15話
「ぐぎゃあああああおおおお」
強烈な痛みに耐えかねた見習いオークが大きな悲鳴を上げる。
岩石矢の威力は十分と判断した俺は続いて風属性の初歩魔法である風刃を同じ見習いオークに向け放つ。
俺の手の平から放たれた無数の空気の刃が見習いオークの全身を襲い掛かる。
ズタズタズタと肉を切り裂く音が聞こえ、風刃により切り裂かれた肉体からはおびただしい量の血渋きが飛び散っている。
だが、見習いオークが先程の様な悲鳴をあげる事は無く、左肩の痛みを堪えながらもこの程度の魔法は大した事は無いと強がっている様にも見えるが、この魔法は広範囲に攻撃が可能な反面岩石矢に比べて威力が落ちると考えれば見習いオークの身を刻みはしたものの大したダメージを与えていないのかもしれない。
続いて炎の魔法、と言いたいところだがここは森の奥だ。
間違って森林火災を起こそうものなら自分達が死にかねない、止めておくべきだ。
俺は自分が扱える最後の属性、水属性の初歩魔法である水銃の魔法を見習いオークの心臓に狙いを定め放つ。
俺の手の平から放たれた水の弾丸はパン、と高い音を立てシュンと風を切る音を立てながら見習いオークの心臓に直撃をした。
俺の魔法を受け手負いだからか、先程放った岩石矢よりも弾速が早かったのか定かでは無いが、見習いオークは自分に向け放たれた(水銃)に反応する事すら出来なかった。
俺の水銃で心臓を貫かれた見習いオークは右手で心臓部分を抑えながらその場に崩れ落ち、鋭い眼光で俺を睨むが、程無くして力尽きたのかその場に倒れ伏せ動く事は無かった。
残った見習いオークは、最初の2体と同じく横方向の両断と縦方向の両断にて手早く討伐を終わらせた。
俺が討伐した5体の見習いオークはその身を直径3センチ程の魔石へと変貌させた。
俺はそれ等の魔石を回収し、テントへ戻った。
「楽勝だったね」
「そうだな」
ルッカさんも丁度5体の見習いオークを討伐し終えた様で、テントの前にてほぼ同じタイミングで合流した。
俺は見習いオークの魔石を2つルミリナさんに手渡し、テントの中に入った。
ルッカさんも同じくルミリナさんに、見習いオークの魔石を2つ手渡したみたいだ。
「ふぇ? カイルさん? ルッカさん?」
「いや、疲れたから寝るよ」
ルミリナさんが何を言いたいか大体予想が付き、押し問答になっても面倒だと思った俺はルミリナさんを振り返る事無く寝床に入った。
「細かい事は後で考えれば良いのよ、私も疲れちゃったから寝るよ」
ルッカさんも俺と同じ様な考えをしているのだろう、ルミリナさんに何も言わせないまま寝床に入ったのだった。
「あ、有難う御座います」
ルミリナさんは空気を上手く読んだのか、少し戸惑いを見せた後同じく寝床についたみたいだった。
翌朝。
今度こそ睡眠中に誰からも邪魔されず、テントの隙間から僅かに差し込む太陽の光、樹々で羽を休める鳥達の美しいさえずりにより気持ちの良い目覚めを迎える。
野営である事もあり疲労感の残る身体を軽く伸ばしながらテントの外へ出た。
空を見上げ、ほど良い強さで地上へと光を運ぶ太陽を、やはり眩しいと感じる。
さて、見習いオークは想定外に迎撃をした形で10体討伐済みだ。
確か、今回の依頼は見習いオークを10体以上討伐してくれと言う話で、このままセザールタウンに変えれば依頼は達成となる。
が、折角森の奥までやって来たのだからせめてお昼までは見習いオークを討伐しておきたい所か。
「さっ、今日も頑張りましょ」
テントの外で、ルッカさんが身体を大きく伸ばしながら言う。
ルッカさんのやる気は高そうだ。
「そうだな、頑張ろう」
「はい、私も頑張ります」
俺達は、まずは朝食を取った後野営の為に展開したテント等を片付け、見習いオークを探すべく森の奥へと進み、ところどころで2~3体の見習いオーク達を見付けは討伐、偶に単独行動を行っている者もいたが無関係に討伐して行った。
見習いオーク達は総じて俺達を弱い人間と思っているみたいで俺達が奴等に近付くと奴等の方から積極的に近づいて来てくれ、奴等の討伐は比較的楽に進んだ。
大体20体程の見習いオークを討伐し、ふと空を見上げると太陽は結構高い位置にいた。
体感で経過した時間を考慮すると恐らくは正午前だろう、11時位か? 今日中にセザールタウンへと帰るには丁度良い時間位だ。
俺はルッカさんとルミリナさんに対し、セザールタウンへ戻る旨を伝えると、二人ともそれを了承し、ルッカさんが携帯用の食料からパンに干し肉を挟んだサンドイッチをパパっと作り上げ俺とルミリナさんに渡した。
ルッカさんから貰ったサンドイッチを有難く食すと俺達はセザールタウンへの帰路に着いた。
―冒険者ギルド―
無事見習いオークの討伐を終えセザールタウンにある冒険者ギルド前に辿り着いた時、夕日が既に沈み掛けていた。
幸いにも冒険者ギルドはまだ空いているみたいで、俺達は見習いオーク討伐の報告を上げる為、冒険者ギルドの中へと入った。
冒険者ギルドの受付には、リンカさんが暇そうにあくびをしながらボーっと冒険者ギルドの入り口付近を眺めていたが、俺と目が合うとにこやかな笑顔を見せ、手を振った。
俺はリンカさんに軽く会釈をすると、彼女の前へと向かった。
「カイル様おかえりなさいませ。早速報告の為冒険者カードをお願いします」
リンカさんに言われ、俺達は冒険者カードを彼女の前に差し出した。
俺達から冒険者カードを受け取ったリンカさんは、自身の近くにある近くにある道具にカードを刺し操作を始め、その操作が終わると冒険者カードを俺達に返した。
「素晴らしい成果ですね、カイル様。流石はセザール学園首席で御座いますね」
俺達の戦果を見たリンカさんがにこやかな笑顔を見せながら言う。
「いや、俺一人の力じゃないよ」
「そうですね、失礼いたしました。ルッカ様もセザール学園次席にふさわしい成果ですね」
「当然よ」
ルッカさんは、得意気にフフンと笑って見せた。
「カイル様達の冒険者カードに入れられた魔石の数は均等ですが、その数に応じた報酬杯分で宜しかったでしょうか?」
「構いませんよ」
「そうですか、入手した魔石は換金しても構いませんか?」
「はい」
俺の返事に対しリンカさんが何か言いたげな視線を送り、数秒の間を経て報奨金の清算作業へと移行しその作業が終わると、
「見習いオークを討伐した際に生じた報奨金、魔石を換金したお金をお受け取り下さい」
お金が入れられた3つの布製の小袋を俺達の前に差し出した。
無事見習いオーク討伐の清算を終えた俺達は冒険者ギルドを後にした。
「あのっ、本当に良いのですか?」
「何が?」
「えっと、その、お世話になりっぱなしでしたのに、報酬を等分で頂いちゃっても」
「お金が必要なんだろう? 気にする必要は無いぜ?」
「そうそう、私は困っている人を見たら助けなきゃ気が済まないから気にしても仕方無いよ」
「本当に有難うございました」
俺とルッカさんの言葉を受けたルミリナさんが、深々とお辞儀をしながらお礼の言葉を述べる。
「こちらこそ有難う、ルミリナさんの支援魔法のお陰で精神的な余裕が出来たからね」
「そうよ、カイルの言う通り、プリーストは居てくれるだけで安心できるからね、私からもありがとね」
「また、一緒に依頼をこなそう」
俺はルミリナさんに対して笑顔を見せた。
「は、はい! またよろしくお願いします」
ルミリナさんは、パァッと明るい笑顔を見せており凄く嬉しそうだった。
もうしばらく歩き進み、皆の帰路が一致しなくなった所でそれぞれの帰路に着いたのであった。




