10話
「そ、それじゃ、休憩も取れたし先に進もうぜ?」
これ以上この話をしているとどんどん泥沼にハマりそうな気がした俺は、二人に対して先に進む事を促すと、二人が了承したので再び見習いオークの出没する森林エリアに向け歩き出した。
俺とルッカさんとルミリナさんの3人他愛の無い話を繰り広げながら、見習いオークが出現する森林エリアに辿り着いた。
見習いオーク討伐の依頼書によると、セザール平原を拠点とするオーク達が若いオーク達を鍛え上げる為にこの森の中を鍛錬エリアにしている事。
ただ、小規模な集落を作っておりこの森の入り口付近で住居を構える人達が育てている作物を夜な夜な奪い取ったり、見習いオーク達の食料として家畜を奪ったり、酷いケースでは住民に危害を加える事もあるとの事だった。
依頼書に書かれている文章を見る限り、結構な被害で放置しておけばこれらの人々はここに住む事が出来ない位だ。もしも、俺達みたいなEランク相応の冒険者達が見習いオークの討伐に誰も向かわなかった場合、転移魔法を扱える高ランク冒険者が対応してくれるらしい。
依頼主の安全と、俺達新人付近冒険者の仕事をあっせんし生活を守る為のバランスは結構難しいんじゃないかなと考えさせられる。
また、冒険者ギルドからの貴方には見習いオークを討伐するのは無謀だと言う通告を無視したり、セザール平原にてゴブリン等の魔物を狩った後勢いに任せて見習いオークの討伐を試み、失敗したFランク冒険者もおり、残念ながら彼等は見習いオーク達により惨殺され命を落とす事になる。
それでも、後衛を務めるウィザードやプリーストならば命からがら逃げられるかもしれないが、目の前で前衛を務めるファイターやナイトが見習いオークにより惨殺される様子を目に焼き付けてしまった彼等は身体だけでなく心にも深い傷を負ってしまうだろう。
無謀な魔物に挑んで命を失う事もあれば、それを間近で目撃し心を崩壊させ冒険者家業を行えなくなった新人冒険者もそれなりに居るらしい。
厳しく言うならば、それ等の精神力を持つか否かも冒険者に必要な才能なのだろう。
「へへへ、カオス学長から貰った武器、どんな性能なのかな? ワクワクするね」
森の中に入ると、依頼書を眺めながら冒険者と言う稼業について考察していた俺とは裏腹にルッカさんがご機嫌そうに言う。
確かに俺もカオス学長からホールス・ソーラと言う凄い武器を貰ったのだけど、この武器の性能よりも冒険者として身の振舞い方についての方が気になって仕方が無かった。
大体、そろそろ陽が沈みかかって夜になりそうなちょっとばかり暗い時間なのによくもまぁそんなお気楽な考えが出来るのか少しばかり不思議に思ってしまう。
単に、性格の差なんだろうけどさ。
「んーまぁ、そうだね」
だからと言って今思っている事を口にしてもめんどくさい言い合いにしかならないだろうから俺は、ルッカさんに対して適当に合わせておいた。
「ここの森って随分と歩き易いですね」
森の中を暫し進んだところ、ルミリナさんが言う通りこの森は派手にぬかるんでいて1歩進むだけで苦労するだの、樹々に行く手を塞がれ前に進む事もままならない、なんて事は無い。
「けもの道って奴ね」
「ふぇ? けもの道ですか?」
「そうよ、この辺りに住んでいる動物達が移動用に使っている内に道みたいに歩き易くなっているのよ」
「え? え? だったら熊さんとか出るんですか?」
けもの道と言う言葉を聞いたルミリナさんが恐怖感を抱いているのか少しばかり身体を震わせている様に見える。
「いや、確かに熊も出るかもしれないけど、俺達はそれよりも脅威的な魔物を討伐しに来た訳で」
勿論、その熊が熊の魔物だった場合は見習いオークよりも脅威と思うけど、冒険者ギルドからそんな話は聞いていないからこのエリアには熊の魔物は居ないと思う。
「ううう、そ、そうなんですか、熊さんよりも見習いオークさんの方が強いんですね」
恐怖心が強くなっているのだろうか少しばかり瞳を潤ませているルミリナさん。
「そりゃ、魔物だからね。でもEランクの魔物相手だったら俺の『防御障壁』を掛けておけば大丈夫だし、ルミリナさんの『防御障壁』も重ねれば心配する必要は無いよ」
「あ、あははは、そ、そうですよね、私とカイルさんの『防御障壁』があれば熊さん相手でも大丈夫ですよね」
あれ? ルミリナさんは見習いオークよりも熊の方が怖いって事か?
確かに魔物とは言え豚型の二足歩行をしている魔物よりは熊の方が怖いと思うけど、武器を扱う分見習いオークの方が脅威ではあるんだけどなぁ。
「そうだね一般的な熊相手なら大丈夫だね」
ルミリナさんの恐怖心を煽っても仕方が無いので、ルミリナさんの言葉に対して適当に合わせておいた。
「カイル? あっちの樹の根元に何かいない?」
ルッカさんが、少し先に生えている樹の根元を指差しながら言う。
「ホントだ、何かいるね」
「え? え? え? 熊さんですか!?」
ルミリナさんがあわあわとしながら、俺の背中に隠れた。
「蛇みたいね、毒は無いタイプだけど」
「ならほっとくか? 食えないだろ?」
特に害が無い動物を無意味に殺生しても後味が悪いだけだし。
「食べられない事は無いと思うけど、寄生虫辺りが心配ってところかしら」
「でもまぁ、食料に困っている状況でも無いし」
前方に居る蛇の放置を決め様とするが、
「う、うぅ、へ、へびさんも苦手ですよぅ……」
俺の背中で涙声をあげるルミリナさんだ。
ここまで苦手な生物が居ると、これから先冒険者として大丈夫なのかと心配になってしまうが。
「なら、防御障壁掛けるよ、アレ位の蛇相手なら俺の防御障壁を貫通する事は不可能だし」
俺はルミリナさんに『防御障壁』を掛け、前方に見える蛇からの攻撃を受け止められる様にした。
「ねぇ、カイル? ルミリナちゃんなら自分で防御障壁掛けれるよね?」
何だかよく分からないが、ルッカさんがムッとした表情を浮かべながら俺を睨みつけて来た。
「掛けれるけど? 別に誰が掛けても良くね?」
「本気で言ってるワケ?」
「本気だけど何でだ?」
「フツー、ルミリナちゃんの気を引きたいとか言うんじゃない?」
何だかよく分からないが、ルッカさんの表情が元に戻る。




