21話
「人を殺める経験は冒険者として生きて行く上避けられません。ルッカさんもそうなのですが、現在の彼女の精神状態、ウィザードである事を考慮して今ここでそれを行わせる事は無謀です。ですから、敢えて盗賊を1人だけ生かしておいたりします」
つまり、エリクさんはこの手で盗賊の親分を殺せと言っている。
セフィアさん達の言動から今目の前で地面に額を擦り命乞いをしている頭目の命を奪う事は正しい事だろう。
……予め想定はしていたが、いざその時となるとやはり心が何処か乱れる感覚に襲われてしまう。
しかし、エリクさんが言う通り俺が冒険者として生きていく、いや国王軍として正式に活動する事になった時、悪党の処刑を行う時が来るはずだ。
俺は深呼吸をし、目の前に居る頭目の首を撥ね飛ばす覚悟を決める。
「そうね。エリク君がそう言うと思って私もコイツを生かしたわ。この先何があるか分からない、イザって時躊躇わない為に私からも推奨するわ」
「魔法でも構いませんよ、正直僕も近接武器でそうしろと言われたら抵抗が無い訳じゃありませんから」
二人の言う通りなんだろう。
「さっ、僕は懸賞金貰いに行って来ますね」
エリクさんは地面に転がる頭目の首を拾い、転移魔法を掛け頭目に掛けられていた懸賞金を冒険者ギルドにて受け取りに向かった。
大した時間が掛かる事無く、冒険者ギルドより懸賞金を受け取ったエリクさんは戻って来た。
「僕達からしたら端お金ですので三人で分けて下さい」
エリクさんは、駆け出し冒険者が三カ月は暮らせそうなお金が入った袋を俺とルッカさんとルミリナさんに手渡した。
「すみません、有難う御座います」
ここで遠慮しても無意味だろうと判断した俺は素直にこの懸賞金を受け取った。
ルッカさんも、ルミリナさんも遠慮して見せたが、俺の思った通りエリクさんの勢いに押され二人共この懸賞金を受け取ったみたいだ。
「さっ、中に入りましょう」
盗賊達とのやりとりを終え落ち着いた所で、セフィアさんに先導され俺達は神殿の中へ入る事にした。
神殿の中に入ると漆黒の闇が広がっていた。
見習いオークを討伐しに行ったあの夜、いや月明かりが差し込んでいた分その時の方が明るかったか。
どうやらこの建物は外部から光が差し込まない構造なのか非常に暗く中に何があるのか分からない。
「暗いですね」
ルミリナさんがそっと呟き『照明』を完成させると、手の平サイズの光体を頭上に移動させた。
俺もまた、ルミリナさんに続いて『照明』を完成させ同じく光の球体を頭上に移動させる。
「有難う御座います、やはり神聖魔法は素晴らしい魔法ですね」
エリクさんが丁重な物腰で礼を述べると俺もルミリナさんも謙遜した態度でエリクさんの応対をした。
この神殿を探索する為に十分な明かりを確保した俺達は神殿の探索を始めた。
「広いですね」
神殿の探索を始めてすぐ、ルミリナさんが感嘆しながら呟く。
ルミリナさんが言う通り、この神殿の広間と思われるエリアは物凄く広かった。
下手をすればここだけでもヴァイス・リッターのギルドハウスが入る位には広そうだ。
「足元に注意して下さいね」
エリクさんに言われ、俺は光の球体を操り地面を照らす。
美しい外観とは裏腹に、神殿内部の地面は廃墟のそれと変わらない位無造作に様々なものが散りばめられていた。
それ等は主に岩石の欠片であるが、ところどころ今は錆びて朽ち果てて見る影もない金属製の鎧だったものや盾だったものが視界に映る。
ここで命を落とした冒険者達が身に着けていたモノだろうか? となると、彼等の骸がその近くに転がっていても不思議ではない。
俺は冒険者の装備品だったと思われる金属品の周囲に対し光を照らす。
「ひ、ひゃあああああ!!!!」
ルミリナさんが悲鳴を上げた。
俺が操っている光の球体が照らし出す先には無数の骨が散らばっていた。
冒険者が身に着けていた装備品の近くに散らばっていると言う事は、つまりは人間の骸だろう。
「フフ、可愛いお嬢ちゃんね。でも、この手の遺跡では珍しい事じゃないわ冒険者としてプリーストでいたいならこの位は慣れなきゃダメね」
「ね、ねぇ? カイル? 君は平気なの?」
「平気だけど?」
「そ、そうだよね、あはは」
どうやらルッカさんも目の前に転がっている人骨を眺めている事は難しい様だ。
「きっとこの人達は、この神殿に宝物があると踏んで無謀な装備で探索したんでしょうね」
エリクさんは、元冒険者が身に付けていたと思われる装備品を指差しながら推察をした。「そうね、この人、レンジャーを連れずに宝箱の開錠をしたら罠に掛かって死んだみたい」
セフィアさんの言った通り、白骨死体の近くには開かれた宝箱が置かれていた。
他の冒険者が罠を解除して回収したのか、中身は空っぽだった。




