22話
「時と場合によってはこれらの遺体から武器を拝借する必要もあります。今はもっと強力な武器がありますから良いのですが」
「そうですか」
随分と背徳的な話だけど、それが冒険者と言われたらそうなのかもしれない。
もしも手持ちの武器が損耗していたら、自分が生き残る為にも目の前の遺体が身に着けている武器を拝借しなければならないのだろう。
少なくとも、ホールス・ソーラがある限りそんな事は無いと思うけども。
「Dランク冒険者みたいね」
セフィアさんは、白骨死体が持っていた冒険者カードをそれとなく確認した。
「ある程度魔物も討伐し、実力も付き始めて少し調子に乗り始めた頃でしょうか? おそらく無鉄砲な方だったんですね、この人だってこんな結果になるって分かってここに来た訳ではないでしょうが」
「そうね、こういう事を教えるのもベテランの仕事なんだけどね。けど、この人は回復八雲解毒薬も持っている形跡がないわね。これじゃ死にに来たようなものだけど、この人には教えてくれるベテランが周りに居なかったのかも知れないわね」
「分かりません、この手の人達は例え冒険者ギルドの人達、ギルドメンバーの人達が忠告をして止め様としても聞き入れないと思います。逆に周りに止められるような無謀な冒険を成功させたことを悦とする人達も居ますから」
「そうなのよね、私達も過去の経験から命を落とすかもしれないと忠告は出来るけど、私は親で無ければそんな権限も無いから以上干渉する筋合いは無いのよ、忠告無視して突撃して生還されたらいよいよもって私達の話は聞かなくなる、けど、遅かれ早かれそういう冒険者は命を落とす事になるわ」
セフィアさんがルッカさんを見ながら言っている。これは彼女に対しての忠告だろう。
「どうやらこの武器は鋼製製ですね、武器を新調して有頂天になってここにやって来たのでしょう」
「よくある話ね。あまりここに居ても仕方ないから先に進みましょう」
このまま神殿の奥へと進み、正面の壁に辿り着いた。
2階に上る階段も無ければ隠し扉の様なモノも無い。これ以上真っ直ぐ進む事は出来なさそうだ。
「次はこっちですね」
エリクさんが右に向かって歩き出した。
「あら、宝箱じゃない?」
右に向かって暫く進むと小部屋があり、その部屋の奥に木製の宝箱が無造作に置かれていた。
長い間手の入っていないこの神殿に宝箱があってもとっくの昔に誰かが開けていると思うのだけども。
「ははは、いかにもって感じですね」
「そうねぇ? 魔物が擬態してるとか魔物を含めた誰かが仕掛けた罠と考えるのが妥当ね、けれど金持ちの道楽で設置された可能性も僅かながらあるのよ」
ああ、一応罠の為に何者かが再設置した可能性があるのか。
って、金持ちの道楽として宝箱を設置する? どういう事だ?
「レンジャーを目指す人を絶やさ無い為にも定期的に宝箱を配備している謎の組織の話は聞いた事ありますね」
「そっそ、だから罠と分かってても、もしかしたら宝物があるかもしれないってワクワク感が堪らないのよね~、で、明らかに初心冒険者用の宝箱って分かった瞬間そっと閉じるのも意外と楽しいのよ」
確かに、初心冒険者にとってのお宝ってセフィアさん達からしたら大した事無いモノだ。
「宝箱の開錠に失敗して爆発させちゃったけど、プリーストの防御魔法のお陰で助かった事もあったわね~あー懐かしい」
「ははは、その話、聞いた事あります」
随分お気楽に昔話を話しているセフィアさんだけど、それってプリーストが居なかったら死んでませんか?
「じゃ、折角だし開けてみましょうか?」
「お任せします」
セフィアさんは、道具を取り出し宝箱の開錠を試み、鮮やかな手捌きで宝箱の罠を解除した。
「あーはいはい、これは開けた瞬間毒針が手に刺さる罠ねぇ、比較的簡単な罠だけどきっとさっきみたいな冒険者はこれを毒針とすら気付かないで放置して気が付いたら身体に毒が回って死んだみたいね」
「はは、中身は切ない物ですね」
エリクさんが宝箱の中身を確認すると、そこには幾ばくかのお金が入っていた。
確かに俺からしたら数日分の食費になるけど、ここまで来て罠を解除して出て来た物にしてはショボイと思うのは否めない。
「ま、宝箱なんてそんなものよ」
「では、ここの階段から4階へ上がりましょう」
エリクさんに言われ、俺達はこの小部屋にある昇り階段を使い神殿の1階から4階へと昇った。
「2階から4階は通路を主体に構成されています。フロア全体を1週する様に通路が繋がっており、それ等の中心から対角に向け通路があり、どうやら大きく4部屋で構成されているようです。それぞれの4部屋は部屋によって様々な構造になっている様ですが」
「へぇー、昔はここで何をやっていたのか気になりますね」
「そうですね、神殿ですから教祖達が勉強したり修行したりその辺りの事をする為の部屋かもしれないですね」
「全部の階に何か差はありますか?」
「大まかにはありませんよ、ただ、上に行く程設置されている罠が増えたりしますし、僕達からすれば楽勝ですけどCランクの冒険者ですと苦戦するような魔物が溢れています」
エリクさんの説明を受け、Cランクの冒険者が苦戦する魔物と戦ってみたいと思うが、今回の目的は賢神の石についての調査だからな、流石に無理だろう。
「エリクさん、私その魔物と戦いたいです」
俺の考えとは逆にルッカさんは手を上げ、自分の意見をエリクさんに言った。
「カイルさんの武器を見る限り、ルッカさんもここの魔物相手に苦戦するとは思いません。恐らくカイルさんとルミリナさんが掛けた防御障壁を貫通する事も出来ないでしょう。ルッカさんが今まで戦って来た魔物よりも多少耐久力はあると思いますがそれ以外で何か経験になる事はありません。勿論、ルッカさんが今持っている杖の使用を禁止すれば話は若干変わりますが、今回の目的は賢神の石を調査する事ですのでもしも試したいとしても別の時にお願いします」
確かにエリクさんの言う通りそんな魔物と戦っても意味が無いな。
「……分かりました」
俺の方は十分納得したが、ルッカさんは不服そうな態度を示している。
「トラップに関する実践演習しても良いんだけどねー、でもここのトラップじゃボウヤとお嬢ちゃんが掛ける防御障壁貫通出来ないわね。4階位から飛び降りても平気でしょ?」
俺とルミリナさんが扱う神聖魔法は思っている以上に強力なのだろうか?




