間章2.
間章2
魔王モン・ダークを討伐した5人の英雄、彼等はセザール国主催の祝賀会に参加していた。
祝賀会には、セザール国に住む貴族達も参加しており、魔王モン・ダークを討伐した英雄達とのコネクションを作ろうとする者、単純に英雄と近付きたい者様々な貴族達が居たのである。
自分が主役であるハズの祝賀会場とは離れた、2階のバルコニーにてザナッツ・レヴィンは一人月夜をぼんやりと眺めていた。
「ザナッツ、アンタ祝賀会場に行かなくて良いのかい?」
ザナッツと共に戦った聖者、アリナ・ルーツがザナッツに対し少々心配そうに尋ねた。
「アリナか。私が行っても意味は無いな」
「そうかい? 美味いモノが沢山あってあたいは意味あると思うさね」
少しばかり背の低い、アリナは腰に手をあてながらザナッツを見上げている。
「仕方あるまい、私の様なウィザードは日陰者に過ぎぬ、戦いに於いて華があるのは前線に出て戦う者達だ。しかし、それは仕方が無い私達ウィザードは彼等が魔物達の注意を引き付けてくれなければ何も出来ないのだから。むしろ、私が前に出て彼等の対価である名声や栄光、異性を奪い取ってしまうのは英雄としてどうかと思う」
「あんた、気遣い過ぎじゃないかい? エミューはさして女好きでもない、ジーモンなんて女じゃなく男に興味ある位さ。グレーテは確かに男好きさね。けれど、あんた男は好きじゃないだろう?」
「いや、私みたいな日陰者を嫌う貴族はゴマンと居るのさ。英雄はジーモンみたく揚々しい闘者や冷たくカッコ良いエミューを望む。世間が私を英雄とは認めない」
「そういうもんかねぇ? あたいはそんな細かい事一々気にした事無いさね」
祝賀会場から少しばかり離れているバルコニーであるが、祝賀会場よりにぎやかな声は十分に伝わって来る。
「貴族達の会話内容は聴こえないかい?」
「聴こえないさ」
「聴力が向上する理魔法は会得してなかったか」
「そうさね。そんな魔法会得しちまったら面倒事が増えるだけさね」
アリナが言う通り、ザナッツが会得している聴力増強魔法では数km先の音までも拾う事が出来てしまう為、この魔法を使った場合ははるか遠方の音を拾ってしまうが故に、狙った音1点を拾い上げるだけでも精神に対する消耗が激しくなってしまう。
「そうだな、否定はしない。だが、使い方をマスターしてしまえば意外と面白いモノだ」
「ふーん? そう言うモンかねぇ?」
「ああ。人間の闇が垣間見えて、それが中々面白いのだよ」
「あたいには理解出来ないさね」
「そうか。アリナは聖者だからな、理解し兼ねる事に納得出来る」
ザナッツは、フッ、と不敵な笑みを浮かべると聴力増強魔法をアリナに施した。
「何をしたのさ?」
「ちょっと、な」
ザナッツは、再び夜空に浮かぶ月をぼんやりと眺め始めた。
10秒程経過した所で、ザナッツとアリナの耳にはとある貴族達の会話が聞えて来た。
『ジーモン様、わたくし達では不服のようでしたね』
『仕方ありませんわ、ジーモン様は闘者、闘いに明け暮れた殿方で御座います』
『あの様な漢らしい闘者にお近づきになりたい所でした』
『ええ、魔王を打ち倒した英雄でしたら国からの報奨も素晴らしい者でしょうし、彼を取り込めることが出来ればわたくし達の家もさぞ、反映する事でしょう』
『ジーモン様を振り向かせる何かいい手があれば良いのですが』
誰かがこの二人の貴族に近付いて来る足音が聞こえる。
『家の反映でしたら、ザナッツ様に取り入る手もありますね』
『本気で言ってますか? あの様な陰湿な人間、例え英雄であろうともわたくしの視界に入るだけで不快ですわ。いいえ、あの様な日陰モノを英雄とするなど本来あってはならない事ですわ』
『そうです、あの様な暗い人間に嫁がなければならないなら我が家が滅んだ方がマシです』
『やはり、そうでしたか。実はわたくしも家の反映を目的とした利用価値が辛うじて存在するだけでザナッツ等が英雄とされている事は不服に思っています。どうせエミュー様を盾にし、後ろからセコセコ魔法を使っていただけでしょう。恥を知らないのでしょうか、何とも見苦しい』
3人の女貴族は、ザナッツを馬鹿にするような高笑いを上げた。
「酷いもんさね」
女貴族達の話を聞いたアリナが深いため息をつき、呟く。
「だろう? 人間なんてそんなものと私は割り切ったが」
「けれど、偶々あの3人の貴族が」
「変わらないな、精々がジーモン派かエミュー派かに別れる位さ。どの派閥の話を聞いても私の事を悪く言わない貴族は居ない、男女例外なくな」
ザナッツは、今の貴族とは別の貴族達の会話を聴こえる様に魔法を調整した。
ザナッツとアリナの耳に貴族達の会話が聞こえてきたが、会話の内容は概ね今の貴族達と同じ様な物であり、ウィザードであるザナッツを悪く言う内容であった。
「アンタ自身はどうしたいのさ?」
「私は魔術の探求が出来ればどうでも良いさ」
「そうかい。アンタ、女にも興味無いのかい?」
「無いな。私に近付く女性が居るとするならばそれは私の地位や名誉、お金を目当てで近付くだけで余程利害が一致しない限りは興味を持てない」
「子孫を残そうとは思わないのかい?」
「それはあるな。私の魔術力が高世に残らないのは少々惜しい」
しばし沈黙が二人を包み込む。。
「まっ、イザとなったらあたいが居るさね」
アリナは、ザナッツの背中をポンと叩き、豪快に笑って見せる。
「フッ、それは頼もしい事だ、イザと言う時は頼ませてもらうさ」
「あたいは戻るさね」
「ああ」
アリナは祝賀会城へと戻り、ザナッツはこのまま祝賀会が終わるまでぼんやりと星空を眺め続けていたのであった。




