さい! あの女ウィザード達が命を落とす事になります!」

「カイルさん? どういう事ですか? まさか、賢神の石から何か言われたのですか」

「そうです。あの魔法陣を解除する為3人のウィザードの命を奪おうとしてます!」


 俺の叫び声に対し、魔法陣を囲んでいる女ウィザード達が驚愕な表情を浮かべながら絶句している。


「ダスト様!? いえ、ダスト様がそうおっしゃるのでしたらわたくし、セリカはこの身を捧げます」

「え、ボク、そんな話聞いてない、死ぬのは嫌だよッ」

「えへへ。私もまだまだやりたい事は沢山あるのー」


 セリカさんだけは、俺の言葉を聞いても自分がやるべき事を変えるつもりは無いが、残り二人のウィザードは、死の恐怖を脳裏に過らせ震えながら、魔法陣から3歩後退ししゃがみ込んで頭を抱えている。

 もう一人の方は、どこか能天気な雰囲気を出しながら魔法陣から距離を取る。


「あぁ? 俺様がそんな極悪非道な事する訳ねぇだろ! おいお前等、ポッとでのクソガキの事が言う事と俺様がいう事どっちが正しいと思ってんだぁ?」


 3人の女ウィザードに対してダストさんが一喝をする。

 彼女達、いや俺と精々ダストさん以外は賢神の石の言葉は聞えていない以上、初対面である俺の言葉を彼女達が信用するのはまず有り得ない。


「えへへ……? この魔法陣さんとあんな事やこんな事をするんですかぁ?」


 頭に猫の被り物をしているウィザードが、自分が被る被り物をまるでなだめるかのようにそっと撫でている。

 よくよく見ると、その被り物が小刻みに震えている様に見える、目の錯覚かもしれないのだが。

 しゃがみ込んでうずくまっている女ウィザードは、ダストさんに一喝されたにもかかわらず全身を震わせているままだ。

 魔法陣に近付いた事で何かしらの魔力を探知したのだろうか?


「私としてはカイルさんの意見を肯定しなければなりません。ダストさん、貴方は本当にこの魔法陣が彼女達の命を奪う事を知らないのですか?」


 ルッセルさんが、ダストさんに鋭い眼光を突き付けながら言う。


「ハッ! 知る訳ねぇだろ! 俺様が管轄するギルドメンバーが死ぬと分かって動かす訳ねぇだろ!」

「そうですか。しかし、私はこの魔法陣に触れた者は死んでしまうと言う情報を持っています。これは不確定な情報と言われたら否定は出来ません。しかしながら、人の生き死にが掛かる案件である可能性があるならば例え不確定としてもこれは我々ギルドマスターの権限を越えています。私としても不本意ですがこれは上層部に報告し判断を仰ぐしかありません!」


 ルッセルさんが強い口調でダストさんの制止を試みる。


「ハッ! 毎回毎回うるせぇんだよ! 俺様はテメェの糞真面目な性格が気に入らねぇんだよッ! 仮にこのガキが言っている事が本当だとしてだ、それで上層部に報告をしてどうなるっつーんだ! 目の前にはアーティファクトがあんだぞ!? 人の命、弱っちいゴミ屑の命を差し出すだけでアーティファクトが手に入るっつー中、よわっちぃゴミ屑の命を犠牲にしようとしない上層部の人間が何処にいるっつーんだッ!」


 ダストさんが物凄い剣幕で叫ぶ。

 一見彼は滅茶苦茶な事を言っている様に見えるが、彼の言う上層部の判断は間違いじゃないと感じさせられてしまうのは何故だろうか?


「その仮定は結果論に過ぎません。我々は我々が与えられた命令通りに動く義務があります」

「うるせぇ! 予想される結果が同じなら俺様達が何やったって同じだろうが!」


 ルッセルさんが言っている事が、ギルドマスターとして正しい事なのだろう。

 しかし、賢神の石の話を聞く限り賢神の石はダストさんを選んでいるみたいであるこの状況、あの3人の女ウィザードは魔法陣の餌食になると思う。

 だからと言って、エリクさんに物理的に止められている今俺に出来る事が何も無いっ。

 

 聖者の血を引くルミリナさんやアリアさんなら魔法陣に触れても大丈夫? いや、そんな保証は無い。俺の予想が外れてしまった場合取り返しが付かない事になる。

 どうするっ!? セリカさんって人は自らの命を捧げても構わないと言う言動を取っている。

 急がなければ間違い無くセリカさんの命が奪われる事になる!


「わ、私が、私がやります! 聖者の私なら、きっと大丈夫だから」


 ルミリナさんが覚悟を決め口を開くが、


「あ? 聖者だぁ? ハッ、この魔法陣に触れても何もねぇつってんだろ! テメェん所の人間がしゃしゃり出てきやがって、俺様の手柄を奪い取るつもりかよ!」


 やはり、ダストさんがルミリナさんを強引に捻じ伏せ、


「そうよルミ、貴女は大人しくしていなさい。聖者のチカラを引き出せているお姉ちゃんに任せなさい。ダストと言ったわね? 高々ギルドマスター如き、聖者の子孫に叶うとお思いで?」


 しかしながらアリアさんがダストさんを振り切り、少々威圧気味に言う。

 このままでは、アリアさんの身に何かが起こってしまう危険はある。

 けれど、アリアさんの言う通り聖者のチカラを引き出しているとするならば俺が想像している以上に聖者のチカラを持っているのかもしれない。

 アリアさんの事がよく分かっていない以上、彼女の言葉を信じるしかないのか? 


「あぁ? たかがギルドマスターだと? テメェプリーストの分際で何調子に乗ってやがんだ?」

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