20話
「ははは、セフィアさんが仕込んだ毒は市販の解毒剤じゃ中和出来ませんよ。貴方達は相手の力量を見極める力を身に着けた方が良いですね。もっとも、この僕の魔法を受けて生きていられたらの話になりますがね。さっ、そういう事ですから盗賊の皆さん? 炎か氷か雷か風か地かどれで死にたいですか? リクエストに応えますよ」
エリクさんからは、まるで盗賊達に対する恨みを晴らさんと言わんばかりの邪悪な笑みを浮かべ、まずは炎の魔法を完成させ自らの手元に集めた。
「な、なめんじゃねぇこのチビ!」
盗賊3人が、エリクさんに向け一斉に突撃をして来た。
エリクさんから見て、正面、右斜め前、左斜め前に居る盗賊達を正面から捌くのは一見すると難しそうに見える。
「はぁ、僕の質問に答えて下さいよ。折角苦しまないで死ぬチャンスを与えたんですけどね」
エリクさんは手による飽きれた仕草とため息を盗賊達に見せ、風の魔法を自分に向け発動させ頭上向け地上を強く蹴り高度凡そ5Mの地点で滞空をした。
エリクさんが使った風魔法は、飛翔の術だろう。
この魔法を使う事で速度こそ出ない物の空を飛ぶ事が出来る。
「くそっ! 生意気な!」
エリクさんが飛翔の術を使える事が想定外だったのか、盗賊達は悔しそうに歯ぎしりを立てながら、ナイフを取り出し上空に居るエリクさんに向け狙いを定める。
「僕の方が早いですよ」
エリクさんはニッっと笑うと自分の足元ににいる盗賊達に予め手元に集めていた炎の魔法を1人辺り1発ずつ放った。
エリクさんが放った炎の魔法は俺でも実現出来そうな程の威力だった。
エリクさん程のウィザードならばもっと強力な炎、それこそ当たった人間は骨すら残らない位に焼き尽くせる事の出来る炎魔法位放てそうなのだが。
恐らくエリクさんは何かしらの意図があって威力を下げている様に見える。
エリクさんの放った拳大の炎魔法は真っ直ぐ盗賊達に直撃し、彼等の全身を真っ赤な炎で包み込む。。
「ぐわあああっあづいぃぃぃ!」
エリクさんの魔法を受け、全身を炎で包まれた盗賊達は頭を抱えながら苦悶の叫び声をあげ、身体を包み込んでいる炎を消そうと必死に地面を転がり始める。
「ははは、頑張って下さいね。最も、僕の炎はその程度じゃ消えませんが」
エリクさんは盗賊達に対して、やはり邪悪な笑みを浮かべながらストンと音を立て地面に着地した。
「あら?エリク君もやるじゃない?」
「フフッ僕だってSランクの冒険者ですからね。この程度任せて下さいよ」
エリクさんの言葉を聞いた残りの盗賊達が目を見開き、
「ななななな、なんだって! どうしてSランクの野郎がこんな所に!?」
逃げ腰となり明らかに動揺しだす。
「あら? レディには日焼けをしたい気分になる時だってあるのよ?」
セフィアさんが、クロスボウで狙いを定めた盗賊の眉間に矢を放つ。
盗賊はとっさに回避するが、セフィアさんの放った矢は頬を掠め、傷口からうっすらと赤い血が流れる。
「ははは、Sランクの癖に狙いがあま」
自分の頬に矢が掠めた盗賊は、セフィアさんが放った矢の直撃を受け無かった事に対し得意気に言うが、言葉を言い終える前に直立不動となった。
この盗賊の様子を見る限り今セフィアさんが放った矢は、麻痺矢だったのだろうか?
「成る程、このまま砂漠の炎天下の中放置し、脱水症状させるのですか。流石セフィアさんですね」
「そうね。ま、ここは砂漠だしその前に夜凍死する事もあり得るわ」
エリクさんとセフィアさんはまるで残った盗賊達に言い聞かせるかの様に言う。
「ききき、聞いてねぇぞ! ここの魔物はCランクの冒険者が討伐する程度じゃねぇかぁぁぁッ! 俺達はそいつ等からかっぱいでただけなのにっ」
目の前で仲間がただただ殺されただけでなく、エリクさんやセフィアさんの残忍とも取れる行動を目の当りにした盗賊が発狂をし出す。
彼の頭をチラチラと眺め今にも撤退の命令を出して欲しそうにしている様に伺える。
「ははは、運が悪い日もありますよ。貴方達もそれ等Cランクの冒険者達に同じ様な事をしたのでしょう? 因果応報と言う奴ですよ、ですから僕もセフィアさんの案採用しますよ」
含み笑みと共にエリクさんは『岩牢獄』を盗賊に向け放つ。
突如、生き残っている盗賊1人の周囲に岩石の壁が現われ彼の逃げ道を完全に塞いだ。
「即死しないから大丈夫ですよ、上下左右2Mの空間は残しましたから寝る事も出来ますから」
「わ、わわわわわ、ああああーーーーっ」
次は自分たちの番か? 絶対に生き残る事が出来ない恐怖心に押しつぶされた、まだ生き残っている2人の盗賊がお頭の命令を待たず背中を向け逃げ出した。
「言い忘れたけど私もSランクなのよ。この状況で逃げる獲物を逃す訳無いじゃない」
セフィアさんは自分達に背中を見せ尻尾を巻いて逃げる盗賊に対しそれぞれ毒矢を当て絶命させた。
これで残りはこの盗賊達の頭目を残すのみ。
「お、俺が悪かったぁぁぁぁぁっ、い、命だけは御許しをーーーーっ」
たった一人残った親分が地面に這いつくばり頭をこすりつけて許しを請う。
絶対に命が助からない状況下で、プライドを捨て命乞いをする事は間違いではないが、しかしこいつは悪党だ命乞いをしたところで許すと言う気にはなれない。
「だってさ、エリク君」
「ははは、どうせ僕達が許した瞬間闇討ちするんでしょ」
エリクさんが頭目にカマを掛ける。右手に地属性の魔法を宿しながら。
「そそそ、そんな事御座いませぬ。デザートスコーピオンの名に誓ってそんな悪事致しませぬ」
「そうねぇ? 私はアナタが何人の人間を殺して何人の女性を売り飛ばしたかの情報位は知っているのよね。ごめんなさいね、悪党が沢山居る世の中のせいでアナタに手を回すのが遅れちゃって」
「ホント、その辺難しいんですよね。僕達が悪党を狩り尽くしちゃうとBランク位の冒険者の稼ぎを奪っちゃいますし、だからと言って見逃してしまっては被害者が続出してしまいますし」
「そ、だから私達には悪党を見逃す理由が無いのよね」
エリクさんとセフィアさんからは、盗賊に対するねっとりとした恨みを感じる。
エリクさん達の過去に何があるのか気になる所だが、盗賊からやられる事と言われたら概ね想像は付くか。
「ひ、ひぃぃぃ、お、お許しを、命だけはああああっ」
頭目はエリクさんとセフィアさんに対して必死に命乞いをする。
「カイルさん。僕から提案があります」
何かを思いついたのか、エリクさんが俺に近付く。




