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11話

「ほ、ほら、私って神聖魔法しか使えないじゃないですか、だから私の魔力を使わない様にカイルさんが気を遣ってくれたんですよ」


 ルミリナさんが、やっぱり俺の背中から仲裁をする。


「それは一理あるな。俺は魔力が尽きても剣を使えば何とかなるし」

「ふーん、そう、なら良いけどー?」


 ルッカさんが少々不貞腐れながら言う。


「ま、防御障壁プロテクションも掛けた事だし先に進もうぜ」


 俺は二人に合図すると、蛇が隠れている樹の根元を何事も無く歩き出した。

 ルミリナさんは俺の背中に手をかけ、隠れる様に身を縮めながらやっぱり蛇が怖そうな雰囲気を出しながらゆっくりと歩いていた。

 仕方無く、俺はルミリナさんの歩調に合わせて暫く歩き続け蛇が隠れている樹の根元から随分と離れた所で俺の背中に掛かっていた僅かな重力から解放された。


「う、うぅ、も、もう大丈夫ですよね」


 蛇からの安全を確保出来たルミリナさんが、力無く呟く。


「蛇は大丈夫だな」

「うぅ、それですと他にも何かいるみたいに聞こえます」

「まぁ、ここは森の中だからな、コウモリとかも居るんじゃない?」

「あわわわわ、コウモリさんも怖いです」


 またしても涙声をあげるルミリナさんだ。

 確かに、コウモリもじっくり見たら割と不気味な顔しているから怖いと言われれば怖いのだが、ルミリナさんがここまで恐怖心を抱く生物が多いと、ルミリナさんが冒険者としてやっていく事に対してやはり不安感を抱いてしまうが、新人の女の子、特にプリーストならそんなモノなのだろうか?

 俺は隣を歩くルッカさんをチラ見するが、ルミリナさんの様に何かに怯えている様子は微塵も感じられない。


 どちらかと言うと、陽が沈み掛けてかなり暗くなっている森の道中を楽しんでいる様にも見える。

 同じ女の子であるルッカさんとルミリナさんでこうも恐怖心の抱き易さが違うと言うのは興味深い事と言えばそうなる訳だが。


「ははは、確かにコウモリって悪魔みたいでなんか怖いよね」


 だからと言って言葉に出す訳にもいかず、ルミリナさんの言葉に対して俺は適当に相槌を打っておいた。


「それもそうねぇ、コウモリって全体のシルエット自体は悪く無いから私は気にならないんだけど。だからと言って可食部も少ないし食料にするのは難しいから私はコウモリには興味無いわ」


 涼しい顔をしながらコウモリについての所感を述べるルッカさんだ。

 確かにルッカさんは料理が上手く、学生時代は暇があれば俺に何かしらの料理を作ってくれた訳だが。

 だからと言って、その時俺に作ってくれた料理は概ね一般的な食事であり、コウモリや蛇と言ったサバイバル状況で仕方なく食材にしなければならない様なモノを使用して来た事は無いが。


「逆に食料に適している動物は何なんだ?」

「パッと浮かぶのは猪ね。街で流通してる豚肉に近い感じよ、ただ獣臭い事と肉質が硬い事がネックだけど、サバイバル状況下なら十分過ぎる御馳走だわ。学校の授業で1度位食べた事無かったかしら?」


 ルッカさんの話を聞いているとサバイバル系の知識が豊富だと痛感させられる。

 この辺りレンジャー学部の範囲なんだけど、俺も試験を突破する為に勉強こそしたがその知識を根付かせる事まではしていないからルッカさんみたく咄嗟にその知識を引き出す事は出来ない。


「そう言えばレンジャーの授業で1度食べた事あったか。あんまり美味しい覚えは無かったっけ」

「そうですか? 私は嫌いじゃなかったです」

「あら? 意外ね。私は大体自分で調理するから気にしないってのはあるんだけど」

「自然に囲まれた環境で食べたから良かったのかもしれないです」


 ルミリナさんが言う通り、周りの環境が食べる物を美味しくする作用はあるが、だからと言って俺自身また猪の肉を食べたいかと言われたらあまり乗り気ではない。


「さてと、陽も沈んで来たしそろそろ照明ライティングを使う、で、野営に適した場所を探そう」


 猪についての話に一段落した所で俺は『照明ライティング』を使い、生み出した直系10cm程の光球を自分の斜め前方向に配置し周囲を照らす灯りを確保した。


「仕方ないわね、暗い森を探索したかったけどちょっと疲れちゃったしね」


 ルッカさんはルミリナさんをチラ見しながら言う。

 好奇心旺盛なルッカさんが休息を優先しているが、多分ルッカさんはルミリナさんを気遣っているのだろう。

 既に陽は落ち、光源は照明ライティングにより産み出された光の球体のみだ。

 漆黒の闇が広がる森林からは鳥のさえずりは聴こえなくなり、時折風が揺らす樹々の葉が音を産み出す位で不気味な静けさも保っている。

 その様な空気の中、ルッカさんは相変わらずな様子でこの暗闇を楽しんでいる様にも見え、ルミリナさんはやはり、この暗闇に恐怖を覚えるのか俺の背後に隠れる様に縋りながらゆっくりとした歩みで1歩ずつ進んでいる。


 陽が沈み、漆黒の闇に包まれているけもの道を30分程歩いた位だろうか、右手前方に地面の土はやや湿り気を帯び、枯葉が程無く落ちている開けたエリアを見付ける事が出来た。

 これ位の広場ならば10人位の人間が野営を行っても差し支え無さそうであり、3人で行動をしている俺達ならば野営を行うには十分過ぎる広場だった。

 俺は広場の中央に光球を滞空させ広場の光源を確保し、野営の準備を行った。

 程無くして、テントの設営が終わり寝床の確保は完了した。

 後はこのテントに結界を張れば安全に朝を迎える事が出来るだろう。


「ねぇ、カイル?」


 俺が寝床とするテントの周囲に結界を張り終えた所でルッカさんが俺の元に近付いて来た。


「どうした?」

「ご飯を食べ終えたら少し明かりを消して欲しいかなーなんて」


 ルッカさんは腰の辺りで手を組み珍しく女の子っぽい雰囲気を見せている。


「それは構わないが」


 珍しい、一体何だろうか? 特に何かあるとは思えないが。


「ふふっ、ありがと」


 ルッカさんがウィンクを一つ見せると広場の中央に向かって行った。

 多分、食事の準備をするのだろう。

 俺が思った通り、ルッカさんは荷物入れの中から地面に敷く布製のシートを取り出し、地面に敷き、木製の食器を取り出しその上に携帯用食料を乗せた。

 木製皿の上に携帯用食料を乗せ終えたルッカさんは、俺とルミリナさんにその皿を手渡した。

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